「最近は、あまり先のことは考えられない」とフェデラー

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 ロジャー・フェデラー(スイス)は、何も"当然"とはみなさないことを学んだ。だからこそ彼は、記録破りの8度目のウィンブルドン優勝を決めたあとの表彰式で、あんなことを言ったのだ。

「これが僕の最後の試合でないよう祈る。来年ここに戻ってきて、タイトル防衛に挑戦することができればと願っている」

 ある者たちは、フェデラーが引退を考えている、ということを意味しているのでは、と訝りさえしたのである。

 どうみてもそうではなかったのだが。

 本人が月曜日に説明したところによれば、彼が言わんとしたのは、単に「あまりに先のことを考えることはできない」ということだったのだという。

「僕は、そこで何を言うのか考えていなかった。僕はただ人々に、もちろん僕はタイトルを防衛することを望んでいるし、もちろん来年も戻ってきたいと願っていることを見せるため、自然にあんなふうに言ったんだ。でもそれが本当に、実際に起こるのかはわからない」

 彼は、ウィンブルドン決勝でマリン・チリッチ(クロアチア)を6-3 6-1 6-4で倒した翌朝、オールイングランド・クラブでAP通信のインタビューに応え、こう言った。

「我々はただ待ち、何が起こるか見てみなければいけないよ」

 彼は、20代でグランドスラム決勝に10回連続で進出した頃には、常にそういったアプローチをしていたわけではなかった。

 しかし昨今、ことは違った様相を呈している。

「25歳のときには、勝つと、『よし、来年もまた会おう』という感じだった。それが普通だからね。間違いなく、翌年もプレーすることになるだろうから。体になど問題はないというのが、もっともあり得そうなことだったからだ。そしてもし翌年に何かあってできなくても、その次の年がある」

 フェデラーは、グレーのパンツと白いウォームアップ・ジャケットを身に着け、センターコートの廊下を通り抜けながらこう言った。

「しかし今、僕は2年先のことを考えることはできない。正直に言うけどね」

 第一に、やはり回避することはできない年齢の問題がある。フェデラーは、8月8日に36歳になる。彼は1968年に始まったオープン化以降の時代でもっとも年齢の高いウィンブルドン・チャンピオンだった。

 それから、18ヵ月前に起きたことがある。四児の父である彼は、双子の娘のための風呂の用意をしているときに、左膝をひねり、膝が奇妙な音を立てるのを聞いた。2016年2月、彼は割けた軟骨組織を修復するため、キャリア初の手術となる、関節鏡による外科的処置を受けた。

 フェデラーは、同年3月にツアーに戻ったが、やや慢性化していた背中の問題のため全仏オープンを欠場し、グランドスラム大会連続出場記録に「65」で終止符を打った。そして一年前、ウィンブルドン準決勝で敗れたあとに彼は、体を治癒させるためにシーズンの残り期間を休養にあて、リオ五輪、全米オープンなど他の大会出場を断念することを決めた。

「どんなに素早くことが変わり得るかを目にしてきた」とフェデラーは言った。「娘のためにバスタブにお湯を張るという行為が、僕のテニス人生の続く一年半を丸々変えてしまったんだ」。

 しかしながら、ここ6ヵ月はよいものとなった。

 フェデラーは2017年、現在ツアー最多の5タイトルを獲り、31勝2敗という戦績を誇っている。そしてこれには、グランドスラム・タイトルなしの4年半に終止符を打った全豪オープンでの18番目のグランドスラム大会優勝杯と、ウィンブルドンでの19番目のそれが含まれるのだ。ウィンブルドンでは、1セットも落とさずに優勝した1976年のビヨン・ボルグ(スウェーデン)以来の選手になるというおまけまでついた。

「彼がやるすべてが並外れたことだ」と、チリッチのコーチであるヨナス・ビヨルクマン(スウェーデン)は言った。「言うまでもなく、彼はあらゆる意味で、比類なき男だよ」。

 フェデラー本人は、今季がここまでいかにいい形で進んでいるか、に驚いていた。

 彼は、プレーしたグランドスラム大会の双方で優勝するなどと、まったく予想していなかったと言う(彼は、グラスコート・シーズン前に充電するため、クレーコート・シーズンの間にふたたび休養期間をとり、今季もまた全仏オープンをスキップした)。

 今、彼は8月28日に始まる全米オープンを含む、ハードコートの期間に移行しようとしているところだ。

「一年に3度グランドスラム大会で優勝できると考えるのは難しい。あまりに超現実的に思える」とフェデラーは言った。彼は20代だった2004年、2006年、2007年に3つのグランドスラム・タイトルを収集していた。「でも、ニューヨークでいい成績を挙げる最大のチャンスを得られるよう、可能な限りいい形で準備を整えるよ」。

 彼の声は、いつもより低く感じられた。それは、ウィンブルドン・チャンピオンズ・ディナーと、30人以上の友人とバーで飲んだことを含め、明け方までお祝いをしていた名残でもあるのだろう。彼は明け方5時まで床に入らなかった、と言った。

 彼はその約6時間半後、芝の準備をするグラウンドキーパーほか、200人の大会スタッフらといっしょに、金色の優勝杯を手に集合写真を撮るため、アリーナに戻ってきた。

「写真を撮るとき、皆が『スイス・チーズ』と言うんだよ」と、フェデラーは笑いながら言った。それから彼は、緑の地に白い文字で『芝に入るな』と書かれた小さなサインからそう離れていない場所で何枚かの最後の写真を撮るため、コートの上でポーズをとった。

 そんなわけで、彼が2018年、その芝の上に戻ってくることを期待しよう。ただ、彼の素晴らしさを当然とみなしてはならない、ということを覚えておいてほしい。彼自身が、当然とはみなしていないのだから。(APライター◎ハワード・フェンドリック、翻訳◎テニスマガジン)

※写真は「ウィンブルドン」で8度目の優勝、グランドスラム全体では19度目のタイトル獲得を果たしたロジャー・フェデラー(スイス)。(写真◎Getty Images)
Photo: COMMERCIAL USAGE) Roger Federer attends the Wimbledon Winners Dinner at The Guildhall on July 16, 2017 in London, England. (Photo by AELTC - Pool / Getty Images)