それがおいしいという経験から起こる条件反射

すっぱいものを想像しただけでも出る反応。旧ソ連のパブロフが偶然発見。味を知らないものには反応しない

「パブロフの犬」の実験で発見され有名に

目の前においしそうなものがあると、生つばが出る。梅干しやレモンなどすっぱいものだと、想像しただけで生つばが──こんな経験は誰にでもあるでしょう。この現象は「条件反射」という言葉で説明されています。

理科の教科書に載っていたでしょうか、「パブロフの犬」の実験のエピソード。旧ソ連の生理学者、イワン・パブロフが犬を使った実験で偶然発見した動物の反射行動です。20世紀の初め、犬を実験台にして唾液腺(だえきせん)の研究をしていたパブロフは、飼育係の足音で犬が唾液を分泌していることに気づきました。
そこで、犬にいつも同じ音を聞かせてからえさを与える実験を繰り返したところ、そのうちに、その音を聞かせただけで犬は唾液を分泌するようになったというもの。このように、動物が訓練や経験によって後天的に獲得する反射行動は条件反射と呼ばれるようになりました。

つまり、私たちもパブロフの犬と同じ。以前食べたことのあるごちそうを目にすると、そのときの「おいしかった」という印象深い経験が、食べる前から唾液の分泌を自然に促します。梅干しやレモンについても、それがすっぱいという強烈な味わいを知っているから唾液が出てくるのです。それらの、ごちそうも梅干しもレモンも、かつて味わったことがなければ、目の前に出されても生つばは出てこないでしょう。

1日に1.5Lも分泌されている唾液にはさまざまな作用が

条件反射で出てくる唾液ですが、実は食事に関係するとき以外でも常に分泌されています。それでも口の中にたまらないのは、気づかないうちに飲み込んでいるから。食事のときにはとくに多く分泌され、食べ物に水分を含ませて噛(か)みやすくしたり飲み込みやすくしています。そうして分泌される唾液の量は、1日に1〜1.5リットルにも。顔の両側に2つずつある耳下腺(じかせん)、顎下腺(がっかせん)、舌下腺(ぜっかせん)などの大唾液腺で9割が分泌され、残りは口の中全体に分布している小唾液腺から分泌されています。

唾液の役割は、食べ物に水分を含ませるだけではありません。99%が水分という唾液の、残り1%に含まれている消化酵素は、ごはんやパンなどのでんぷんを麦芽糖に変えて腸内での吸収を促し、リゾチームや免疫グロブリンなどの抗菌物質は口の中を殺菌しています。虫歯予防も唾液の重要な役割。食事をすると虫歯菌が出す酸で歯のエナメル質が溶かされて初期の虫歯が発生しますが、唾液に含まれるカルシウムとリン酸がそれを修復するという作用を繰り返しているのです。
食事はよく噛んでといわれますが、それによって唾液の分泌が盛んになるので、食べ物の消化を助けるだけでなく、口の中や歯の健康を保つためにも大切なことです。

唾液の分泌は老化によって低下しますが、糖尿病やある種の自己免疫疾患でも少なくなることがあります。ですから、生つばが、ごちそうを前にして出てきたり、梅干しやレモンを想像しただけで出てくるのは、ごく健康的な条件反射であるといってよいでしょう。

(編集・制作 (株)法研)
※この記事は2013年8月に配信された記事です