今週、全英オープンが開幕する。今年の舞台、ロイヤル・バークデールで開催された前回大会は2008年だが、あのときの出来事は今でも妙に鮮烈に記憶に残っている。
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あの年の開幕前、ロイヤル・バークデールのメディアセンターは閑散としていた。その前月にタイガー・ウッズが故障した足を引きずりながら18ホールのプレーオフを制して全米オープンを制覇したばかりだったが、直後に手術を受けたウッズはロイヤル・バークデールを戦うことができず、2008年全英オープンはウッズ時代が始まって以来初めてのウッズ不在のメジャー大会になった。
そればかりか、優勝を期待できるビッグな選手が当時はあまり見当たらず、優勝候補に上がっていたのは「全英が不得意」と言われ続けていたフィル・ミケルソンと23歳のアンソニー・キム、それに前年の全英オープンで惜敗し、当時はマナーが最悪だったセルジオ・ガルシアという具合。
なぜ、前年覇者のパドレイグ・ハリントンの名前が上がらなかったかといえば、あのときハリントンは右手首を痛めており、大会出場そのものが危うい状況だったからだ。
おまけに当時の米国経済はリーマンショックでボロボロで、米メディアは一気に激減。そんな中で迎えたあの年の全英オープンは淋しさが漂い、ある英国紙は「何一つ、いいニュースがない大会」とまで書いていた。
だが、蓋を開けてみれば、驚きの展開になった。大会3週間前に、元テニス界のスター、クリス・エバートと結婚したばかりだった当時53歳のグレッグ・ノーマンが初日4位、2日目2位、3日目はついに単独首位へ浮上。ノーマンは過去に2度、全英オープンで優勝を飾っていたが、メジャーでは8度も惜敗しており、現役バリバリ時代のノーマンといえば、メジャーで勝ち急いでは崩れて負けるイメージのほうが強かった。
だが、あのときのノーマンは「バークデールのゴルフは母国オーストラリアのゴルフとそっくりだ」と郷愁さえ漂わせながら、ずっと穏やかな表情だった。首位で最終日を迎えることになった3日目の夕暮れも「(優勝への)期待値は低い」と言いながら、静かに微笑んでいた。
それなのに、最終日の1番ティに立ったとき、ノーマンはそれまでの3日間とは別人のようになっていた。小さな物音にも目くじらを立て、ひどくイライラしている様子。ああ、これは良くないサインだなと秘かに思ったら、案の定、彼は3連続ボギー発進となり、崩れ落ちていった。
入れ替わって首位に立ったのは、ノーマンとともに最終組を回っていたハリントンだった。開幕前から右手首の痛みがひどく、「出ても勝てない。欠場しようか?」と嘆いていたが、スポーツ心理学者のボブ・ロッテラに「手首が痛くても、4日間を戦うことはできるだろう?」と言われ、ハリントンはハッとしたそうだ。
勝つことより、まず4日間をしっかり戦い通すことを考えよう――。「そう思うことで手首のことが気にならなくなり、プレーに集中できた」。
勝利は追いかけすぎると逃げていく。少し気を楽にして、穏やかな心で、「4日間」に意識を向ける。そう仕向けたロッテラ博士、それを受け入れたハリントン。だからこそ彼らは、全英2連覇という偉業に辿り着けたのではないか。あのとき私はそう感じた。
そういえば、先月の全米オープンで優勝にわずかに手が届かず、2位になった松山英樹が悔しさの中で何度も口にしたのは「4日間」という言葉だった。
ゴルフはメンタルなゲーム。ゴルフは4日間72ホールの戦い。そんなゴルフの基本と奥義をしっかりきわめた選手が優勝に輝く。ロイヤル・バークデールの全英オープンは、そういう大会になるはずだ。
文 舩越園子(在米ゴルフジャーナリスト)

<ゴルフ情報ALBA.Net>

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