マンガの神様「手塚治虫」はAIで蘇るか? 漫画家AIプロジェクトが夢見る想像的AIとは

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「手筭治虫がデジタルクローンで蘇る!? 漫画家AIプロジェクトメンバーによるスペシャルトークショー 〜AIはクリエイティブ・コンテンツ制作をどう変えるか?〜」と題した特別講演が行われた。
開催されたのは2017年6月29日、東京ビッグサイト 日本最大のコンテンツビジネスの国際総合展 「コンテンツ東京2017」、2日目である。

登壇者は、練馬大学ロボット工学科 第7研究室の特別協力のもと、
・ヴィジュアリスト/手筭プロダクション取締役 手塚眞氏
・公立はこだて未来大学副理事長 松原仁氏
・電気通信大学 大学院情報理工学研究科 教授/人工知能先端研究センター センター長 栗原聡氏
・ドワンゴ ドワンゴ人工知能研究所所長 山川宏氏
いずれも漫画家AIプロジェクトに携わる各分野のエキスパートだ。


■人間に近づきつつある人工知能(AI)
マンガの神様「手塚治虫」を知らない人はいないだろう。
「鉄腕アトム」「ジャングル大帝」「リボンの騎士」「火の鳥」「ブラック・ジャック」「三つ目がとおる」「ブッダ」などの漫画を執筆し、多くの漫画家に影響を与えた偉大な漫画家だ。

数ある代表作の中でも有名な漫画は「鉄腕アトム」だろう。
その影響は、現在でも健在で、2009年にはコンピューターアニメーション映画「ATOM」が公開、2017年4月には人工知能技術を搭載したキャラクター型コミュニケーションロボットを製作できる「週刊鉄腕アトムを作ろう!」が発刊されている。

そんな偉大な漫画家「手塚治虫」をテクノロジーの力で蘇らせようという夢のプロジェクトが「漫画家AIプロジェクト」だ。

手塚 眞氏は、父 手塚治虫氏の漫画の描き方について、
「手塚治虫氏は「アイデア」「テクニック」「エモーション」「ジャッジメント」という4つの柱を常に考えて、漫画を描き続けてきた」という。

たとえば、「ブラック・ジャック」は、アイデアとして、「医者、人情家、ならず者」といった主人公の人物設定がある。こうした極めて人間らしい個性を設定すること。これを人工知能(AI)で実現することは極めて難しいだろうという。


ヴィジュアリスト/手塚プロダクション取締役 手塚眞氏


人間らしい創造性の再現は、現在のAIでは難しい課題の一つであることは事実だ。
しかし、AIは、常に、着実に進化を続けている。

松原仁氏は、
「きまぐれ人工知能プロジェクト〜作家ですのよ〜」というプロジェクトで、人工知能に面白いショートショート(短い小説)を創作させる研究を行っている。
故星新一氏の小説スタイルの再現をAIで目指しているのだ。

といっても、現在のAIはひとりで小説を書けるレベルに達していない。
このため、重要なところは、まだ人間が補助するかたちをとっている。
具体的には、小説のアイデアや枠組みとなる部分を人間が担当し、それをもとにAIが文章を作成する。

そんな人間とAIの共同で創作した小説の実力は、どの程度のものなのか?

日本経済新聞社が主催する第3回日経「星新一賞」に応募したという。
結果は、1次審査を通過した作品が出たというから驚きだ。
最終審査には残らなかったが、それでもAIの可能性を大きく広げたといってよいだろう。

松原氏はAIによる創造性の難しさを
「出来上がった小説が良いものかどうかが、コンピューターは評価ができないため、人間が行っている。最終的にコンピューターが小説を書いたというためには、コンピューターが自分の作品を評価しなければならない。」と語る。

それでも松原氏は、
「とても難しいが、いつかは実現できるはず」
と、AIがより進化し、人間に近づくことを疑っていない。


公立はこだて未来大学副理事長 松原仁氏



■なぜ、AI囲碁は人間に勝ったのか?
ここで、ひとつの疑問が出てくる。
現在のAIが、人間より劣っているのであれば、
「囲碁でAIが人間に勝ったことは、どういうことなのか?」
と、いうことだ。

現在のAIが人間よりも劣っている点とは、「自己評価を下すこと」だ。

囲碁や将棋の場合。AIは次の一手を考え、最終的に勝ちに導く、最良の指し手を選択すればよい。
そのプロセスで、AIは自己評価を行わない。





■人間の創造の源とは?
では、人間らしい創造性は、どこから生まれるのか?

栗原聡氏によると、
人間の創造性の源(クリエイティビティー力・イノベーション力の本質)とは、
「点と点を結ぶ繋がりの発見による創造力である」
という。

点と点を結ぶ繋がりが発端となり、新たなアイデアが生まれてくる。
そのアイデアが、また別のものと繋がり、さらに別のアイデアが生まれてくるという。

イノベーターとは、一般人に比べて創造力が豊かで、点と点がどんどん繋がり、大きなイノベーションを生み出せる。

「鉄腕アトム」が誕生するまでの物語を描いたテレビアニメ「アトム ザ・ビギニング(ATOM THE BEGINNING)」では、自律型ロボット「A106(エーテンシックス)」が、人命を守るためにトラックを転倒させる一コマがある。

自律とは、
「目的達成のための行動を自分で選択・判断できる能力」
のことだ。

面白いことに、人は自律性を持ったAIに対して「心」を感じるという。
この自律型AIの発展したものこそ、創造的AIであり、手塚治虫氏のような漫画を創造することが可能となる「漫画家AI」だという。


電気通信大学大学院情報理工学研究科 教授/人工知能先端研究センター センター長 栗原聡氏



■AIは人間の創造性を超えられないのか
そんな創造的AIに対して、山川宏氏は、
「創造的AIはシンギュラリティの発火点」だと語る。

現在のAIは人間がプログラミングしたものだが、未来ではAIが自分自身をプログラミングするというのだ。

しかし、こうした自己をプログラミングを実現するまでの道のりは遠いと言わざるを得ない。
何らかの要素を組み合わせて、何もないところから、意味のあるものにすることが、AIには難しいからだ。

たとえば、積み木を組み合わせて、家や電車を作ることは、幼稚園児が得意とするところだ。
部品を組み合わせて、まったく異なる創造物を作るというのは、極めて人間的な活動だ。
しかし、こうした行動は現在のAIには理解しがたいのだ。


ドワンゴ人工知能研究所所長/NPO法人全脳アーキテクチャ・イニシアチブ代表 山川宏氏



■AI画家レンブラントが新作を描く
ここで、興味深い話がある。

AIが描いたレンブラントの新作だ。
マウリッツハイス美術館とレンブラントハイス美術館のチームが、マイクロソフトとデルフト工科大学と協力して制作した。

レンブラントは17世紀の有名な画家で、光と影の明暗を明確にする技法を得意とした。代表作には、「テュルプ博士の解剖学講義」「フランス・バニング・コック隊長の市警団(夜警)」などがある。

AIが描いた新作は、AIが人間の技術を模倣したという点で画期的なのだ。

その手法だが、
・346点におよぶレンブラントの作品を3Dスキャナーでデータ化
・ディープラーニングによって作品の特徴を分析
・油絵を用いて3Dプリント
筆づかいは、レンブラントが好んだ手法を手本にしているという。

これは模倣ではあるが、AIがレンブラントらしい作品を創造した点で大変という。


The Next Rembrandt - YouTube


漫画家AIプロジェクトが目指すのは、優れた創造性を持っている手塚治虫氏をAIの力で再現することだ。
それは花を見て、「綺麗」「美しい」と感じられるような、限りなく人間に近いAIでもある。

「AIの手塚治虫氏の実現は、まだまだ遠い未来の話」
と言う人がいるかもしれない。

しかし、AIの進歩は著しく、加速度的に進歩の速度は上がっている。
たとえば、進化型アルファ碁「Master」はプロ棋士相手に60連勝しており、「もはやAIに勝てる棋士はいない」とさえ、言われるまでになっている。

このままAIのディープランニングが進み、AI自体の研究も続けられれば、遠いと思われている「AIの手筭治虫氏」の誕生にも、手が届いてもおかしくはない。

我々の時代は、今、そうした時代に入っているのだ。


ITライフハック 関口哲司