ナノファクトリーによる治療の概念図。(画像:京都大学表資料より)

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 京都大学は、分子を透過させる膜からなる糖鎖ベクシルを開発した。これに酸素を封入し、マウスの血中に投与すると、がん組織の周囲に集積し、その場で酸素反応によって抗がん剤を合成し、放出した。つまり、医療用ナノデバイス(ナノファクトリー)として機能するのである。ヒトによる実用化までの道のりはまだ長いが、それに向けた一歩の前進であるといえる。

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 ナノファクトリーとは、生体内の疾患部位に直接生成するナノデバイスの一種で、その場で薬を産出したり、不要な物質を分解・代謝させる機能を持ったものを指す、医療上の概念だ。2007年、Nature Nanotechinology誌において初めて提唱された。広義には、ドラッグデリバリーシステムと呼ばれるものの一種である。

 とはいえあくまでも概念的なもので、実用化の糸口は見つかっておらず、実際にナノファクトリーとして機能し得る材料が報告されたのは、今回の糖鎖ベクシルが初となる。

 では、ベクシルとは何であろうか。それは、リン脂質からなるリポソームやポリマーからなる、溶媒で内部を満たされた、中空状の集合体、である。その中空部分に酵素などの生体高分子を封入し、医療に活用する、という応用的研究が、今回のものもそうだが、現在進められているところだ。

 なお、ベクシルの難点は透過性が低いということで、今回の研究の画期的なところは、透過性の高いベクシルを開発できた、というところにある。がん治療に限らず、材料科学の分野では大きな一歩であり、さまざまな分野での活用が見込めるという。

 また、今回の研究で作られたナノファクトリーは、ドキソルビシンという抗がん剤を利用するものである。この治療法の特異的なところは、抗がん剤の副作用が、がん細胞以外の正常細胞に対して及ぶことがほとんどない、ということにある。