オールスター戦で“お祭り男コバちゃん”復活

「公式戦で打ってくれよっ!」

 その瞬間、ベンチの高橋由伸コーチ、放送席でゲスト出演していた坂本勇人、そして球場やSNS上のファンの気持ちがひとつになった。オールスター第2戦、セ・リーグ9番捕手でスタメン出場の小林誠司が豪快な一発をかっ飛ばしたのである。今季ペナントでは251打席ノーアーチの男が、球宴初打席の初球をレフトポール際に運ぶサプライズホームラン。

 全セのベンチでコントのようなオーバーリアクションで「WHYなぜに……」とうなだれてみせた由伸コーチは、夏休み中の少年のような爽やかスマイルを浮かべ帰って来た小林のヘルメットを笑いながら叩く手荒い祝福。ちょうどテレビ中継のゲストに呼ばれていたキャプテン坂本勇人も「シーズンで打ってほしいですよね」なんつって爆笑。この明るさこそ13連敗中の沈んだチームに欲しかったな……と思わずにはいられない、巨人ファンにとってはまさに夢の球宴となった。


オールスター第二戦で本塁打を放った小林誠司 ©時事通信社

 春のWBCは初めての世界の舞台で危なっかしい送りバントに打率4割5分の大活躍で“バントのコバちゃん”旋風を巻き起こし、夢よ再び初体験のオールスターでいきなり敢闘選手賞を獲得。シーズン78試合で打率.190、0本塁打と極度の打撃不振を吹き飛ばす、お祭り男ぶりを発揮した。まるで普段の仕事ではミスを連発するのに、たまの会社行事の飲み会だと神業のような仕切りを見せる若手社員みたいなものだ。真夏のビアガーデンで同僚のOLさんを退屈させない完璧な働きぶり、っていやいやそのスキルは日常のクライアントに対して見せてくれよ的な愚痴をこぼしたくもなる憎めないヤツ。それこそ小林誠司という選手が持つ不思議な魅力である。

1軍レベルの20代捕手は小林だけという巨人のチーム事情

 現在リーグ4位に沈むチームの正捕手を務める背番号22。入団4年目の28歳、その非力な打撃や経験不足のリード面でどうしても批判されがち。正直、東京ドームで観戦していてもチャンスで下位打線に回ると期待よりも絶望感がデカいのは事実だ。だけど、その一方で今の巨人は小林どうこう以前にチーム編成そのものに問題があるようにも思う。

 頼みの阿部慎之助は満身創痍の身体と相談して完全に一塁手へ転向、相川亮二や実松一成も悲しいけど歳を取った。誰がどう見ても小林と打撃力のある捕手との併用プランがベストと言っても、驚くべきことに巨人ではこの3シーズン、小林以外で1軍の試合でマスクを被った20代捕手は1人もいない。その代わりはどこにもいないのである。さらにV3チームのひとつのサイクルが終わりつつあり、たとえ8番小林が打率.250、5本塁打を打とうが、前半戦終了時点で14.5ゲーム差をつけられている広島と優勝争いをできるとは到底思えない現実がそこにはある。

 それにしてもOB、マスコミ、ファン含めてこれほど議論が沸き起こる選手は今の球界で他にいないだろう。先日、ある巨人有名OBにインタビューに行った時も若手選手について聞くと「小林は俺がコーチならボロクソ言ってると思うよ。なんでインサイド投げないのって。スライダー、スライダーばっかでなんで首振らないのって。バッターの考えは外のスライダーしか待ってないんだから。あそこはみんな踏み込んでくるよ。踏み込まさないためにもインサイド投げなきゃ。打者に考えさせなきゃ。外一辺倒ならみんな打つよ、プロは」と真っ先に名指しで熱い檄を飛ばされていた。

 誰もがなにか一言、言いたくなるこの感じ。今の小林はプロ野球選手としてコンスタントに試合に出続け、賛否分かれる若手批評のステージに上がっている。10年近く前の坂本、最近で言ったらリーグ防御率トップの田口麗斗らは猛スピードでこのステージを卒業し、チームの主力へと定着していった。けど、小林の場合はプロ入り以来ずっと期待の若手と主力選手の間で行ったり来たりを繰り返す。今度こそイケる、やっぱり厳しいか、次回へ続く。みたいな終わりなき成長ドラマ。結果、背番号22から滲み出る放っておけない永遠の若手感。試合中はSNS上でも正捕手擁護派と否定派のファンの意見が飛び交い、時に盗塁阻止率.367の強肩で投手を救い、忘れた頃にヒットを打つとTwitterのタイムライン上はにぎわいを見せる。一昔前はよく「テレビ映えするスター選手」という褒め言葉があったが、小林の場合はなんだかやたらと「SNS映えする選手」なのである。

SNS時代のプロ野球選手に求められる「共感」と「共有」

 思えば、毎試合地上波中継されていた頃の巨人は正統派のテレビ映えするスターが多かった。現監督の高橋由伸はまさにその系譜だ。90年代の終わりから00年代中盤まで、ゴールデンタイムのど真ん中で主役を張り続けた背番号24。年間百数十試合、視聴率20%近く稼ぐ番組に毎晩出続けるアスリートなんて今はもう誰もいない。ついでに言えばペプシのCMに出演する巨人選手も今後しばらく現れないだろう。まさに泣く子も黙る「地上波中継時代最後のスーパースター高橋由伸」だ。

 なら今は? 巨人戦の視聴方法もこの10年で大きく変わり、BSやCS放送、さらに動画配信サービスと選択肢多数。同時にファンの好みも細分化した。最近ではテレビ局の強引とも思える日本ハムの大谷翔平推しに対する野球ファンの反応を見ていると、テレビカメラがひとりの選手を追い続ける伝統のスターシステムは限界を迎えつつあるように思う(もちろん大谷本人には何の非もない)。その根底にあるのは野球ファンの、メディアから楽しみ方を一方的に押し付けられるのはもうゴメン。俺らもう勝手に楽しみますからという観戦スタンスではないだろうか。

 そんな現代のプロ野球選手に重要なのは、実力はもちろん、SNSとの親和性である。超人的な一流プレイヤーがふとインスタ上で見せる普通のお兄ちゃんの顔。Twitterで飛び交う選手同士の他愛のないやり取り。オールスターで投げ合った菅野智之や則本昂大にしても、実力的には日本を代表する素晴らしい投手なのは確かだが、江川卓や村田兆治といった昭和のド迫力の大エースたちと比べるとキャラ的に怪物感は薄く親しみやすさすら感じさせる。

 いまや多くのプロ野球ファンは別世界のスーパースターではなく、自分と同じ世界にいる親しみやすい選手を応援する。そこで求められるのはアイドル論にも近い「隙のない完璧さ」よりも「突っ込みどころのある不完全さ」だ。例えば、小林誠司の似合いすぎのサラサラヘアではなく、愛嬌のあるイケメン坊主頭のように。ドラ1のエリート野球人生と思いきや、見た目も成績も突っ込みどころ満載。けど、WBCやオールスターの大舞台で時にとんでもない大仕事をしてみせる。さあ次はなにをやってくれるのか? 後半戦もファンはそんな期待を抱いて背番号22に注目するだろう。

 その坊主頭に共感して、意外性の活躍をどこかの誰かと手の中のスマホで共有する。2017年、いわゆるひとつのシェアハウス的な、シェアコバちゃん現象。

 いわば小林誠司とはSNS時代が生み出したみんなで共有できるスター選手なのである。

 See you baseball freak……

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