「女性に勇気を与える仕組みを」――オールなでしこ“十文字FC”の仕掛け人、石山隆之の考える未来とは?
サッカー部員の成績優秀者の比率は、かなり高い。具体的なパーセンテージを教えてくれた石山は、こう付け加えて笑いを誘った。「ちょっと、えばっちゃいました(笑)」。
石山が温めてきた十文字フットボール構想の実現への追い風となっているのが、今冬の高校選手権優勝だ。
「けっこう前から自分なりの主張はしてきましたが、最近まで見向きもされなかった(笑)。アイツ面白いこと言っているぞって、話を聞いてもらえるようになったのは、選手権の優勝もあるからでしょうね。勝つから注目されるし、でもちゃんと理念を持って地道にやらないと勝てないだろうし。ニワトリが先か、タマゴが先か、分かりません(笑)。勝つのも、ウン、重要ですよ」
4月末の快晴の日曜日、FC十文字ベントスが、なでしこチャレンジリーグの試合に臨んでいた。真昼の日差しは強く、198人と発表された観客の中には半袖の人もいる。
ベントス1点のリードで迎えた後半半ば、CFの中原さやかがタッチライン越しに声を掛けられた。彼女の視線の先には紳士が――。何やら中原にアドバイスを授けている。それまで黙って試合を注視していたその紳士こそ、なでしこジャパンの前監督で、日本の女子サッカーを11年のワールドカップ制覇に導いた佐々木則夫であった。
「なでしこジャパンが、昨年のリオ五輪に出場していたら……」
恐縮した表情で石山が振り返る。
「ノリさんの十文字大学副学長就任は、なかったでしょう。ベントスのなでしこリーグ参戦に許可が下りたのも、ノリさんのおかげで学内の機運が一気に高まったからなんです」
ベントスはチャレンジリーグ参戦に必要な諸条件の審査を通過し、16年秋の入れ替え戦を勝ち抜いた。石山の構想にとって、なでしこリーグへの参入は重要だった。
「世界に類のない女子サッカーのピラミッド作り。それが自分のビジョンであり、ミッションなんです」
そう言うと石山は大きな紙を取り出し、実際にピラミッドの図を書き出した。最上層にトップチームのベントスがあり、次の層に大学、その下に高校、その下に中学の各サッカー部と裾野が広がっていく。ベントスにはジュニアユースがあり、ジュニアやキンダーのアカデミーもある。
「このピラミッドがウチ独自の強みなんです。女子サッカーの場合は中高大からトップチームに自由に出入りできるので、例えば高校生がベントスの試合に出て、強い相手と戦えばいい刺激になりますし、その経験を高校の部活に持ち帰れます。ベントスはベントスで、他の大学から強化指定選手を引っ張ってこなくても、ウチのピラミッドの中で戦術の幅が広げられる。非常にいい相乗効果を生むんじゃないでしょうか」
ちなみに、前述した4月末のチャレンジリーグでベントスの得点者となったのは、十文字高校を卒業したての中原と源間葉月、今春から3年生の蔵田あかりという3人だった。
十文字フットボールクラブの総監督、石山は勝利に貪欲だ。ベントスであれば目標はなでしこリーグ1部昇格で、優勝すら夢見ている。とはいえ、石山がイメージしているのはピッチ上の成果だけではない。むしろ、前述のピラミッドを縦横に広げていく取り組みにこそ、十文字フットボール構想の革新性がある。
ピラミッドの図を見ながら、石山はこう問い掛ける。
「サッカーが上手い子は、上のほうまで残っていくでしょう。でも、他の子はどうなりますか?」
そう言うと石山は、ピラミッドの図に線を加え出した。
「頂点を、左右にいくつも増やしていきます。それぞれの頂点を底辺と結ぶと、どうです? 上のほうが幅の広い逆台形になりませんか?」