地方都市の駅前といったら、たいていがどこも変わらないお決まりの光景が広がっているものだ。改札口を出ればバスやタクシーのロータリー。そしてその中央には「ようこそ」なんて書かれて先端に時計の付いた塔のようなものが建っていて、その周辺に謎のオブジェが置かれていたり。そして、駅の周りにはほとんど人がいない。おかげで、仮に駅から少し離れた商店街が賑わっていたとしても、旅人は「ああ、この町は寂れているんだな」などと思って次の列車で町を去ってゆく。数少ない列車に退屈そうな駅員に別れを告げて――。

宗教都市・天理市の玄関が、激変した

 と、こんな地方の駅あるある。だが、もちろんすべての駅前がこんな感じで寂れているわけではない。関西は奈良県、京都駅から約1時間の天理市の玄関口・天理駅。だだっ広い駅前広場に白い円形の小山がいくつも建ち並び、山の上やら周囲やらを子どもたちが駆け回る。内部がトランポリンになっている山のひとつでは、延々とジャンプし続ける小学生の姿。半地下のカフェでランチを楽しむ人の姿があれば、高架下の“南団体待合所”では井戸端会議を楽しむお年寄り。仕事サボって昼寝を決め込むサラリーマン、勉強に励む高校生の姿……。一体、これは何なのか。というわけで、天理市総合政策課の吉本幸史さんに聞いてみた。


天理駅前に円形古墳! ©鼠入昌史

「これ、『CoFuFun(コフフン)』と言いまして、今年の春に完成したばかりの広場です。広い駅前広場を活用して、多くの市民が集まり、そして子どもたちが自由に遊べる場所を提供したい。そういう狙いで作りました。これまで、ほとんどの人が素通りしていた駅前も今ではすっかり賑やかになりましたね(笑)」

リニューアルの背景にあった市の課題とは?

 吉本さんによれば、もともと天理駅前は天理教の信者が全国から集まるために2万平米近い広大な広場が設えられていたという。かつてはJR・近鉄とも多くの団体臨時列車が走り、駅前の広場はたくさんの信者たちで賑わった。が、最近では鉄道ではなくバスで訪れる信者が増えたため、駅前広場や改札口直結の“団体待合所”の利用も減っていた。その再整備で生まれたのがCoFuFunというわけだ。背景には、市の抱える課題があった。

「2003年にも広場を南北に分けて再整備したのですが、当時は駅前の違法駐輪対策が重視されていたので、地下に駐輪場を作っただけでした。でも、整備から10年以上が経過し、現状天理市も人口減少に悩んでいますし、なんとか町を活性化させたい。子どもたちが安心して遊べる場所も作りたい。子どもが集まれば親御さんも来るし、高齢者もやってくる。賑やかな駅前にすることが、活性化の第一歩になるのではないかと思ったのです」


リニューアル前の天理駅前


現在の天理駅前 ©鼠入昌史

古墳が日常の中にあるというのがおもしろくて

 コンペを経てデザインを依頼したのは、佐藤オオキさんが代表を務めるデザインオフィスnendo。佐藤さんが「天理市に約1600基も古墳があるというのはおもしろい」と目をつけて、古墳モチーフの広場になったという。佐藤さんは話す。

「天理って、どこを歩いても古墳があるんですよね。小高い丘があったら全部古墳ですと。それを大事に扱っているかというとそうでもなくて、農作物を育てていたりする。古墳が日常の中にあるというのがおもしろくて、じゃあいくつか古墳が増えたところでいいでしょうと(笑)」


佐藤オオキさん ©平松市聖/文藝春秋

 古墳の“円形”という形状には大きなメリットがあった。当初の計画では鉄骨で骨組みを組んで周囲を地元産の木材で覆う予定だったという。だが、建設資材の高騰によりそれは難しくなり、工場で製造したコンクリート製のパーツを組み合わせる方式に改めたのだという。

「ケーキのひとかけらみたいなブロックを積み木のように組み合わせているんですが、これが実に安定するんです。円形だからお互いに押し付け合うことでバランスの良い構造物になる。また、円形の良さは他にもあって、裏ができにくいんです。四角い構造物だとどうしても裏ができて、どうしても裏はスラム化してしまいがちになる。でも、円だとそれがない。全方位から人が集まってくるようなものになるわけです」


「古墳」は「ケーキのひとかけらみたいなブロックを積み木のように組み合わせている」 ©平松市聖/文藝春秋

「古墳」を階段状にしたのには理由がある

 人が集まりやすくするための工夫は他にもあった。

「コンペ前に初めて天理駅に行ったとき、正直圧倒されたんです。広いし何もないし誰もいないし。日本人って、がらんどうの広場が苦手なんじゃないかと思うんです。海外だと広場のあちこちに人が座って思い思いに過ごしていますけど、日本人はどうしても端っことか路地裏とかに寄っていく。だから、真ん中に駅から商店街に抜けていく大通りができるようにこの古墳を配置して、路地っぽいイメージを出せればと。階段状にしているので座る場所にもなるし、人が集まるきっかけづくりという意味での古墳なんです」


©鼠入昌史

 さらに、「機能を特定させないこと」が大事だとも佐藤さんは言う。デザイナーが「ここは歩いてください、ここはホールなのでなにかイベントをやってください」というように使い方を押し付けるのではなくて、“どこで何をやっても良い”という緩やかさ。これが公共の場のあるべき姿のひとつだというわけだ。

 実際、今の賑わいを生み出している要因のひとつは“どこで何をやっても良い”という市側の姿勢によるところも大きい。天理市の吉本さんは言う。

「先日は地元奈良県のプロレス団体が興行をやってくれました。聞けば、他の自治体では開催が難しいようなんです。週末は隔週で天理市や周辺の特産物を売るマルシェをやっていますし、とにかくどんなイベントでもいいからどんどん使ってもらいたい。他の町でダメなら是非天理で。ありがたいことに、イベントスペースの予定は秋まで埋まっています」


裏表のない、集まりやすいスペースがいたるところにある ©鼠入昌史

JR、近鉄、天理市、天理教……全方面の「調整」をしたのは

 こうした取り組みを進めることができたのには、市長の政治的決断も大きいと吉本さん・佐藤さんは口をそろえる。

「そもそも駅前は機能面でも法律面でも人が溜まるような想定がされていないんです。さらにあの土地は所有者が複数に分かれているので、なにかやろうとすれば全方面の調整が必要になるんです。もちろん国交省や地元の商店街との調整もある。それをすべて市長が先頭に立って進めてくれた。ある意味思い切った駅前広場が作れたのは、市長の力あってこそですね」(佐藤さん)


駅前のカフェも人気 ©鼠入昌史

 かくして“ただの広場”だった頃とは比較にならないほど賑やかな駅前が生まれた天理駅。JR天理駅のホームからも子どもたちの声が聞こえ、トランポリンで跳ね続ける子どもの姿も見える。だが、吉本さんは「これがゴールではなく、むしろスタート」と語気を強める。

「駅前の整備は出発点に過ぎません。ゆくゆくは市全体の活性化、そして人口増加につなげていかなければ。そのためにも、せっかくCoFuFunにたくさんの世代の人が集まるようになったので、世代間交流が生まれたらいいなと。また、新興住宅地と歴史の古い市中心部との間の交流も生まれて、より多くの人が『天理って良いところだな』と町の魅力を知ってもらうきっかけになるよう、これからも頑張っていかなければなりません」


レンタサイクルも充実 ©鼠入昌史

デザイナーの仕事は、作って終わりではない

 駅前広場のデザインは終わったが、佐藤さんの仕事は終わらない。

「例えば駅の裏側をどうするのか。そのバランスも取っていけたら良いし、手直ししていかないといけないところもある。スポーツが盛んな町で世界中から遠征に来る人もいるのに宿泊施設が充分でないなど、すべての課題が解決されたわけではありません。駅前の再整備はあくまでもきっかけ。私たちデザイナーの仕事は作って終わりではなくて、どういう風に使われていくのか、ソフトの部分にもコミットしていかなければならないと思っています」


©平松市聖/文藝春秋

 ともあれ、今までの“地方都市の駅前広場”とは一線を画した天理駅前のCoFuFunの賑わいは、地方の活性化のひとつのヒントになることは間違いないだろう。佐藤氏は「どの町にも必ずオリジナルの魅力やコンテンツがある」と力を込める。

「日本全国どこに行っても同じような駅前広場がある。それってなんだか不気味ですよね。だから、ひとつひとつの駅や町にあわせたローカライズが必要なんだと思います。天理駅前広場は順調に機能してきていますが、これを他の駅にコピペすればよいかというと、そうではないでしょう。その上で、デザイナーはそれぞれの町の魅力をどう直感的に分かりやすく表現し、落とし込んで伝えていくか。手間はかかりますけど、そうすることが地域活性化の第一歩になるのではないでしょうか」

人口減少時代、“駅前”という公共スペースをいかに活かすか

 少なくとも、今の天理駅に降り立って「この町は寂れているんだな」と去っていく人はいないだろう。むしろ、興味を持ってCoFuFunに立ち寄り、カフェで一休み、場合によっては地元の人との交流を楽しむこともあるかもしれない。そして、駅に人が集まれば鉄道の利用者増にも繋がる可能性がある。人口減少時代、“駅前”という公共スペースをいかに活かすのか。天理駅前の“古墳”で遊ぶ子どもたちの声が、そのヒントを教えてくれている。


©平松市聖/文藝春秋

(鼠入 昌史)