(4)より続く

「文化はコンプレックスから生まれる」という仮説のもと、ミュージシャンやデザイナーなど、表現者たちへのインタビューを通じて考察した武田砂鉄さんの最新評論集『コンプレックス文化論』。本書の発売を記念して行なわれたジェーン・スーさんとの対談の最終回です。

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『コンプレックス文化論』(武田砂鉄 著)

武田 そういえば、昨日の夜まで高松にいて、寝台列車のサンライズ瀬戸で今日の朝、東京に帰ってきたんですけど。

スー ふー、お疲れ様です。

武田 その個室の中でスーさんの新刊『今夜もカネで解決だ』を読んでいたんですが、このでかい図体で、体が伸ばせないような状態で読んでいたんで、体が凝りに凝りました。マッサージなどリラクゼーションの店に通いつめた本を読んで体が凝る、という本末転倒(笑)。様々なお店に興味を持ったものの、なぜか昔から他人に後ろに立たれることが苦手なんで、マッサージってものに、ほぼ行ったことがないんです。

スー 後ろに立たれること自体が?

武田 1回だけ上海でマッサージを受けたことがあって。性的なサービスがある店ではなかったんですけど、ちょっと待て、股間周辺へのマッサージが入念すぎるのでは、この先も可能ってシグナルなのか、いいよそんなの、との疑いが抜けず……それ以降、一切シャットアウト。全身バキバキに凝ってますけど、行けない。


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スー マッサージ行かないって、結構びっくりです。極楽なのに! 

武田 スーさんの本を読んで、つくづくそう思いましたね。

スー 合法の極楽ですよ。触られるのも嫌なんですか?

武田 男性用サービスへの延長を期待している人だと思われたくなくて行きたくないんです。

スー そんなのないですよ!

武田 どこに行けば健全な店なのかがちっとも分からないんですよ。街中でマッサージ店の看板を見ながら、行く気もないのに「これ、どっち?」って思ってしまう。確実にその延長サービスがない店を教えてください。

スー ない店のほうが多いですよ、基本的に。何とか整体院っていうおじいちゃんがやってるようなところに行けば絶対にないですから。

武田 ああ、なるほど。「あわよくば」を望んでいると思われるのが嫌なんですよね。


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スー そこはわかるんですけど。本にも書きましたけど、自分がどんな状態であれ、お金さえ払えば受容してもらえるっていう、こんなシステムはないので。

武田 その合法性には納得しましたね。

スー 自分の体が具合悪いと人に当たったりしますからね。イライラしない時間を作るために行く感じですね。どんなコンプレックスがあろうとも、お金さえ払えば絶対に受容してもらえるっていう意味で、マッサージとかリラクゼーションのサロンって私にとっては必要なんですよ。

武田 確かに、見事にカネで解決されてました。

スー 解決っていうか、解消できるって感じですかね。

武田 行ったことない人間からすると、1回行ったら2回目行かなきゃいけない中毒性を植え付けられるんじゃないかって警戒心を抱いているんですけどね。

スー まあ中毒性はありますよね。好きになるとどうしても。砂鉄さんに「ここに行ってきてくれ」って指令を出して、武田さんがレポートするっていうのどうですか? 私は何もしないやつ。

武田 操縦するだけ(笑)。望むところです。

スー 誰かに指図されてでもやっておいたほういいかも。『貴様〜(※貴様いつまで女子でいるつもりだ問題 )』のとき、「30代は食わず嫌いを1個でも無くしておいたほうが肩の関節が動くようになりますよ」というようなことを書いたんですけど。食わず嫌いが多いんですよね、コンプレックスのある人間は。

武田 初心者はどういうところに行けばいいんですかね?

スー どういうものが好きかによります。生理的に同性のおっさんに触られるのは嫌って人もいるじゃないですか。深層心理をひっくり返してみたら、正直ただ癒されたいだけなので若い女の子に優しくされればそれでいいって人もいます。

武田 それは嫌ですね、スーさんがイケメンに揉まれるのは嫌っていうのと同じで。女性に揉まれたら、ひたすら「申し訳ないです」と思うはず。

スー 理屈が好きな人におすすめなのは、ストレッチですね。ひたすらストレッチさせられて、あられもない姿になるので恥ずかしいんですが、自分では伸ばせない筋肉を発見するという意味で意義があるというか。あと、可動域が圧倒的に広がる。人体実験として面白いですよ。

武田 そこから入りますかね。今、椅子に座る時、背もたれとひじ掛け、この2つのカドがないと座りたくない状態が続いているんで、マズいんです。たまに背もたれのない丸椅子の飲み屋に連れて行かれると、「1カドもねぇのか」って不快になるんで(笑)。

スー 疲れすぎですよ。


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インタビュー構成 武田砂鉄

(武田 砂鉄)