ピラミッドが三角形のままだと、脱落者が出てくるはずだ。しかし、頂点がたくさんの逆台形なら――。
 
「指導者、トレーナー、審判など、いろんな頂点を目指せます。完成させたいのは、この逆台形モデルです」
 
 背景にあるのが女子サッカーの構造的な問題だ。石山はピラミッドの頂点を指差しながら、指摘する。「ここまで行っても、プロとして一生食べていけるわけではない。ピラミッドが三角形のままだと、セカンドキャリアの問題が付きまといます」。
 
 早稲田大学大学院の社会人修士課程で学んだ、平田竹男の教えをアレンジした女子サッカーの台形モデルでは“学び直し”がキーワードのひとつとなる。
 
「現役のなでしこリーガーは約900人。その1割でも2割でも学び直せるように、大学が門戸を開く。格好の受け皿になれるのが十文字学園女子大学なんです。資格や免許の取得に繋がる学科ばかりですから」
 
 児童教育学科なら小学校の教員免許が取れる。食物栄養学科であれば管理栄養士に、健康栄養学科であれば保健体育の先生に、幼児教育学科であれば……と、石山は指折り数えてから、さらなる構想を口にする。
 
「社会人入学枠を設けて、授業料をいくらか減免する。そんな枠組みも必要になってくると思います」
 女子の社会人選手が十文字ベントスで競技を続けながら、十文字大学で学び直し、デュアルキャリアを築くそんな人生設計も可能になる。
 
「サッカーを通して培った忍耐強さ、出会った多くの人たちとの人間関係、あきらめない気持ち……。そういうベースができていますから、幸せな次の道が絶対ありますよ。たとえ一度はサッカーから離れたとしても、また戻ってくればいい。それぞれの頂点で、できればこれからの女子サッカーを支えてほしい」
 
 女性が様々な世界でもっと輝ける未来へ、石山は腹を括っている。
 
「女性に勇気を与えるような仕組みを、このクラブで作っていきたい」
 
 石山は愛嬌たっぷりの表情で、こう付け加えた。「今はまだ3部なんで、1部で引退間際のトッププレーヤーが、ウチに来てくれたらとも密かに思っていて。エッヘッヘ。すみません、セコい考えで(笑)。でも、そういうのもいいんじゃないかな」。
 
「サッカーからは逸脱した大きな話になってますけどね」
 
 そう言って、ハッハッハと人懐っこく笑う石山の構想には、さらなる広がりがある。「ベントスのホームゲームでは、なでしこリーグの運営を学生たちに手伝ってもらいます。ある種のインターンシップです」。
 
 石山の講義の受講生に募集を掛けると、30人ほどが手を挙げた。それとは別に、同じ十文字大学でスポーツマネジメントの同好会も立ち上げる。いずれも一般の学生から、かなりの反響があると言う。大学生のサッカー部員は、ベントスのアカデミーで子どもたちを教えている。
 
「たくさんは雇えませんが、アルバイト料も出ますから」
 
 既存の枠組みからはみ出した挑戦の肝となるのが、地域との連携だ。
 
「日本でスポーツの発展を阻んでいるのが、ハードの問題。試合や練習の場所がない。この国は狭いからだって話、ありますよね。ところが大学の塀をひょいと越えれば、授業でしか使っていない人工芝のグラウンドが眠っていたりするわけです」
 
 進めているのは、校庭開放のような場所だけを貸す試みではない。指導やサポートといったソフトをセットにする持続性の高い学園開放だ。
 
「プールが空いてるぜ。体育館も使えるぞ。じゃあ、水泳教室やマタニティ教室もできるじゃないか。大学には人もいます。いろんな競技の指導者、ドクター、栄養学の先生と、それぞれ専門分野も違います」