「ファイターズに関係ある高校」は準ファイターズだ

 「海の日」の祝日、オールスター明けのプロ野球が一斉に再開された。と思いきや、日ハムと楽天だけ試合がなかったのだ。全パの指揮を執った栗山英樹監督はそれもあって谷元圭介を連投させたのかもしれない。僕は自動的に早起きである。高校野球・東東京予選4回戦の好カード「帝京×日大豊山」(8時半、神宮球場)を見に行った。


日大豊山×帝京 ©えのきどいちろう

 もちろん帝京の応援である。帝京はファイターズの杉谷拳士、松本剛、石川亮、郡拓也の出身校だ。OBにも芝草宇宙、森本稀哲ら人気選手がいた。僕にとって高校は2通りだ。「ファイターズに関係ある高校」と「関係ない高校」。

「ファイターズに関係ある高校」は基本的には現役選手やOBの出身校だ。例外的には阿井英二郎元ヘッドコーチがかつて監督を務めた埼玉県の川越東高校も応援する。厳密にカウントしたら大変な学校数になってしまう(忙しくて仕事にも何にもならない)から、毎年、試合日程と休みの日を勘案して、近場の行ける範囲でコツコツ頑張っている。むちゃくちゃなことを言うが「ファイターズに関係ある高校」は、僕にとって準ファイターズなのだ。とても放ってはおけない。

 その選手の高校時代のプレーを見ているケースはもちろん感慨もひとしおだ。僕は横浜高校時代の近藤健介、淺間大基、高濱祐仁を保土ヶ谷球場やハマスタで見ている。応援に出かけるとそのときのことをありありと思い出す。

 が、直接見ていない場合でも、出身校の試合応援は、光景のなかにその選手をポンと置いてみることができる。あぁ、たぶんこんな感じだったんじゃないかな、応援のときはこんなコールがかかったんだろうな、と想像する楽しみがある。だからアレだなぁ、好きな人が出来たりするとその人の故郷を一目見てみたいなぁと思うじゃないか。そういう心理に似ている。「そうか、あいつここにいたんだなぁ」というやつ。

 で、その追体験のようなものを記憶の引き出しにしまっておくと、意外とプロ野球の実戦を味わい深く見られたりする。今季は中村勝(春日部共栄)が県営大宮球場、上沢直之(専大松戸)がZOZOマリンで再起のマウンドに立った。高校時代に慣れ親しんだマウンドに立たせてやろうという配慮だ。投手は球場の風景や、マウンドの傾斜、固さや柔らかさといったイメージを持ってるだけでアドバンテージになる。また御家族や学校時代の仲間が球場に駆けつけているかもしれない。目の前の「投げた打った」も大事だが、そこにプラスして色々想像を働かせるほうが断然面白い。

ファイターズの「帝京魂」の系譜

 前日には神奈川県予選2回戦「慶応×相模原総合」(バッティングパレス相石スタジアムひらつか)にも行ってきた。もちろん白村明弘の母校・慶応の応援だ。つまり、2日連続で「ファイターズに関係ある高校」応援だ。祝日の神宮球場は強豪校が目白押しとあって大盛況だった。内階段を上がり暗がりからスタンドに出ると、強烈な陽ざしのなか帝京のタテ縞ユニホームが目に飛び込んでくる。帝京高校、神宮がしっくり来るなぁ。ファイターズの「帝京魂」の系譜を思う。皆、このユニホームを着ていたのだ。

「帝京魂」の典型はもちろん杉谷拳士だろう。キャラが立つ。持ち味の明るさは森本稀哲にも通じるし、石川亮、郡拓也にも共通する。帝京・前田三夫監督は人間性を重視する方だと聞く。特に捕手の明るさ、コミュニケーション能力を大事にされるそうだ。投手の気持ちを上げ、チームの雰囲気を変える個性を求めているのだろう。

 僕は20代の頃、まだ活版雑誌だった『週刊セブンティーン』の仕事で、とんねるずのお二人を取材したことがある。バラエティで人気爆発、武道館でコンサート(昼夜2回公演!)をしていた時代だ。駆け出しライターの僕が通した企画は「週刊セブンティーンはとんねるずに謝ります!」という見出しだった。今の『Seventeen』誌からは想像もつかないが、昔は高校スポーツのページがあったのだ。とんねるず在学時の帝京高校にも取材は行ってたはずだ。が、数年後の人気者を集英社取材班は見逃していた。ぜひあらためて選手として取材させてほしい。

 そのとき石橋貴明さんが話してくれた帝京野球部ストーリーが強く印象に残っている。朝、十条駅で向かいのホームに先輩が見えても直立不動の挨拶を繰り返すこと。1年でいきなりレギュラーを獲るエリートと自分たちとでは筋肉の質からして絶望的に違っていたこと。猛練習の厳しさと、その反動(?)で一発芸やなんかでチームを盛り上げる笑いの伝統が息づいていること。なるほどなぁと思った。とんねるずは「補欠部員」の爆発的なエネルギーが初志なのだ。

僕は今季、松本剛を応援する

 で、今日の本題は松本剛である。今季、大ブレークしたライジングスター。「交流戦首位打者」を丸佳浩(広島)と争い、僅差で敗れはしたものの近藤健介欠場の穴を埋める活躍だ。僕は今、気がつくと松本剛の打席を待っている。毎打席、本当に見応えがあるのだ。こう、メキメキ成長している感じがする。一瞬だけ静かにすれば集音マイクが「メキメキ」という音を拾うんじゃないか。


交流戦打率2位(.396)の好成績を残した松本剛 ©時事通信社

 松本剛は「帝京魂」の典型からちょっと離れている気がする。自分を前へ押し出すのでなく、一歩引いてまわりをよく見てるイメージだ。たぶん石橋貴明さんの語った「絶望的に自分と違うエリート」の側だ。名前は「剛」だが、印象は柔らかい。打席に立って、バットで左足のスパイクをポンとやる。知人の女子ファンはそのときの「ちょっと内また気味になる感じがキュンと来る」そうだ。

 バッティングにも柔らかい間がある。プロ6年目、以前とは見違えるほどバットを強く振れるようになったが(普段めっちゃ振り込んでいると思う)、小さないい間を持ってるのは高校時代と同じだ。

 松本剛は帝京の「4番ショート」だった。背番号は6。花巻東の大谷翔平と甲子園で名勝負を繰り広げたのは語り草だ。タテ縞のユニホームが似合っていた。走攻守揃った一級品の素材だ。帝京出身のショートはヒチョリ、杉谷と2人続けてコンバートの憂き目に遭い、松本は三度目の正直だった。が、プロ入り後はやっぱり守備で苦労して、外野へコンバートされる。自慢のバッティングも、プロの水準では迫力を欠いた。

 神宮球場では松本剛の後輩らが日大豊山を相手に苦戦していた。2対2で迎えた6回裏、二死満塁から仁田龍也が走者一掃の2塁打を放つ。ショートの頭を越す会心の当たりだ。一拍あって、バットにきれいに乗せる。松本剛の打撃感覚を連想した。あの感覚をいつ会得して磨いたのか。大飛躍だ。故障者続出のタイミングでチャンスをつかんだ。


帝京高を応援する生徒たち ©えのきどいちろう

 帝京は8対3で見事、日大豊山に勝利した。僕も「4番ショート松本剛」を思い出した。ショートはともかく、中心打者に育つかもしれないよ。それは今季、どこまでやり切れるかにかかっている。がんばれ松本剛! 持ち点全部賭けていいシーズンだ。僕は今季、松本剛をひたすら応援する。

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(えのきど いちろう)