植田まさし、70歳。「コボちゃん」「かりあげクン」「フリテンくん」、そしてこの夏「おとぼけ部長代理」としてリニューアルした「おとぼけ課長」などの作品で、日本の4コマ漫画界の先頭を走り続ける「巨匠」である。インタビュー前編・中編につづく3回目は、ベールに包まれた仕事場訪問記。

“秘密道具”「ネタダブり防止カード」、幻の作品画、そして謎の「釣竿」――。植田先生直々の解説付きで、すべてをたぶん、初公開!

植田ワールドの登場人物たちが壁に勢揃い!


「コボちゃん」「かりあげクン」たちが生まれる仕事場を大公開!


机の上に貼られている登場人物たち


「らくてんパパ」の名前は丸田太という

―― お邪魔します。いやー、すごい……。机の上に貼られているのは登場人物のスケッチですね。顔の向きとかは、確認しながら描いているんですか?

植田 いやこれはもう、昔から貼ってあるだけ。

―― この仕事場になってからどれくらいになるんですか?

植田 28年くらいになるかな。


コボちゃんの「田畑家家系図」

―― これはコボちゃんの家系図ですね。

植田 アニメになったときに、エイケン(アニメ制作会社)がくれたんですよ。

幻の作品を発見!


 

―― あっ! 「女刑事マキ」! 幻の作品……。

植田 そうですね、これは私の作品で唯一、単行本になっていないから。『週刊読売』で連載してたんですけど、たぶん一冊分ないんじゃないかな。

謎のメモ「コボはおと課長」


パソコン画面の左上にある謎の「コボはおと課長」のメモ

―― この机にぶら下がったり、貼られている短冊はなんですか? 

植田 備忘録みたいなもんです。アイデアを考えるときのやりかた。例えば「コボはおと課長」ってここに書いてあるでしょ。これは「コボちゃんは、かりあげクンじゃなくて、おとぼけ課長の精神状態で行かなくちゃいけないぞ」っていう備忘録。

―― あそこに下がっている「ノンフィクション漫画」というのは何ですか?

植田 ああ、ノンフィクション漫画を描いたら面白いかなって思ったんだよね。

―― ええーっ。ぜひそれは。

植田 でも、これ吊るしたの10年以上前だよ(笑)。こういうのが溜まって、短冊だらけになっちゃった。

朝起きたらまず、ブレスト用のパソコンを立ち上げる


「他人にはわけわかんないかもしれないけど、私にとってはブレーンストーミングするためのメモ」

―― こちらの画面にあるのは何でしょうか?

植田 朝起きたらまずこれと、パソコンの検索画面を起動させてます。これ、チェックリストなんですよ。作品を完成させたり、アイデアを練るときに確認しています。「大きくする、小さくする」とか書いてあるでしょ。他人にはわけわかんないかもしれないけど、私にとってはブレーンストーミングするためのメモなんです。

―― では、この辺は撮影禁止エリアですね。マル秘の仕事術がいっぱいで。

植田 いや別にいいですよ。どうせ見たって同じようにはできないんだから(笑)。

496冊目のアイデアノートの中身を特別に公開!


2017年5月3日から使っている496冊目のアイデアノート

―― このノートは何ですか?

植田 アイデアノートです。これが496冊目。


 


 

―― 1ページが8コマに分割されていますから、2本分のアイデアをここに下書きされて……。

植田 いや、そうでもないんですよ。思いついたところをササッて描いて、竹やぶから連想で、タケノコ、かぐや姫、パンダ、虎ときて、虎のしっぽを踏むというのでなんかできないかと考えたんだけど、いいのが思いつかなくて、ここでやめてます。


 


「タケノコ、かぐや姫、パンダ、虎ときて……」

―― 起承転結の4コマではなくて、ただ便宜上8マスに分けているだけなんですね。

植田 まあそうですね。自分に馴染んでいるからやりやすい。

コボちゃんは15秒で生まれる


「これは下書き用紙です」


目から描き始めて15秒


あっという間にコボちゃんとミホちゃんが描かれた

―― 目から描くんですね! (15秒くらいでコボちゃんが完成) 目から描くというのも、やはり自己流?

植田 だって人が描いているの見たことないんだもん。誰かの仕事場に行って、描いてるところ見たいんですよね。あと道具とか、何使ってるのかとか、興味あります。

―― 愛用のペンはこちらですね。


 

植田 1万円の万年筆です。ペン先が大きくて柔らかくて勝手がいいんです。ペン先は自分でちょっと改造というか、作っていましてね。Gペンやスプーンペンよりインクもちもいいし、長持ちする。1本で5、6年はもちます。

「植田まさし」というペンネームになったワケ


 

―― そういえば先生のペンネームはどうして「植田まさし」なんですか?

植田 ああ、「ちょんぼ君」でデビューした時は「まち・あみち」っていう名前でやってたんですけどね。

―― まち・あみち?

植田 私、本名が「まさみち」っていうんです。で、それを速く言うと「マチァーミチッ」ってなるから「まち・あみち」。でも、売れてきて、この名前じゃあんまり良くないなって思い始めていたら、編集者から「じゃあ、さも昔から漫画家としてやっていました、っていう名前にしましょうよ」って提案されたんです(笑)。それで苗字が「植松」なんですけど、田んぼにしちゃえと「植田」。まさみちだから「まさし」。


 

秘密道具「アイデアダブり防止カード」


棚に整理されている謎の箱の数々


箱の中身は、整頓されたカードの束

―― このカードの束はなんですか?

植田 アイデアダブり防止カードです。全部コボちゃん用なんですが、アイデア思いつくでしょ。で、描こうかと思ったときに、ちょっと待てよ、前に描いたんじゃないかっていうようなことが起こるんですよ。それで「おつかい」の話だったら、おつかいの束を出して……。


 


おつかいのフォルダには、追記で「通販」とも書かれていた


 


―― 1本、1本切り抜かれているんですね。

植田 パラパラーッとチェックして、同じネタがあったら「あーダメだ、描くのよそう」ってなる。


「パラパラーッとチェック」

―― 仕分けは先生がなさるんですか?

植田 いや、アシスタントに任せています。


ペンタブ

―― こちらはペンタブレットですか?

植田 それ入れたの早いんだけど、画面見ながら描くわけでしょ。そうすると、どうも線がずれてしまって。液晶のものに買い替えたんだけど、やっぱり合わない。新し物好きというより、省エネ路線なだけなんですけど、手に馴染まなかったんだよね。だから結局、今も手描き。

謎の釣竿を、実際に使っていただいた

―― 釣竿? ですか、そこに立てかけられているのは。

植田 これね。これはこうやって……


これね


こうやって


狙いをつけて……


ピッ

植田 床暖房のスイッチを入れるの。

―― 机の周りが、アナログなんだけどシステマチックですね……。しかし、ずっとこちらで座り仕事ですから、腰に相当くるんじゃないですか?

植田 机の上に台があるでしょう。だから、上半身がぶら下がるような感じで机に向かっているんですよ。すると、腰にこないことがわかった。


 

アイデアは、ここに座らないと出てきません

―― お邪魔しました。ありがとうございました。この後は、またお仕事ですか。

植田 今日はこれから晩ご飯作ります。いい気分転換になるんですよ。

―― 料理しながらだと、アイデアも浮かびそうですね。

植田 いや、浮かばないです。アイデアは、ここに座らないと出てきません。その辺に立っててふっと浮かんだものなんて、当てにできないんですよ(笑)。出すぞ、と思ったときに出さないとダメです。

―― あ、そこにグローブが置いてありますね。


 

植田 たまにやりたいんですけどねー、買ったはいいけど暇がなくて。


 

―― 学生のときのポジションはどこだったんですか?

植田 外野とピッチャー。だから、たまには外出て使いたいんだけどねえ。


 

うえだ・まさし/1947年、東京生まれ。中央大学文学部哲学科卒業。82年、第28回文藝春秋漫画賞。2016年、日本漫画家協会賞大賞。作品に「コボちゃん」「かりあげクン」「おとぼけ課長(現・おとぼけ部長代理)」「フリテンくん」など。現在も年間1100本余りの四コマ作品を描き続ける。

写真=鈴木七絵/文藝春秋

(「文春オンライン」編集部)