習近平中国国家主席(ロイター/アフロ)

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 北京や上海など中国の4大直轄市のひとつ、重慶市のトップだった孫政才・同市党委書記が突然解任され、後任に習近平国家主席の腹心、陳敏爾貴州省党委書記が就任した。孫氏は中国共産党員8800万人のなかで最高指導者集団を形成する25人の党政治局員の1人で、次期首相候補として下馬評が高かった政治局最年少の有力な若手指導者。香港情報では汚職などの「重大な党規律違反」の疑いで取り調べを受けているとされる。

 これまでも習氏は強力な政敵を「腐敗」容疑で陥れている。それだけに、孫氏の突然の更迭は最高指導部が入れ替わる秋の第19回党大会に向けて、党内の権力闘争が激化、習氏が「習一強」の独裁体制固めに乗り出したとの見方が強まっている。

 孫氏は1963年9月生まれで、現在53歳。北京市農林科学院大学院修了で、農学博士号をもつ農業の専門家。北京市党委秘書長などの北京市幹部を経て、2006年12月に43歳の若さで農業部長に抜擢され、当時最年少の閣僚として中央政界に華々しくデビュー。

 当時は胡錦濤政権であり、胡氏に近い温家宝首相が孫氏を高く評価したことで、中央に引き上げられたとされる。3年後の09年11月には吉林省トップに任命され、胡氏の出身母体の中国共産主義青年団(共青団)のトップを務め、内蒙古自治区トップに就いた胡春華氏とともに、「将来の最高指導者の最有力候補」と目されていた。

「ポスト習近平」時代には、胡氏の腹心の胡春華氏が党総書記、孫氏は首相に就任し、中国最高指導部の両輪になると擬せられていた。

 習氏が党総書記に選出された12年11月の第18回党大会で、胡、孫両氏とも党政治局員に昇格、それぞれ広東省党委書記と重慶市党委書記に昇格した。だが、習氏は最高指導者就任直後に重要講話を発表し、「虎だろうが、ハエだろうが、腐敗幹部は徹底的にたたく」として反腐敗運動を発動。習氏自身の古巣だが、権力を独占しつつあった上海閥や、官僚機構に強い影響力を有していた共青団閥や民主派寄りの温家宝氏のグループの有力幹部を次々と逮捕し、失脚させていった。

●権力闘争が熾烈化

 その一方で、習氏は25年にもおよぶ地方幹部時代の部下を多数、中央や地方の重要幹部に登用し、習近平閥を形成。今年秋の党大会では第2期目の5年間の最高幹部人事を決めることから、着々と手を打ってきた。いまでは、北京や上海、浙江省、天津、福建省などのトップに習氏の子飼いの幹部を据えて基盤強化を図っている。

 党大会まで半年を切った今、仕上げは最高指導部人事で、現在7人が定員の党政治局常務委員会入りをめぐって、共青団や上海閥、さらに習近平閥の間で激しい権力闘争が繰り広げられているのは確実だ。

 これまでは、5年前に党政治局入りした孫氏や胡春華氏、やはり共青団閥の汪洋副首相の常務入りが有力視されてきたが、習氏の巻き返しで、いまや権力図は様変わりを見せている。現在、7人の常務委員のうち、従来の定年制が適用されれば、残るのは習氏と共青団閥の李克強首相の2人。あと5人は引退するとみられていたが、ここにきて、習氏の右腕で、反腐敗運動を強力に推進してきた王岐山党中央規律検査委書記の残留が濃厚となっている。
 
 となると、残りの常務委枠である4人に誰が入るかだが、有力候補だった孫氏の失脚が確実となった今、その1人の枠は習氏の意のままとなる。それを狙って、習氏が孫氏のアラを探して腐敗の証拠を握り、失脚に追い込んだともいえよう。

 実際、中国では幹部になれば、利権を担う多くの人から、なにがしかの「贈り物」と称して賄賂が贈られることは常識だ。それは幹部自身がもらわなくても、妻や兄弟、親戚らを通じて贈られることもあり、今の中国共産党一党独裁体制という政治システムでは、当の幹部自身が気を付けていても、「腐敗幹部」の疑いを持たれることは不可避である。

 習近平閥に属していれば、汚職を取り締まる側が手心を加えることも考えられるが、反対派ならば、逆に取り締まりが強化されることは十分あり得よう。孫氏がいなくなれば、最高指導部枠が一つ空くことも、孫氏拘束の大きな理由となる。

 とくに党大会後、習氏の任期は第2期に入り、その5年間で習氏は大きな政治的成果を上げて、自身の指導者として名前を歴史に刻んでおきたいところだ。そのためには自身の腹心を党政治局や常務委員会に送りこんで、習近平独裁体制を固める必要がある。

 こう考えると、あと半年の間に孫氏同様、腐敗容疑をかけられて失脚する政治局員も出ないとは限らない。今後、権力闘争がますます熾烈さを増すのは火を見るよりも明らかだ。
(文=相馬勝/ジャーナリスト)