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ヤリスGRMN 背景はラリー

20年も昔の話、自動車メーカーはこぞっておのおののロードカーたちに泥臭いラリーマシンの一面を被せ、WRCの舞台で戦いを挑んだ。

なにも1990年代から突然ロードゴーイングバージョンを必要とするルールが制定されたわけではなく、ラリーカーはずっと前からロードカーとしてのDNAも持っている。

さて、ヤリス(日本名:ヴィッツ)GRMNは、トヨタがフィンランドの山脈を160km/hで駆け抜けることができるポテンシャルを市販車に詰め込み、作り上げたマシンだ。

一見するとラリーカーっぽくはないし、4駆でないことに加え爆発的なパワーはなく、特別速いというわけではない。

英国に住むわれわれにとってこのような仕様のクルマは、新参者である印象を受ける。それもそのはず、このクルマは数年前から日本で販売されていたものの、ヨーロッパでの販売展開は今回が初めてであるからだ。

GRMN、なんの頭文字?

トヨタの最高峰スポーティブランドを鼓舞するかのように掲げられたバッジは、今後GT86(日本名:86)や、新しいスープラにも冠され、ヨーロッパ中で目にすることができるようになるだろう。

GRMNという4文字が示すのは、「Gazoo Racing Meister of Nurburgring」の略。つまりニュル・マイスターというわけだけれど、これが詩的に聞こえるのは日本のネイティヴ・スピーカーだけだと思う。

Gazoo RacingはトヨタLMP1を走らせたチームでもあり、ニュルの北コースにある施設でいそいそと開発に従事していた。

ヤリスGRMNは400台がヨーロッパ向けに作られ、そのうちの100台が英国で販売される。値段は£26,295(384万円)となる予定で、4気筒スーパーチャージド1.8ℓエンジンは210psを発生させる仕様だ。

トヨタは大胆にも「ヤリスGRMNは前輪駆動のスタイルは崩さずに軽さ重視で俊敏、かつ同クラスのなかでもパワフルであるようになっていて、ボディは硬く、スプリングとダンパーは専用品、そしてトルセンLSDも装備されています」と宣言する。

「300psで4駆」構想、はじめから却下

「来る日も来る日もチャレンジの連続でした」と語っていたのはプロジェク・リーダーを務めたスティン・ピータース。「プロジェクトが頓挫することもありましたが、経営陣からのサポートが常々あったのでやり遂げられました」

トヨタともあろう会社が、やみくもに生産計画を立てたわけではない。

ベースモデルの販売台数とは比較にならないほど限定的な仕様のクルマを短期間で画策し、実現しようと取り組んだ結果がこのヤリスGRMNである。

現にピータースとチーフエンジニアは突貫工事でこのプロジェクトを進めることとなるが、皆が思いつくような、300psで4駆といったような構想は最初の会議で却下されたという。

乗った感じはどうだろう?

ヤリスGRMN 走らせた印象は?

ちなみに生産は秋ごろまで開始されない。つまりこれは、このクルマが「未完成」であるということを意味していて、確かにプロトタイプのクルマの範疇だが乗った感じはすこぶる楽しい。

そして何より、硬いままのダンパーや、ドライブモードを選択することもないヤリスGRMNは、ほかのホットハッチ同様ゴキゲンなサウンドを奏で、至極シンプルである。

特別開発のシートに身を収める。サポートは充分であり、GT86よりも少し高い位置で固定されていて、ステアリングとの距離はあまりゆとりがない。

ペダル類はヒール&トウを行うには少々不満な配置だが、世界基準を標榜するトヨタらしい万人が扱える配置といったところだろう。

シャシーは言われていた通りの良さで、コーナーでも良い仕上がりなのだが、路面の衝撃を吸収するという点では今一歩である。ヤリスGRMNが履くタイヤやバケットシートの感じから連想されるイメージは、小さなラリーカーのようであった。

グリップやエンジンフィールも検証

ブリヂストン製タイヤは程よくグリップに富んでおり、クルマの限界を知るためには良い選択。ただしベストなグリップ力ではないのでその点がフラストレーションに繋がってしまいかねないのもまた事実。

ターボパワーで蹴っ飛ばされるようなエンジンフィールではないが、スーパーチャージドエンジンは充分パワフルと言える。ターボのようなラグは感じられず、レスポンスも申し分ない。

LSDの効きに関しては正直微妙だが、コーナーではトラクションを稼ぐのに効果的な働きをしてくれる。

マニュアルギアボックスの操作感は、まだいそいそした感じだが、ステアリングフィールはまともで、ブレーキは4ポッドの強靭なもの。効きは必要にして充分、である。

値段なんて楽しさに比べたら大した問題ではない。ヤリスGRMNは当初想像していたような、ラリーカーをデチューンしたクルマではないが、それでも間違いなくホットハッチである。

トヨタは的確に改良をすすめるだろう。正式にデビューしたら、欧州メーカーにとって気がかりな存在になるはずだ。