大阪でよく見かける「モータープール」の看板。プールといっても、水泳プールではなく駐車場を指しています。なぜ大阪では駐車場を「モータープール」と呼ぶことが多いのでしょうか。

東京では通じない「モータープール」?

 大阪ではしばしば、「モータープール」と名乗る駐車場を見かけることがあります。


「モータープール」の名がついた大阪の月極駐車場(乗りものニュース編集部撮影)

 たとえば阪急梅田駅(大阪市北区)の北側に、「プラザモータープール」という駐車場があります。高速バスのりばとしても利用されていますが、同駐車場の管理人によると、高速バスを利用する若い人から「(水泳)プールじゃなかったんだ」という声をたまに聞くそうです。

 ある駐車場システムメーカーは、「『モータープール』という名称の駐車場は、大阪に圧倒的に多いです。割合は東京を1とすれば、大阪は99でしょう」と話します。

 なぜ、大阪では駐車場が「モータープール」と呼ばれるのでしょうか。大阪市港区と中央区の民間駐車場をまとめる大阪駐車協会(大阪市港区)に聞きました。

――なぜ大阪では「モータープール」というのでしょうか?

 わかりません。「プール」には本来、何かが「集まる」という意味があるので、「クルマが集まる場所」という認識です。

――大阪では駐車場を「モータープール」と呼ぶ決まりがあるのでしょうか?

 決まりはありません。ただ当協会に加盟している駐車場では、港区内だけでも「〇〇モータープール」の名称が8割以上です。新たに駐車場をつくる場合に、まず「〇〇モータープール」として警察に届け出ると、付近に同名の駐車場があるので名前を変えてほしいといわれ、「〇〇駐車場」や「〇〇パーキング」にするケースがあるほどです。

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 全国の駐車協会をまとめる全日本駐車協会(東京都千代田区)によると、「『モータープール』という言葉は、もともと日本ではなじみがなく、少なくとも東京ではその名の付く駐車場はほとんどないので、東京の人には通じないでしょう」といいます。

 また『カタカナ・外来語/略語辞典』(『現代用語の基礎知識』編集部編、自由国民社)には、「モータープール」は「軍隊や官庁の集中配車場。日本では誤って駐車場にも使われる」とあります。前出の駐車場システムメーカーは、「自衛隊では現在でも配車場のことを『モータープール』と呼んでいるため、もしかしたら軍用語もしくは和製英語が発祥なのかもしれません」と話します。

少なくとも昭和20年代から「モータープール」 進駐軍との関係も?

 大阪で駐車場を「モータープール」と呼ぶルーツを探るべく、大阪府立中之島図書館による協力のもと、資料を調べました。

「モータープール」と名の付く駐車場の古い例は、昭和20年代後半にさかのぼります。『阪急不動産の50年史』(社史編纂委員会、阪急不動産)には1953(昭和28)年、阪急梅田駅の南東に「梅田モータープール」が開業したと記されています。ちなみに2017年6月現在、この場所にあるのは商業ビル「HEP FIVE」(ヘップファイブ)です。

 また、「梅田モータープール」ができた年である1953年5月20日付けの毎日新聞によると、国鉄大阪駅前に当時日本一の高さだった地上12階建ての「第一生命ビルディング」が誕生し、「地下2、3階にモータープールを備えた」との文言があります。今回の調査で確認できた、駐車場を「モータープール」と呼称するもっとも古い記録はこの2件でした。

 阪急不動産および、第一生命ビルディング(現・大阪第一生命ビル)の所有者である株式会社第一ビルディングの関西統括事業所(大阪市淀川区)に、「モータープール」という呼称の由来を聞きましたが、いずれも「わからない」との回答でした。さすがに古い話で、両社ともわかる人が社内にいないそうです。


現在の「HEP FIVE」の場所にはかつて「梅田モータープール」があったほか、大阪第一生命ビルの地下2、3階にもモータープールが設けられていた(国土地理院の地図を加工)。

 なお、戦後、進駐軍のクルマの待機場所を「モータープール」と呼んでいたことにルーツがあるという説もあり、上記の「梅田モータープール」があった場所はかつて進駐軍の接収地だったそうです。しかし、進駐軍がこの接収地をどのように使用していたかは不明で、「梅田モータープール」という名称との関連についても確認はできませんでした。

【写真】お風呂じゃない「バスプール」?


バスターミナルを「バスプール」と呼ぶこともある。仙台駅前では交差点名にもなっている(乗りものニュース編集部撮影)。