忘れられない「甲子園の悲劇」

 2017年7月7日「七夕の奇跡」がおこった。でも、戦っている選手達はこう言うかもしれない、奇跡ではない、日々の努力の積み重ねだと。

 たしかにそうかもしれない。あの日から変わった、そうあの日。5月6日甲子園球場での阪神戦だ。キャンプから絶大に期待され、4月から着々と勝ち星を重ねていた岡田明丈が先発登板の試合で、まさか1イニングに一挙に7点を失うなんて、そしてその後9点差をひっくり返されることになるなんて、誰が予想できただろうか。まだ前半戦が終わったばかりだが、あの日の絶望たるや、「2017年のワーストゲーム」だと言い切る自信がある。しかし、「甲子園の悲劇」があったからこそ「七夕の奇跡」は起こったのではないだろうか。

 カープはあの日からというもの、4点差、5点差といくらリードがあろうとも、決して手を抜かなくなったように感じる。手を抜くという表現は少し違うかもしれないが、どんなに差があろうとも、決して気持ちを緩めることが無く最後の最後まで攻め続けるのだ。点はいくらあってもいい、1点でも多く追加点をとろうという姿勢が随所に見えるようになった。先頭打者が塁に出たら、すかさずバントで塁を進める。カットで粘り四球を選ぶ、隙あらば走りさらなる一点を求める。これらのプレーは当たり前のことではあるが、大量得点で勝っている時はしなくなりがちなのが現実のところだが、違うのだ。

「9点でも足りなかった」記憶は我々ファンの心にもどっしりと居座っている。いくら点差があろうとも、「9点をひっくり返されたあの日を忘れるな」を口癖に、7・8・9回と、勝ち継投投手への応援にも手を抜かなくなった。リリーフ・クローザーの一球一球に集中し、黄光が増えるごとに拍手がおこり、緑光が増えるとエールの拍手が内野席から自然と広がる光景が当たり前となった。

 それと同時に、逆の意識も生まれた。9点差があっても負けることがあるのだから、勝つことだってできるはずだと。最後まで諦めない堅実な姿勢で、今年のカープは数々の逆転勝利を生んできた、その数なんと27勝分。

祈るファンのもとにあらわれた彦星様

 そして七夕がやってきた。先発の戸田降矢は、昨年7月以来の一軍のマウンドだった。昨年の同じ月、見事完封完投勝利を達成した期待のイケメン若手左腕は、期待とは裏腹に5回8安打7失点、1-7でマウンドをおりた。7回に好調の菊丸コンビで2点を返すものの、裏にはさらなる追加点を許し、3-8の5点ビハインドで最終回を迎えることになる。

 初めて9回に登場した小川泰弘にヤクルトファンが沸く神宮球場に、負けないくらいに諦めない歓声が飛び交った。1人目のバティスタがホームランを打つと、さらにその声援は増していった。2人目田中広輔はファーストゴロで1アウト。3人目菊池涼介からはまたホームランが出た、5-8。丸佳浩は7球粘りフォアボール。四番の鈴木誠也はセンターフライで2アウト、9回2アウトでも諦めない経験はじゅうぶんに積んできた。この日それまで3安打の松山竜平がタイムリーヒットで6-8。物怖じしない若鯉、西川龍馬の執念の内野安打で、1・3塁、舞台は整った。

 晴れ晴れとした2017年の七夕の夜、祈るカープ女子達のもとには、7号目の本塁打でゲームをひっくり返す彦星様があらわれてくれた。今季28回目の逆転勝利。彦星様こと新井貴浩は、昨年2000本安打・300本塁打を達成した得意の神宮球場で、また皆の記憶に残る歴史をつくったのだ。

 ヒーローインタビューで彦星様はこう言った。「正直、まわってくるんじゃないかと予感がしてました」。あの日、自分達がやられたからこそ、できると思った逆転勝利へのリアルなイメージ。あの日の大きな1敗が、大きな1勝を生み出した。失敗は成功のもと、かの有名なことわざをここぞとばかりに体感しながら、身体中のサブイボはしばらくおさまることはなかった。


7月7日、9回に代打で登場して逆転3ランを放った新井貴浩 ©共同通信社

 でも、来年の短冊にはこう書こう。

「今年こそは、どうかカープに左腕が育ちますように(願わくば、先発・リリーフどちらも)」 と。

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(大井 智保子)