諏訪中央病院名誉院長の鎌田實医師

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 子どもに間違いなく人気のテーマのひとつに「うんこ」がある。「うんこ漢字ドリル」(文響社)がシリーズ220万部を突破したが、「うんこ」が出てくるだけで笑い転げる子どもがいるほど面白おかしいものだが、実は人間を知るうえでとても重要な役割を果たすのが「うんこ」だ。人間にとって、「うんこ」はどんなことを教えてくれる存在なのか、諏訪中央病院名誉院長の鎌田實医師が解説する。

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 過日、辨野義己(べんの・よしみ)さんという腸内細菌を研究する生物学者と対談した。うんこの専門家である。名は体を表わすというが、すばらしい名前である。

『ウンコミュニケーションBOOK ウンチは人格だ!』(ぱる出版)、『大便通』(幻冬舎)、『大便力』(朝日新聞出版)など、多数の著書がある。

 辨野先生は、40年間で8000人の便を調べたという。便のなかには、600兆〜1000兆個の細菌がいて、お花畑のような細菌叢をつくっている。腸内フローラだ。

 腸内フローラのバランスがいいと免疫力がアップする。腸には、免疫細胞の6割が集まっているからだ。反対に、腸内フローラのバランスが悪いと、高血圧や糖尿病、肥満などを引き起こすと言われている。

 最近は、原因不明で治りにくい潰瘍性大腸炎の患者さんに対して、健康な人の腸内フローラを移植する「糞便移植療法」なども登場している。

 ぼくは長野県で健康づくり運動に取り組んできたが、血管の健康とともに、腸の健康についても強調してきた。腸内フローラは、体調や食生活で、改善することが可能なのだ。

 腸をよくするためには、食物繊維と発酵食品がいい。食物繊維は便のかさを増し、便通を整える。積極的に野菜を食べようと呼びかけた結果、長野県は野菜摂取量が日本一になった。

 発酵食品は、腸内細菌を活性化する。地元の「すんき」といった乳酸菌の漬物や、チーズ、納豆、ヨーグルトなどを、できるだけ食べるように話してきた。健康にいい食事を摂っているかはうんこでわかる。頭だけ出して水に浮くうんこは、最高。

「人間としての生き方は、重厚なほうがいいが、うんこは軽いほうがいい」と言って、各地区の公民館を歩いた。

 その健康づくり運動が実ったのか、2014年度に森永乳業が行なった調査で、長野県は「健康腸」の県として一位になった。いいうんこ一番になったのだ。平均寿命日本一は、いいうんこがつくっている。理想はあまり臭くなく、排泄時間が短く、形状はバナナ状といわれている。

 人間が一生に出すうんこの量は、8トンにもなるという。生きている間には、悩んだり、挫折したりすることも多い。だが、悩んでいる間にも、人間はうんこを出し続けている。その量が積もり積もって8トン。すごいことではないか。

 ぼくたちは今、「脳至上主義」に走りすぎている。脳の要求する刺激や快楽を求めて、技術や学問、社会を発展させてきた。それ自体はヒトをヒトたらしめるすばらしいことである。だが、ときには、いいうんこが出せる喜びにひたり、腸が満足する生き方を実践してみることも、生きものとしてあるべき姿のような気がする。

●かまた・みのる/1948年生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業後、長野県の諏訪中央病院に赴任。現在同名誉院長。チェルノブイリの子供たちや福島原発事故被災者たちへの医療支援などにも取り組んでいる。2017年8月23日(水)に小学館カルチャーライブ!にて講演会を開催予定(https://sho-cul.com/courses/detail/27)。

※週刊ポスト2017年7月21・28日号