写真/PIXTA

写真拡大 (全4枚)

勉強する場所・第1位に挙がるリビング。子どもがリビングやダイニングなど、親の目の届く範囲で勉強することが推奨され、子育て世代が住まいを考えるうえで、最近のトレンドにもなっています。とはいえ、実際のリビングはテレビなどの誘惑も多く、大人からみれば集中しづらい場所にも思えます。どのように学習環境を整えたらいいのか、学習指導の専門家である小川大介さんに聞いてみました。

リビングで勉強する子どもが増えた理由

ひと昔前は、子どもにとっていい学習環境とは、集中できる静かな場所=独立した個室を与えることだと多くの人が考えていました。しかし、リビングで学習していた子どものほうが成績が伸びやすいという本などの影響もあるのか、今は勉強をリビングやダイニングでする小学生が8割を超えるという調査データもあります。

【画像1】小学生は8割以上、中学生も6割以上がリビングで勉強している(出典/ベネッセ教育総合研究所「小中学生の学びに関する実態調査 報告書 2014」)

個室ではなくリビングで学習するというスタイルが浸透していったのには、特に首都圏の場合、立地の都心化などにより、マンションの専有面積が小さくなっていった影響もあると考えられます。と、同時に、子どもの学習の種類が変化していることも大きく影響していると小川さんは言います。

「われわれが子どものころの勉強は、与えられたものを覚えて知識を増やしたり、課題をこなして提出する、というのが主体だったので、個室でひとりで学習するというのでも特に不都合はなかったんです。しかし、今の学校教育は課題をただこなすだけでなく、自分の考えを誰かに話して、そこから何かに気付いたり、あらためて考えたり、子どもたちに『仮説』や『検証』といった作業を体験させ、考えを深めさせようという狙いがあります。子どもたちに求められる学習の種類が、昔と今では大きく様変わりしているんですね」(小川さん)

なるほど、確かに、今どきの学校の宿題は家族の手助けが必要なものが多いような気がします。昔であれば、きょうだいの知恵を借りたりして、わいわい言いながら考えを深めていったものも、今は、きょうだいが少なくなり、必然的にその役割は親が担うことになっています。そう考えると、ここ10年ほど、個室ではなく、親のいるリビングで学習する子どもが定着してきたのは、当然の流れといえそうです。

「リビング学習」って単にリビングテーブルで勉強することじゃない!?

ところで、「リビング学習」というと、勉強道具をリビングテーブルに広げて勉強することと思いがちですが、実際は少し意味合いが異なるようです。小川さんによると、家族とのかかわりやテレビを見たり、きょうだいと遊んだり、リビングで営まれている日々の生活から、子どもを自然な学びへと導くのがリビング学習の本質だということです。

「子どもが思考を深め、より学習を膨らませていくには、リラックスできて、なおかつ適度な刺激がある環境が理想的です。つまりそれらの条件を満たした場所がリビングなわけです」(小川さん)

【画像2】(写真/PIXTA)

子どもの知的好奇心をくすぐる仕掛けや工夫が大切

リビング学習をするには空間づくりにいくつかコツがあるとのこと。小川さんによれば、ポイントはまず、子どもにとって発見がある、知的好奇心を刺激する空間であることだといいます。

「子どもはちょっとした変化や新しいことに敏感で、隠れているものを見つけ出すことが大好き。ですから、家具のレイアウトなどでも、整然と見通しよく配置するのではなく、子どもがちょっと覗いたときに見える位置に興味を引きそうなものを置いたりするといいですね。大切なのは子どもの目線を意識することです。例えば、私はリビングに図鑑や辞書、地図を置くことを薦めていますが、地図もただ普通に張るのではなく、子どもが床に座ったり、寝ころんだときに目に入ってくる位置に張ると、より関心を引きやすいといえます」(小川さん)

辞書や図鑑類も同様。子どもが座り込んだときに目に入る位置に並べる、そして、並べる順番は定期的に入れ替えること! こうすると、子どもは「いつもと違う」ことに気付き、自然と意識が並んでいる本に向くようになります。子どもは興味がないのではなく、あまりに見慣れて、そこに図鑑があることが見えなくなっているのです。そのため、ときどき位置を入れ替えるなど「変化」を与え、注意を引くようにすることが有効だということです。

集中には適度な雑音も必要

そして、やはり勉強する空間なので、集中できる環境づくりもポイントになります。一般的によく言われるのは、静かすぎるとかえって集中力は低下するということ。リビングで交わされる家族の会話レベルの雑音があったほうが、集中力は向上すると言われています。ただし、例外なのはテレビや電子音など。特にテレビのコマーシャルは、人間の注意を引くようにつくられているので、子どももついつい意識を吸いよせられてしまいます。また、幼い弟妹がいて、どうしても騒がしくなる家庭の場合は、子どもにノイズキャンセリング型のヘッドホンを装着させるなど、工夫をするのも一手です。

子どもの身体に合った椅子を用意

【画像3】(写真/PIXTA)

最近は個室のサイズをミニマム化し、その分、リビングを広くとるという間取りが、新築マンションやリノベーション事例でも目立つようになってきています。大きなダイニングテーブルを置き、食事以外にも家族のワークスペースとして活用する事例や、学習デスクをリビングの一角に置く事例も、多く見かけるようになりました。

学習デスクについては、リビングにも置きやすいシンプルなデザインや、奥行きの短いデスクなど選択肢が豊富で、選びやすい印象です。むしろ気を配る必要があるのは、椅子のほうだと小川さんは言います。特にダイニングテーブルで勉強する場合、大人と同じ椅子では高さが合わないので、クッションなどで座面を上げるなど調整が必要ということです。

「椅子に座ったときに、足がブラブラして安定しないと、それが集中力を下げる原因にもなります。また、現代の子どもは筋力が不足しているため、床に足の届かない、踏ん張りの効かない状態では、正しい姿勢を保つことができません。足を置く台など、何かしらの工夫が必要です」(小川さん)

子ども向けの椅子は、成長に合わせて座面や足置きの高さを調節できるもの、自然に姿勢がよくなるバランスチェアなどさまざまな商品があります。子どもの体に合ったもので、なおかつ、リビングのインテリアとしても納得できるものを選びたいものです。

子どもの学習環境はいろいろと悩みどころも多いもの。リビング学習をきっかけに、家具や部屋のレイアウト、そして親子のコミュニケーションのあり方を見直してみるのもいいかもしれません。

●取材協力
・小川大介さん
中学受験情報局「かしこい塾の使い方」主任相談員。テレビ、雑誌など各種メディア、講演を通じて、子どもの能力の伸ばし方、親子関係の築き方などの助言・提案を行っている。著書に『頭がいい子の家のリビングには必ず「辞書」「地図」「図鑑」がある』(すばる舎)
(木村寿賀子)