タイ東北部コンケン県の池で捕えられた魚(2017年5月20日撮影)。(c)AFP=時事/AFPBB News

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【AFP=時事】両親を肝がんで亡くしたナロン・クンティケオ(Narong Khuntikeo)さんは、医大に入ってようやく2人の命を奪ったものが何だったのかを突き止めた──昼食だ。

 タイ北東部に住む数百万人と同じように、彼の家族も「コイプラ」と呼ばれる魚料理を日常的に食べていた。地元で捕れる魚を生のまますりつぶして、チリなどのスパイスやライムをかけて食べる。手軽にできて、香辛料が利いたおいしい料理だ。だが、この料理に使う魚には、タイで年間2万人の命を奪っている寄生虫がいる。この寄生虫は人の体に入ると肝がんを引き起こす原因となる。

 イサーン(Isaan)地方と呼ばれる貧しく広大な地域では、何世代にもわたってこのコイプラが食べられてきた。そして近年は、胆管細胞がんの発症例が世界で最も多く報告されている地域としても知られるようになった。主な原因の一つは、寄生性の扁形動物、吸虫だ。メコン(Mekong)川流域原産の吸虫は、多くの淡水魚で見つかる。

 世界保健機関(WHO)によると、この吸虫が体内に入ると、気付かれないまま胆管に何年も寄生し、炎症を引き起こすのだという。炎症が長期間続くと、侵襲性のがんを発症する恐れがある。

 手術でも治る見込みのない末期がん患者を何百人と診てきたナロンさんは、この「沈黙の殺し屋」の原因を元から断つため、医師、科学者、人類学者からなるチームを率いて活動を行っている。だが、コイプラへの愛が深いイサーン地方の食習慣を変えることはそう簡単ではない。

 何世代にもわたって受け継がれてきた料理が、体に良いどころか危険だということを聞いた地域の人々はショックを受けた。しかし、水田に隣接している池で捕れる魚を使い、手間も金もかけずにできる昼食の手軽さを手放すのことに人々は後ろ向きだ。

「以前はここへ来て、池で魚を捕まえるだけだった。生で食べるのは簡単だからね」。ボウルに入った魚のミンチに香辛料を振りかけながらそう話すのは、コンケン(Khon Kaen)県の農家の男性だ。がんとの関連性を知ってからは寄生虫を殺すために、ボウルで混ぜた具材を炒めてから食べるようになった。これは医師も勧める方法だ。しかし、ナロンさんらによれば、皆がこのようにすぐに説得に応じるわけではないという。

■食習慣を変える難しさ

 食習慣を変えるために、保健当局が力を注いでいるのは次の世代への教育だ。子どもたちに狙いを定め、学校の新たなカリキュラムとして漫画を使い、魚を生で食べることの危険を教えている。

 一方、大人では手遅れになる前に寄生虫の感染を把握することを目標としており、ナロンさんらのチームは感染の有無を判定するための尿検査法を開発した。また、この4年間は、公立の医療機関から離れたところに住む人々を対象に肝臓の超音波検査も行ってきた。イサーン地方の一部地域では住民の80%がこの寄生虫に感染しているとされている。

 カラシン(Kalasin)県で行われた最近の検査では、約500人の村民が列を成した。その中の一人、タニンさん(48)は「これまで検査を受けたことはないが、たぶんいると思う。小さな頃から(コイプラを)食べているから」とAFPの取材に語った。

 年齢が40歳を超えていること、生魚を食べたことがあること、家族にがんにかかった人がいることが、3大リスクだ。検査を受けた3分の1の村民の肝臓が異常を示し、4人にがんの恐れがあると診断された。

 超音波検査の結果、タニンさんは感染していないことが分かり、「生(のコイプラ)はもう食べないよ」とほっとした表情で語った。しかし、他の人たちはどうだろうかと質問してみると、「彼らは簡単にはやめないと思う」との言葉が返ってきた。
【翻訳編集】AFPBB News