ドル/円は今年に入って、1ドル=110〜115円を中心としたレンジで推移してきました。米金利が上昇することで、ドルはいずれ115円を超えてさらに上昇する可能性が高いと見ていますが、今回はその鍵を握る米金融政策について考えてみましょう。

年内利上げは「ほぼ五分五分」

 米連邦準備制度理事会(FRB)のイエレン議長は7月12〜13日の議会証言で、景気に楽観的な見方を示し、緩やかな利上げを継続する意向を表明しました。一方では、物価上昇率がFRBの目標である2%を下回って推移していることに懸念を示し、今後どの程度、物価が上昇するかは不確実とも指摘したのです。

 イエレン証言は利上げに慎重な「ハト派」的であると市場に受け止められ、証言直後に市場金利は低下、ドルは下落しました。イエレン証言後のFFレート先物を見ると、市場は年内利上げの確率を「ほぼ五分五分」としているようです。

 FRBが利上げに慎重なのは、物価上昇率が年初から低下し、「2%目標」とのかい離が広がっていることや、物価上昇圧力となりうる賃金が伸び悩んでいることが大きいでしょう。換言すれば、物価や賃金の上昇率が高まれば、FRBは現時点の想定よりもアグレッシブに利上げをすると言えるかもしれません。

物価上昇率の低下は一時的要因による

 物価上昇率の低下は、年初からの携帯通話料金の急落といった一時的要因も大きいようです。通話料金がここで下げ止まったとしても、前年同月比で見る物価上昇率には、年内は下向きの圧力が加わり続けます。もっとも、FRBはその点を差し引いた上で「物価上昇率は目標に向かっている」と判断する可能性もあります。

 一方で、米国の失業率はここ2年近く、5%ないしはそれを下回って推移してきましたが、今年に入って一段と低下し、5月は4.4%でした。失業率4%台は高いと思われるかもしれませんが、米国の完全雇用の水準は4%台後半であり、それを下回ると賃金上昇を伴うインフレになるとされてきました。

 にもかかわらず、賃金が伸び悩んでいることは不思議です。12日に公表された地区連銀経済報告(ベージュブック)でも「賃金は引き続き、わずか、または緩やかなペースで上昇した」と報告され、特に変化はうかがえませんでした。

 ただし「低熟練、高熟練の双方のポストで賃金上昇圧力が高まっている」「福利厚生のコストが上がっている」などの指摘はあり、複数の地区連銀が、労働市場のひっ迫によって人材確保が困難になっていると報告しました。賃金インフレはすぐそこまで来ているのかもしれません。

大幅な利上げはもう必要ない?

 ところで、FRBがリーマン・ショック後の極端な金融緩和策の正常化を進めるなかで、利上げと並ぶもう一つの柱がバランスシートの縮小です。FRBは2014年秋に量的緩和(QE)を終了しましたが、それまでに購入した大量の債券(国債と住宅ローン担保証券)を保有し続け、満期を迎えた債券は再投資を行って残高を維持しています。この再投資を徐々に減らすことで、膨れ上がったバランスシートを縮小しようというのです。

 イエレン議長らFRB関係者の最近の発言を見ると、バランスシートの縮小を「早期に」開始することがほぼ既定路線になっています。市場では、9月の連邦公開市場委員会(FOMC)で発表され、10月にも開始されるとの見方が有力です。その影響を見極めた上で、追加利上げは早くても12月ということかもしれません。

 FOMCのメンバーでもあるブレイナードFRB理事は11日の講演で、利上げとバランスシート縮小に関して「国内経済に対しては同様の引き締め効果を持つが、為替レートへの影響は利上げの方が大きい」と発言しました。その通りならば、ドルが上昇し始めるのはバランスシート縮小開始よりも、次の利上げ観測が高まった時ということになりますが、果たしてどうでしょうか。

 イエレン議長の証言で一つ気になったのは、政策金利の中立水準(景気を刺激も抑制もしない水準)が過去に比べて相当低くなっており、そこに到達するために大幅な利上げは必要ないと述べたことです。

 6月に公表されたFOMCメンバーの政策金利見通し(中央値)によれば、2018年に3回、19年に3〜4回の利上げが想定されていました。今後も景気は過熱しない、従って中立水準を超えた利上げは必要ないとなれば、来年以降の利上げは絵に描いた餅に終わるでしょう。仮に年内に利上げが実施されても、そこで打ち止め感が台頭するならば、ドルの方向性が根本的に変わる可能性もあります。ドルはそこがピークになりかねません。

(株式会社マネースクウェア・ジャパン チーフエコノミスト 西田明弘)