「フリー編集長」と「社畜プロデューサー」というまったく異なる立場から、ウートピ編集部というチームを運営している鈴木円香(33歳)と海野優子(32歳)。

脱サラした自営業者とマジメ一筋の会社員が、「心から納得できる働きかた」を見つけるため時にはケンカも辞さず、真剣に繰り広げる日本一ちっちゃな働きかた改革が現在進行中です。

第7回からは「有識者会議」ということで、今、話を聞いてみたいゲストに会いに行きます。今回のゲストは前AERA編集長で、現在はBUSINESS INSIDER JAPAN統括編集長を務める浜田敬子(はまだ・けいこ)さん。

「ベビーシッター代でお給料が吹っ飛ぶ」「育児のために実家を売って両親を呼び寄せる」……などなど。そのハードすぎるワークスタイルに、「いや、ムリでしょ……」と常々疑問を感じていたふたり。前半に引き続き、現在51歳の浜田さんと、30代のふたりが一緒に「持続可能な働きかた」を考えていきます。

左から、鈴木、浜田さん、海野P

いろいろ考えちゃう世代なんです

鈴木:前半では「浜田さん世代が“しんどい両立”をスタンダードにしてしまったせいで、私たちまでしんどくなった」と糾弾しようとしたのに、「私たちラクしてたワーママだから」と言われてしまい、なんだか肩すかしをくらってしまいました(笑)。

後半では、私たちの世代が「両立」をしんどいと感じる理由を掘り下げながら、本当に持続可能な働きかたとは何か?という問題を考えていきたいと思います。

浜田敬子さん(以下、浜田):逆に伺いたいんですが、仕事とプライベートの両立に関して、どうしてそんなに慎重なんですか? 何をそんなに考えちゃうんですか?

鈴木:(おお、そうきたか……)

海野:うーん、なんか、怖いんです。ずっと自分のために生きてきたのに、自分が主人公でなくなっちゃう恐怖みたいな。仕事は自分が成長していく実感があってすごく楽しいんです。でも、産んだら、それが削がれちゃうんじゃないかとか、なんか、いろいろ考えちゃって。

鈴木:そうそう、「育児と仕事の両立は大変すぎ!」という話をずっと聞かされてきたので、私たちの世代は、産もうかなと思い始める前からリスクをあれこれ考えちゃうんです。

浜田:確かに、みんな、すごく石橋を叩いて渡りますよね。どのタイミングで産むべき?どうやって仕事と両立すべき?って考えに考えて、慎重に計画して決めてる。

海野P:私も石橋、叩きまくってますね。

浜田:そんな後輩たちを見ていると「堅実だな」って思います。私たちバブル世代は、結婚も妊娠も何でも勢いでした。好きになったら結婚するし、子供が欲しかったら産むし、産んだら産んだであとは何とかなるでしょ、と。そう考えないと、むしろ何もできなかった。何か問題が起これば、何とかお金で解決するしかなかった。でも、「団塊ジュニア世代(1971〜74年生まれ)」も、その次の「ミレニアル世代(1980〜2000年生まれ)」も、明らかに私たちとは違います。

鈴木&海野P:違う、違う!

浜田:ただ、私のまわりのアラサーは、団塊ジュニアより躊躇(ちゅうちょ)なく産んでますね。結婚の報告を受けてまもなく「え、もう産むんだ!?」みたいな(笑)。「2人、欲しいです」と素直に2人産みますし。アラフォーがリスクヘッジ型で考えて、考えて、やっと1人産むのと、全然違いますね。

特に、今のアラサーは、結婚しました!妊娠しました!1年で復帰します!バリバリがんばります!2人目産んできます!みたいな感じです。あくまで、私のまわりの話ですけど、もっと両立を当たり前に考えていて、いいなと思います。

鈴木:そこにも世代間の意識の差があるかもしれない、と。

「自分の成長」と「会社の成長」

浜田:先ほどの海野さんの発言だと、産むことで仕事における自分の成長が邪魔されるかもしれないから、両立にも悩んじゃう、ということでしたが、「成長」に関しても世代間で結構感覚が違うかもしれない。

海野P:というと?

浜田:仕事において「自分の成長」を考えるのは、団塊ジュニア以降かもしれないですね。私たちの世代は「働けるだけでありがたい」と考えるしかなかったので、「自分の成長」まで考える余裕がなくて。

よく「そこまでして……(なんで働くの?)」と言われるんです。でも、そこまでしないと働き続けるのはムリでした。そして、「そこまでして、仕事を続けたいの?」と問われれば、断然イエス!!でした。だって、本当に楽しかったから。自分が好きな仕事をがんばることで会社が成長して、それがそのまま「自分の成長」として実感できる時代だったんですね。

鈴木:「会社の成長」と「自分の成長」が一致してたから、しんどい両立をしながら会社でがんばって本当に意味があるんだろうか……?と思い悩むこともなかった、と。

浜田:そうなんですよ。でも、下の世代から見れば、不思議に映りますよね。「なんで、そんなに自分を会社に捧げるの?」って。同じ場所にいてもチャンスが降ってくる時代ではもうないから、そもそもの仕事観が違いますよね。

海野P:ですね。私たちは「会社の成長」と「自分の成長」を完全に切り離して考えてますね。

鈴木:私たちの世代の女性にとって、「働き続ける」はわりとデフォルトなんです。今さらパートナーに養われるのは、絶対にムリ。でも、会社で働き続けるかどうかには、正直迷いがある。そして、その迷いが一番大きくなるのが、出産なんですね。

具体的には、会社員として今の福利厚生を手にしたまま産みたい人もいれば、子供ともっと一緒にいたいから、という理由で辞めて会社員以外のワークスタイルを選択する人もいるわけです。

浜田:そうか、そうか。「自分の成長」を考えて両立に悩むのは、今のアラフォーやアラサーなど若い世代に見られることなのかもしれませんね。

フリーランスは特権階級のもの?

鈴木:前半も含めてここまで、世代ごとにワーママのワークスタイルと、その裏にある意識について話してきましたが、この先ワーママの働きかたはどうなっていくんでしょうか?

浜田:一つの方向性として、「複業」というカタチが増えてくるでしょう。私が今編集長を務めているBusiness Insider Japanでは「働きかた自由化」の時代と呼んでいるんですが、仕事を一つに絞らずに、会社員をやりながら副業をやったり、副業みたいな小さな仕事を3つくらい組み合わせたり、自分で仕事のポートフォリオを組む時代になっていくだろうな、と。

先日、フリーランス女性の幸福度が高いという記事を掲載したんです。フリーランスの女性には、出産後に会社で働き続けることが難しいと感じてフリーになった人も多いのですが、その幸福度の平均が日本人平均値の18.9を大きく上回る25.9という調査があったんですね。フリーランスは「複業」の一つのカタチに過ぎないと思いますが、これからの時代のワーママにとって確実に選択肢なってくるのではないでしょうか。

鈴木:私も、そういう自由な働きかたにはすごく共感しますし、ウートピでもどんどん提案しているんですが、企画としてやればやるほど、「それって、一部の恵まれた特権階級の働きかたじゃないの?」と感じることもあって。つまり、プロとしてスキルがあって、結婚してパートナーにも安定した収入があるような人にしか許されない“自由”なんじゃないの?と。

浜田:確かに、スキルは相当高くないとダメですね。

でも、逆を言えば、スキルさえ高ければ、「こんなふうに働きたい」と言われた時に、企業側は聞かざるをえない状況にはあるんです。何しろ人手不足なので、2020年の東京五輪のちょっと先くらいまでは、働き手にとって有利な時代になるはずです。特にベンチャーや中小企業相手なら、交渉の余地は大きいでしょう。

実際、私の今の職場には、「資格取得のために週1で学校に通いたい」「保育園のお迎えのために5時で退社したい」と希望するワーママがいるんですが、とても優秀な人なので彼女にとって可能なスタイルで働いてもらっています。

鈴木:つまり、まわりに「合わせるしかない」と思わせる人材になっておく、と。

浜田:そうです。会社員をやりながら複業するにしろ、フリーランスになるにしろ、「自分の希望に合わせてもらえる人」になっておくことは大事ですね。

逆に、冷たい言い方になりますが、能力がない人には厳しい時代です。「子供と一緒にいたいから、こういうワークスタイルにしたい」という希望を飲んでもらえるのはある程度以上の能力がある人だけです。それは男性だって同じですから。

海野P:(うう、厳しい……)

妄想レベルで“複業”してみる

海野P:この連載のタイトル通り、「社畜」と呼ばれてる私はフツーに会社員をやってるんですけど、今の会社は副業禁止だし、フリーランスになるほどの専門性やスキルもないし……。「これからは複業の時代だから」って言われても、感覚的には結構遠い感じがしちゃいます。

浜田:確かに、誰もが今すぐ「複業」というワークスタイルに切り替えるのはムリですが、「自分に何ができるだろう?」と想像しておくのは大事ですね。

最近だと、「Waris(ワリス)」やリクルートの「ZIP WORK(ジップワーク)」など、限られた時間だけスキルを提供して働くサービスが登場しているので、それらを自分が利用するとしたら、何ができるかな、と考えてみるのもいいかもしれません。個人事業主になったら、何ができるかな?とか。妄想レベルでいいんです。「今の職場にずっといなきゃいけない」と思うとすごくつらくなっちゃうから、妄想するだけでも気がラクになりますよ。

海野P:妄想レベルならやれそう……。いや、でも、やっぱり会社員を辞めるのは怖いです。「大手社員の方が信用がある」という世間的な目もあるし、社会保険料も会社が払ってくれるし、働きかたを変えたいと思っても、なんか怖い。次に進めない。「複業」や「フリーランス」というキーワードには惹かれるけど、やっぱ怖い。

浜田:そう思っているうちはムリに動かなくていいんじゃないかな。動ける時が来たら、自然に動けますから。私だって、あんなに朝日新聞社が大好きだったのに、入社28年目にして「ここまでやったんだから、次行こう」と吹っ切れる時が来たわけだし。今はメディアジーンという会社に正社員として所属して「BUSINESS INSIDER JAPAN」の編集長をやりながら、一方で「浜田敬子」として個人でメディアに出たり、講演活動をしています。

海野P:かっこいいなあ。ああ、でも、私、めっちゃ石橋叩いてますよね……。

浜田:いいんですよ。叩きたい時は叩いていれば。いつか、すっきり動ける時が来るから。転職するにしろ、独立するにしろ。

鈴木:(海野P、またインタビュー対象から慰められてる……)

浜田:こういう慎重派は、デキちゃった婚くらいの方がいいかもね(笑)!!!

(構成:ウートピ編集長・鈴木円香)