中国のノーベル平和賞受賞者、劉暁波(りゅう・ぎょうは)氏の悲惨な死は全世界に衝撃を与えた。その背後に浮かび上がったのは、獄中の政治犯に適正な医療を施さない中国当局による組織的な人権抑圧である。

 米国などを拠点とする複数の人権擁護団体によると、中国共産党政権は、独裁体制を批判する民主活動家たちに対して拘束中に必要な医療措置をとらず、その死を早めさせる意図が明確だという。

 7月13日に死亡した劉暁波氏の場合、かなり以前から肝臓がんの前兆があったと家族たちが報告していた。劉氏は服役中に肝炎の症状を示したが、当局は適切な医療措置を施さなかった。病態が深刻となってからも、刑務所からの解放や本人が望んだ国外での治療を認めなかった。

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刑務所内の医療施設は「最低の水準」

 中国での人権弾圧の実態を監視している国際人権擁護組織「中国人権」「人権保護者」「人権ウォッチ」などの代表は、今回の劉暁波氏の死を契機に、中国の刑務所や収容所での医療の実態について相次いで見解を発表した。

 これらの人権組織は米国のワシントンに本部を置く場合が多いが、中国国内の協力者と密接な連絡を保ち、人権弾圧に関する最新の状況を監視しているという。

 これらの組織は、まず以下の調査結果について報告していた。

・上海の刑務所内の医療施設について2011年に行われた調査によると、所内の医療担当者の約3割が「収容者が体調を崩した場合、その収容者が犯した犯罪の内容によって診断や治療の内容が異なる」ことを認めていた。

・2015年の調査報告書では、拘留経験のある中国人たちの大多数が「刑務所内の医療施設は一般の基準では最低の水準である」と答えた。また「所内で病気となった場合、重症者も原則的に外部での治療は認められない」とも回答した。

「人権保護者」のフランシス・イブ代表は中国政府の政治犯に対する苛酷な扱いをこう説明する。「中国当局は、特に共産党の政治体制自体を批判する政治犯に対して、睡眠と食事の制限、場合によっては拷問などにより体力低下、栄養不良などの状態にさせ、病気となっても必要な治療をしない姿勢を見せることで、民主活動家たちへの威嚇や警告としている」。

獄中で命の危険にさらされている政治犯たち

 各人権組織は、中国当局の民主活動家らへのこうした措置は、習近平氏が国家主席に就任してから特に激しくなった、とも指摘する。

 その上で、これまでの犠牲者として以下のような実例を挙げていた。

・2014年に北京市の収容所に拘束されていた人権活動家の弁護士、曹順利氏は結核や肝臓疾患にかかり、治療のための一時釈放を求めたが、拒まれ、所内で死亡した。

・2015年に成都市の刑務所に拘束されていたチベットの宗教指導者テンジン・デレク・ポンシェト師は、心臓疾患の治療を所外に求めたが、拒否され、所内で死亡した。

 曹順利氏もポンシェト師も、中国共産党政権のチベットなどでの人権弾圧への反対運動を指導し、国際的にも広く知られたリーダーだった。その2人がそれぞれ50歳、65歳という年齢で獄中で病死した。その悲劇の背後には、中国当局の医療面での残酷な抑圧があった、というのである。

 その他にも、民主化や人権尊重を訴えて活動した結果、中国当局に逮捕され、拘留されている人たちの健康状態が当局の作為により危険にさらされている。その実例を、ニューヨーク・タイムズが7月10日付の記事で次のように報道していた。いずれも家族や友人たちからの情報だという。

・民主活動家で言論人の楊茂東氏(ペンネームは郭飛雄)は、いま広東省内の刑務所で懲役6年の刑に服しているが、虐待と睡眠妨害で体力を失い、体重は入所時の半分以下となり、歩行も困難となった。

・人権活動家の弁護士、唐荆陵氏は広東省の刑務所で懲役5年の刑に服しているが、この6月に心臓の激しい痛みを覚えて治療を求めたものの、当局に拒否された。

 人権擁護組織の代表たちは、「中国政府の民主活動家への獄中の医療関連措置には、明らかに虐待を目的とする一定のパターンがある。劉暁波氏もそのパターンの犠牲者だった」という見解を強調している。

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筆者:古森 義久