負傷から復帰途中の香川真司はベンチからチームメイト達の戦いを見届けた【写真:Getty Images】

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2つのシステムを試したボス監督。香川はどう見たか

 ボルシア・ドルトムントは15日、明治安田生命Jリーグワールドチャレンジ2017で浦和レッズと対戦し、3-2で辛くも今季初勝利を挙げた。左肩脱臼の影響で離脱中の香川真司が欠場する中、ペーター・ボス新監督を迎えたドルトムントはチームとして満足に機能せず、多くの課題を露呈している。新体制で香川に居場所はあるのか、そしてどんな役割を担うことになるのか、様々なことが見えた一戦から考察する。(取材・文:舩木渉)

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 ペーター・ボス新監督を迎えたボルシア・ドルトムントは、15日に行われた浦和レッズとのフレンドリーマッチで今季初勝利を挙げた。

 プレシーズンに入って2試合目、チーム始動から約1週間かつ長距離移動直後で万全な状態ではなかったとはいえ、内容に満足はできないだろう。新監督の方針が見えてくる一方で、選手たちが迷いをのぞかせる場面もあった。

 前半は中盤にアンカーを置く4-1-2-3の布陣でスタート。これはボス監督がアヤックスで採用していた形と同じで、今季のベースになっていくものと思われる。後半は最終ラインを3バックにして、3-4-2-1をテストした。

 日本代表戦で負った左肩脱臼の影響でこの日の浦和戦を欠場していた香川真司は、「自分に当てはめながら見ていました」という。

 ボス監督のプランは定かではないが、仮に浦和戦で採用した布陣の中に香川を組み込むとすれば、4-1-2-3の「2」にあたるインサイドハーフか、3-4-2-1の「2」にあたる攻撃的なポジションになるだろう。

 ただ浦和戦を見ている限り、これらの2つの布陣において香川の強みが生きる場面は少ないように思われた。ボス監督は「香川の長所を生かしていきたいと思っている。オフェンシブのいい選手なので、それをチームに取り込んでいきたい」と述べていたが、現状は日本人MFよりも攻守にハードワークできる選手が好まれている印象だった。

 4-1-2-3の場合、チームの柱は「1」が担うアンカーということになる。ボス監督が率いた昨季のアヤックスでは、ラッセ・シェーネが担っていたポジションだ。元々は前線のウィングだったデンマーク代表MFは、年齢を重ねるごとにプレーの幅を広げ、今では中盤よりも前ならどこでもこなすスーパーユーティリティとして評価を確立している。

 そのシェーネは、ボス監督によってアンカーを任されて覚醒した。昨季のオランダリーグにおいて、決定的なチャンスにつながるキーパス数は1試合あたり平均2.6本で全体の4位。守備においては1試合あたりの平均インターセプト数で3.1回を記録し、並み居るDFたちを抑えて全体1位となった。

ボス体制でインサイドハーフに求められる役割とは

 つまり攻守における要がボス監督がアンカーに求める役割で、一方のインサイドハーフにはより攻撃面での決定的な仕事に加え、守備のスイッチ役としての仕事が要求される。前述の平均キーパス数で全体1位に輝いたのは、異次元のテクニックでアヤックスの攻撃をけん引し、11アシストを記録したインサイドハーフのハキム・ジィエフだった。

 そのジィエフもテクニシャンのイメージがありながら、守備では効果的なプレッシングでチームに貢献する。ボス監督は攻撃から守備への切り替え時に「5秒ルール」という決まりを設け、ボールを失ってから5秒以内に奪い返すことを意識させてきた。

 浦和戦でのドルトムントも、インサイドハーフとして起用されたセバスティアン・ローデとゴンサロ・カストロがボールを失った瞬間に猛烈なダッシュで相手にプレッシャーをかける場面が何度も見られた。

 元々ローデはより守備的な仕事で力を発揮するタイプで、球際の競り合いや出足の鋭さが売りのセントラルMFだ。カストロは攻守のリンクマンとして前と後ろを繋ぐ存在であり、創造性という意味では香川やマリオ・ゲッツェに劣る。

 それでも彼らが浦和戦でスタメン起用されたのは、まず守備でしっかりと形を作るためと思われる。アンカーに入ったヌリ・シャヒンに機動力と守備力の不安がある中、それをカバーするのはインサイドハーフ2人の役割だった。

 しかし、本来最終ラインからボールを引き出して前に運ぶはずのシャヒンが、浦和戦では機能しなかった。あまり下がらず、かといってパスをさばいた後に動き直して組み立てに関わるそぶりも見せない。

 香川は「なかなか前にスペースがない中で、ちょっと渋滞していた」と前半のドルトムントを分析したが、相手を押し込む中でシャヒンも前がかりになり、両サイドがフリーになっていた一方で中央には余裕がなくなっていた。

「サイドはフリーでしたけど、中に1回どういうタイミングかで入れないとフリーになってこないので、局面を打開できなかったですし、そういう意味ではなかなか苦しい展開だった。だからこそ動きの質だったり、コンビネーションも含めてもっともっと僕たちはトレーニングを積んでいかなければいけない」とは香川の言葉。

 攻守のバランスを整え、前がかりになりがちな若いチームを引っ張っていく役割が香川には求められるだろう。もちろん積極果敢に相手の動きを封じる守備も求められる。

香川の本格復帰は8月? ポジション争いは超激戦

 しかし、復帰はもう少し先になるようだ。

「このキャンプが明けて、アジアツアーが終わって、2次キャンプあたりで部分合流できたらいいのかな」と香川は語る。ドルトムントは日本から中国へ飛び、18日に大型補強で注目を集めるミランと対戦する。

 その後は一旦ドイツへ戻り、22日にボーフムとの練習試合をこなす。そしてスイスで2次キャンプを行い、28日にエスパニョールと、8月1日にアタランタとの練習試合が予定されている。香川はスイスで全体練習に部分合流する予定で調整を進めていると見ていいだろう。

 予定通りに進んでも8月5日に迎える今季最初の公式戦、ドイツスーパー杯のバイエルン・ミュンヘン戦の出場は難しいかもしれない。

 香川は「もちろん何より(チームと同時に)スタートしたかったですけど、怪我の状況が状況なのでしょうがないですし、そこはもう切り替えているので、しっかりと開幕、そこに照準を合わせて調整していきます。しっかりとトレーニングを積んでいけば必ずピッチに出られると思っているので、それをしっかりやるだけです」と話す。

 今は8月19日のブンデスリーガ開幕戦・ヴォルフスブルク戦への出場が当面の目標となる。バイエルン戦の後もDFBポカール含めて隠したとの調整試合は3試合予定されており、まだ時間は十分にある。

 香川が担うであろう4-1-2-3でのインサイドハーフはチームで最も競争が激しいポジションのひとつ。浦和戦に先発したカストロとローデに加え、体を絞ってコンディションが上向けばゲッツェも競争に加わってくる。

 さらに負傷離脱中のユリアン・ヴァイグルが復帰すれば、アンカーを務めていたシャヒンもポジションを一列上げることになるかもしれない。長期離脱しているラファエウ・ゲレイロもインサイドハーフとして高いポテンシャルを秘めている。ここに挙げただけで2つのポジションに対して6人の候補がいる状態だ。守備の仕事ありきで2人を選ぶとすれば、香川が選択肢に入らない可能性すらある。

「自分が中心に」。香川が今季にかける思い

 一方で3-4-2-1の2シャドーも激戦区に違いない。浦和戦で2ゴールを挙げて猛アピールしたエムレ・モルや、決勝点を奪ったアンドレ・シュールレだけでなく、まもなく19歳を迎える急成長中のクリスティアン・プリシッチ、直前の体調不良で日本のファンにプレーを見せられなかったウスマヌ・デンベレ、長期離脱中のマルコ・ロイスといった実力者たちがしのぎを削る。出遅れた香川にとって厳しい戦いだ。

 ドルトムントはチームとして解決しなければならない課題が多く残されている。前線と中盤の連携が噛み合わない場面は多く、組み立ての起点を最終ラインに置くのかアンカーに置くのか、中央から崩すかサイドから崩すのかも曖昧だった。

 結果的に3ゴールを奪って逆転勝利したが、浦和戦はチームで崩して勝ったというより、個人能力の高さと卓越した個人戦術で勝ったと言える。

「個の力は本当に生かさなきゃいけないですし、ただそれがうまくいかなかった時にどう戦えるかもひとつ大事になっていく。そういう意味ではうまくバランスをとりながらも、自分をピッチで出し続けていければ。監督のサッカーだったりビジョンも僕はすごく好きですし、そういう意味ではこれからがすごく楽しみです」と語る香川の活きる場は必ずあるだろう。

 始動して1週間のため多くを求めることはできないが、ボス監督が率いたアヤックスは昨季スタートダッシュに失敗して最終的にフェイエノールトの逃げ切りを許した苦い思い出がある。ドルトムントというビッグクラブでスロースタートは許されない。

 現時点ではインサイドハーフとして攻守のバランスを整えつつ、武器である創造性でゴールを演出することが香川が生きる道になる。チームとしての完成形が見えづらい状況ではあるが、「自分が中心になってやっていかなければいけない」と決意を新たにした背番号23にボス監督がどのような役割を提示するか、しばらく見守っていきたい。

(取材・文:舩木渉)

text by 舩木渉