W杯開幕戦でのPK判定は間違っていなかったと西村氏は言う。(C)Getty Images

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岩政大樹 西村さんは、ブラジル・ワールドカップの開幕戦、ブラジル対クロアチアでのPK判定が話題になりましたね。あの時は、それこそ世界中から批判されました。今だから話せる心情はありますか?
 
西村雄一 あの時は、なかなか正しく伝わらなかった部分もありました。大会が始まる前に判定の基準を全チーム・全選手がレクチャーされます。そのなかに、ペナルティエリア内のホールディングは”軽かった”としてもファウルになるという項目もありました。

 ホールディングは行為だけで罰せられるファウルです。程度の判断ではなく、自らの意志で掴もうと思わなければ起こらないことに対する罰則なんです。あの時はFWの選手がシュートモーションに入っていた。そのプレーに影響を与えるホールディングだったので、ファウルと判断せざるを得ません。

 ですから、「開幕戦だから厳し目にした」「あの程度なら取らなくても」というようなお叱りを受けましたが、私としてはあの選択肢しかありませんでした。
 
岩政 判断に間違いはなかったと。
 
西村 試合後にクロアチアの監督さんが「バスケットボールをしているんじゃない」と発言されました。あれには深い意味があります。ファウルがなかったのであれば、私の技量に関わってきますが、行為があったのは分かったうえでの発言です。監督はチームを守るために、あの発言をしています。
 
岩政 選手は自分が失点に絡んで負けても、最善のプレーをしていたら自分を正当化できます。ですが、周りからの批判があると、その日くらいはきつい。そういう気持ちはありましたか?
 
西村 私が後悔するとしたら……あの場面を予測して動けなかった時でしょうね。角度が悪く、ホールディングが見えなくて何もできなかった時だと思います。
 
岩政 あの場所にポジションできたから、自分のなかでは納得できたわけですね。では、西村さんから見た良いレフェリーとは?
 
西村 試合が終わった後に、両チームが素直に勝敗を受け入れてくれたら最低限できたかなと思います。両チームからレフェリーという存在が消えていたら良しです。
岩政 参考にされたレフェリーはいますか?
 
西村 特にはいませんが、色々なレフェリングのスタイルを参考にしました。

 例えば、有名な方を挙げれば、イタリアのピエルルイジ・コッリーナさん。厳格な姿勢とスキンヘッドの風貌で「今日はファウルできない」という印象を選手に与える。だから試合が締まります。南米系のレフェリーであれば、選手の肩を叩きながら上手くゲームを収めるタイプがいます。

 ただ、私が誰かの真似をしても、本人にはなれません。西村雄一としてのレフェリングでどれだけ選手に信頼され、プレーに集中してもらえるかが、私がやるべきことです。
 
岩政 それが西村さんのスタイルなんですね。
 
西村 岩政さんは、試合の後半になってきたらレフェリー云々じゃなくなってきませんか?
 
岩政 そうですね。良いレフェリーだったら、ですが(笑)。
 
西村 昨年の、岡山で出場された昇格プレーオフの時は、私の存在を気にしていなかったように感じました。前半で私とコミュニケーションを取り切って、後半はチームへの指示だけに集中していた印象です。
 
岩政 確かに、プレーオフの西村さんの記憶がないですね。今言われるまで、西村さんが笛を吹いていたのを忘れていました。
 
西村 本当ですか。であれば、理想に近い仕事ができたのかなと思います。我々レフェリーは、皆さんが振り返った時に「ああそうだった」程度の存在でいいんです。