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弁護士が、証拠や資料の収集などに活用する「弁護士会照会制度」。この制度をめぐり、愛知県弁護士会が、回答を拒否した日本郵便を訴えていた裁判の差し戻し控訴審判決が6月30日にあった。名古屋高裁は、日本郵便の守秘義務よりも、照会への回答義務が上回ると判断し、弁護士会が勝訴した。

報道によると、照会の内容は、ある人物の転居先。民事訴訟の和解金を支払わないため、財産を差し押さえる目的だったという。

弁護士会照会とはどういう制度なのか。なぜ、企業の守秘義務に優先したり、個人情報保護法にひっかからなかったりするのだろうか。神尾尊礼弁護士に聞いた。

●年間17万6334件もの申し出…事件の適正解決と国民の権利実現に活用

――弁護士会照会とはどういう制度?

弁護士は、みな弁護士会に所属しています。弁護士会は、各都道府県に1つずつあり(東京と北海道は複数あります)、所属弁護士の指導や監督などを行っています。この弁護士会に与えられた権限が、弁護士会照会です。

弁護士会照会は、法律(弁護士法23条の2)に基づくもので、所属弁護士からの申し出に基づいて、公務所や各種団体に報告を求めることができると定められています。2015年は17万6334件の申し出があったようです。我々弁護士の間では「23条照会」と呼ぶこともあります。

――どうしてそんな規定があるの?

弁護士は、警察などとは異なり、強制的に調査する権限がありません。ただ、財産を隠されている場合など、事件処理に当たって調査することが必要なことも多々あります。そこで、事件の適正な解決のため、ひいては国民の権利を実現するために、弁護士会照会制度が設けられました。今回の名古屋高裁判決もこのような公共的な目的があることについて言及しています。

――弁護士はどういう場面で活用するの?

弁護士会照会の手順としては、我々弁護士が、まず所属弁護士会に対して、「照会してほしい」と申し出ます。弁護士会がそれを審査して、ときに修正などを経て、照会先に照会をかけます。照会先は、弁護士会に対して報告をし、それが我々のもとに転送されてきます。

弁護士会照会で私が多く活用する場面は、(1)迷惑電話の発信先を調べる、(2)相続人などの預金の有無を調べる(銀行によっては弁護士会照会を通さないと教えてくれないところもあります)などです。

――照会を受けたら拒否できないの?

このように、国民の権利を守るという公共的利益がありますから、照会を受けた団体などには、その照会に対する報告義務があると考えられています。ただ、すべての場合に回答しなければならないわけではなく、弁護士会照会の持つ公共的利益と、報告をしないことによって守られる利益とを天秤にかけ、後者が勝る場合には、報告を拒否することができるとされています。

なお、個人情報保護法との関係も問題になりますが、「法令に基づく場合」は回答してよいことになっており(個人情報保護法16条3項1号、23条1項1号)、弁護士会照会もこの「法令に基づく場合」に当たるので回答を制限されないと解されています(法務省作成のガイドラインなど参照)。

ただし、実際には回答を拒否する企業があることも事実で、日弁連によると、15%ほどは回答してもらえていないようです。

●弁護士会照会の回答義務は個別ケースで判断される

――今回の裁判をどのように理解したらいい?

本件は、裁判上の和解をし、和解金の支払義務を負った人が、住民票を置いたままどこかに行ってしまったというケースです。弁護士会は、その人の転居先を調べようとしましたが、日本郵便が回答を拒否しました。

名古屋高裁は、回答拒否によって害される利益(わざわざ裁判までやってようやく認められた権利を実現する機会を失う)と報告によって生じる不利益(居所を知られることは、郵便物の内容とは異なり社会生活を営む上で一定の範囲の者に知られることが予定されている)を比べて、前者が勝る(つまり開示しなければならない)と判断しました。

本件では、逃げ得を許さないという見地からも、回答義務があると判断したのは妥当であろうと考えます。裁判上の和解ということは、この人は一度裁判で「払います」と(おそらく金額を下げてもらった上で)約束したのですから、それを信じた側が守られるのはある意味当然ともいえます。

他方、例えばDVから逃げた妻を夫が探している場合のように、報告によって生じる不利益が勝る場合もあり得ますので、そのようなときには回答を拒否できると考えるべきでしょう。このようなある種不正な照会を防ぐためにも、まず我々弁護士が照会内容を判断し、さらに弁護士会が検討するという仕組みになっているのです(感覚的には、弁護士会からのチェックはかなり細かいという印象で、多くの場合訂正などが必要となっています)。

――今回の判決で、今後、弁護士会照会の幅は広がる?

本判決は、個別具体的に判断しようと言っています。したがって、この判決によって、直ちに回答義務の範囲が広くなったり狭くなったりということはないと思われます。

ただ、一律に回答を拒否する会社があることは事実で、そういった会社がこの判決を受けて扱いを変えるかには注目していきたいと思います。

(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
神尾 尊礼(かみお・たかひろ)弁護士
東京大学法学部・法科大学院卒。2007年弁護士登録。埼玉弁護士会。刑事事件から家事事件、一般民事事件や企業法務まで幅広く担当し、「何かあったら何でもとりあえず相談できる」事務所を目指している。
事務所名:彩の街法律事務所
事務所URL:http://www.sainomachi-lo.com