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●咀嚼は内臓の負担を減らし、栄養を摂り込みやすくする

子どもの頃に「よく噛(か)んで食べなさい」と周りの大人に注意された経験は一度や二度ではないはず。「よく噛むのはいいこと」というイメージはあるものの、具体的にどんな良さがあるのか、どの程度噛めばよいのか、よくわからない人も少なくないだろう。

咀嚼(そしゃく)がもたらすメリットとは何なのか。慶應義塾大学病院で歯科・口腔外科担当の中川種昭先生に話をうかがった。

咀嚼とは、食べ物を歯で細かく粉砕して消化しやすくすることを意味する。よく噛まずに飲み込むと内臓が消化させようと働くため、負担がかかってしまい、栄養も取り込みにくくなってしまう。

「食べ物が口の中に入ると唾液が分泌されます。唾液には『唾液アミラナーゼ』という消化酵素が含まれているので、ゆっくり咀嚼することで食べ物と唾液の消化酵素が混ざり、飲み込んだときにはある程度消化されている状態になるのです。飲み込むように食べてしまうと、消化酵素の力が発揮されないまま内臓に入ってしまうので、負担が大きくなってしまいます」

内臓への負担が軽減されると、消化不良によって引き起こされる下痢や腹痛などの予防にもつながるとも考えられている。歯ぎしりや歯をぎゅっと噛みしめてしまう食いしばり行為は、消化不良からくるとも言われている。咀嚼によって消化不良が解消されると、思わぬメリットもあるというわけだ。

○咀嚼筋と明るい表情の関係性

よく噛む行為は、顔の筋肉そのものを刺激すると言われている。咀嚼によって下あごの骨とその周りの筋肉「咀嚼筋」が活発に動き、表情にも影響を与えるとのこと。

「一日3食、しっかり噛む人とあまり噛まない人とでは、咀嚼筋の動く量は大きく異なります。今は細面な人が多くなっていると言われますが、その理由の一つに食事での噛む数が減っていることが考えられます」

昔は噛まないと飲み込めないような硬い食べ物が多くあり、おやつにスルメや煮干し、昆布をしゃぶって、何度も咀嚼するのが普通だった。だが、現代の食事は軟らかいものばかりで、「しっかり噛みなさい」と親から言われても、数回噛んだら飲み込める食事ばかり。

そのため、「咀嚼数が減って、あごの筋肉が発達しないのも当然かもしれません」と中川先生。咀嚼筋をよく動かせば、顔全体の筋肉も刺激を受け、血行がよくなり表情が明るくなるという間接的な効用も考えられる。

●かむ回数が減ると虫歯につながる理由

「あごが張っているよりも、細面の方がいいじゃないか」と思う人もいるかもしれない。だが、あごが小さくなると歯がきれいに並ぶスペースがなくなり、歯並びが悪くなるという弊害もある。

「歯並びが悪くなると、歯みがきで歯ブラシが届かない範囲が増え、虫歯につながることに……。そして、虫歯が咀嚼する力を弱め、消化不良を引き起こすという悪循環に陥ってしまいます」

あごを動かす筋肉群は三叉神経(脳神経の一つ)によって支配されている。この三叉神経がうまく機能しないと、表情がなくなったりうつ症状が出たりするなど、神経症にも影響するとの説もあるとのこと。子どもの発育においても、よく噛む子と噛まない子では、判断力や集中力、記憶力などで差が出るとも言われており、咀嚼が与える影響は広範囲に及ぶようだ。

もう一つの咀嚼の効用としてよく知られるのはダイエット。噛むことで時間をかけて食べ物が取り込まれるため、満腹中枢が刺激される十分な時間ができ、量をたくさん食べなくても満足感が得られると考えられている。

では、「よく噛む」とは具体的にどれくらいの回数を指すのだろうか。「一口30回」が理想の回数と一般的に言われがちではあるが、実際に30回も噛むと、食べ物の形が全くなくなり気持ち悪さを感じることもあるのではないだろうか。特定非営利活動法人 日本咀嚼学会の研究によると、30回というのは生のにんじんやナッツ類などの固形物を噛む際、消化不良を起こさない理想の回数だそうだ。

「30回はあくまでも基準の数。まずは、意識的に噛む回数を増やそうという心がけが大事です。よく噛む習慣ができると、食べ物が喉を通ったとき、小さな固形であっても『飲み込んだ』という感覚を抱くようになります。そばやうどんなど、のどごしを味わうとされているものであっても、噛む習慣をつけることが大切です」

○食事時間以外の「噛み過ぎ」には注意

一方で、ガムをずっと噛んでいるなど、咀嚼筋を過剰に動かして顎関節痛や咀嚼筋痛を引き起こすこともあるという。中川先生のもとに「歯が痛い」と訪れる患者の中には、歯には全く問題がないのに「筋肉疲労」から痛みが生じているケースもあるのだとか。

「食べ物をしっかり噛むことはもちろん大切ですが、食事以外の場面で緊張やストレスのあまり、食いしばりを起こす方も一定数いらっしゃいます。虫歯じゃないのに歯科医に神経を抜かれてしまって、それでも痛みが治まらず、よく調べたらあごの関節の痛みだったという患者さんもいらっしゃいました。また、噛むときには左右均等に筋肉を使うことはほとんどなく、どちらかを偏って使っています。『咀嚼筋を鍛えよう』と過剰に動かしすぎると、噛むクセのある側の筋肉が張ってきてしまうなどの弊害もありますので、食事での咀嚼を意識的に行うだけで十分だと考えてください」

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