ひきこもり30年44歳 小遣い6万の是非

写真拡大

月23万円余り支給される年金で暮らしている高齢の夫婦。2人だけなら生活できるが、家にはひきこもり歴30年の44歳の息子がいて、家計は毎月9万の赤字。FPの筆者は、今後の生活を考えて息子に与えていたあるお金の削減を提案した。そのお金とは?

■「そろそろお金の方も厳しくなってきました」

ある残暑の厳しい年のことでした。

私は汗を拭きながらご相談者の自宅に向かっていました。通常は私の事務所やその付近でご相談を受けているのですが、親御さんの強い希望もあり、かつ、私の事務所からそれほど遠くなかったため、今回はご相談者の自宅でお話をすることになりました。

向かった先は埼玉県南部のIさん宅です。

ご自宅のマンションにうかがうと、玄関でお母さんが出迎えてくださいました。ご挨拶をした後リビングに入ると、そこにはお父さんと緊張した面持ちのお子さんがいらっしゃいました。

お父さんは、私にこう言いました。

「今までは息子にお金のことで余計な心配はかけまいとして、ずっとお金の話はしてきませんでした。しかし、そろそろお金の方も厳しくなってきました。そこで一度専門家を交えて家族会議を開きたいと思い、この度自宅での相談を希望しました」

時間は止まったまま。息子の部屋の扉は開かない

そこで、まずは家族構成やお子さんのふだんの様子、ご家族の財産、収入支出の状況を聞き取るところから始めました。

家族構成は、お父さん(70)、お母さん(68)、ひきこもりのご長男(44)の3人暮らし。長男は高校2年の頃から勉強について行けなくなりたびたび学校を休むようになったそうです。出席日数や定期試験の点数の関係で、留年が決定したのをきっかけに高校を中退。
中退後は外出の機会もめっきり減り、ほとんどの時間を家の中で過ごすようになったそうです。

大事に大事に育てた一人息子が、なぜか生きる気力をなくしてしまった。昼夜は逆転し、日々、ゲームやパソコンばかり。親として何がいたらなかったのだろう……。それでもそのうち元気を取り戻して、また外の世界に戻ってくれる。親御さんはそう信じて疑わなかったに違いありません。

しかし、時間は止まったまま。息子の部屋の扉が開くことはありませんでした。

■年間赤字108万円、あと5年で貯金が底をつく

中退後の何年間かはそうやって動揺し、心配し続けた親御さん。「このままではいけない」。あるとき、勇気を振り絞って声をかけたそうです。

「通信教育を受けてみたらどうかな?」
「気分転換にもなるから、気軽にアルバイトでもしたらどう?」

返答はありませんでした。親御さんが促したものの長男は乗り気にならず、何も行動を起こしませんでした。そのうち、何も行動をしない長男が家にひきこもり続けている状態が当たり前のように感じられていき、徐々に親御さんからの促しもなくなっていったようです。月日は流れ、ひきこもってからすでに27年も経過してしまいました。

ひきこもった当時、親御さんの年齢はお父さんが43歳、お母さんが41歳でした。まだふたりともバリバリと働き、精神的にも充実していました。未来はあると信じていたはずです。しかし、その力は加齢とともに衰えていきます。

長男は体調のよい時には親御さんが与える小遣いで欲しいものを買いに外へ出かけることがあるようです。小遣いが足りない月は親にせびることもしばしば。精神的に不安定になってしまう日もあり、親御さんは病院に通うことを勧めていますが、本人が嫌がって今まで通院をしたことはないとのことでした。

収入は年金だけ、財産は虎の子の500万のみ

次にご家族の財産、収入支出を伺いました。

----------

▼財産
貯金……約500万円
※その他の財産なし
▼収入
お父さん……公的年金収入 210万円/年
お母さん……公的年金収入 74万円/年
※公的年金以外の収入なし
▽支出
生活費や家賃など……年額392万円

----------

単純計算ですが、貯金500万円÷年間の赤字108万円=約5年で貯金が底をつく、ということがわかりました。

■「ひきこもりの子に小遣い6万円」は正しいのか?

「えっ? うちにはもうこれだけしかお金がないの? やばいじゃん。どうすればいいの」

家計の状況やいずれ貯金が底をつくという現実を初めて知った長男。聞けば、家族のお金のことはとても気になったけれど、なかなか聞き出すタイミングがなかったとのこと。もっと早く教えてくれればよかったのに……とかなりショックを受けてしまったようです。

このご家族には他にも多くの課題が見つかりましたが、その分、私からの提案も多くなってしまいます。最初から多くの提案をしてしまうと何から実行していけばよいのか迷ってしまい「結局何も行動しない」というリスクが高くなってしまいます。

どんだ解決策でも、それを実行しなければ現実は変わりません。そこで長男を含めたご家族での話し合いの結果、まずは以下の2点を早いうちに確実に実行する、ということで覚悟を決めていただきました。

・長男の小遣いの減額
・住み替え先を探す。可能なら早目に住み替える。

この2つの提案を実行するだけでも、年間の支出はかなり改善します。

長男の小遣いは月6万円。小遣いの主な使い道は、お菓子、ジュース、マンガ、ゲームソフト、パソコンのゲームや周辺機器、映画、アニメグッズ、フィギアなど。足りない月は追加で請求していたため、小遣いだけで年間約80万円もかかっていました。

「小遣いは減らしてください。月3万円あれば大丈夫です」

長男の小遣い減額の話になった際、長男自らがこう切り出してくれました。

「小遣いは減らしてください。月3万円あれば大丈夫です。足りなくなってもせびることはもうしません」

ここで注意いただきたいことは「小遣いは0円にしない」ということです。

ひきこもりのお子さんに小遣いを与えること自体は決して悪いことではありません。お金を遣って欲しいものを買いに行くという活動は、お子さんが社会とつながるために必要不可欠なものだからです。

ただ、今回のご家族にとって「月6万円+アルファ」という金額はちょっと多かったように思われたので、減額という提案をさせていただきました。

次に住まいに関するお金の見直しです。マンションの家賃や管理費は月額計11万円。お父さんが現役世代の時は何とかなっていましたが、退職後、年金生活に入った後はこの月額11万円はかなりの出費と感じていたようです。

退職後はご夫婦の間で何度か住み替えを検討したこともあったようです。しかし、長男の性格上、住み替えには応じないはず、と思い込んでいたため、なかなか踏み出すことができなかったとのこと。

そのような心配も今回の家族会議で払拭されました。

長男は家族のお金の見通しを知ったため、住み替えの提案には反対しませんでした。ただし、住み替えをするにしても家族の希望でやっぱり地元にしたい、とのこと。話し合いの結果、最寄り駅からは遠くなりますが家賃6万円台の物件を探していただくことにしました。

以上のことを踏まえた結果、年間支出は290万円ほどになりました。家族の収入が284万円なので、大赤字のままの状態はひとまず改善できることになりました。ただし、この家族のケースは後日、新たな展開もありました。それについてはまたの機会にでも。

ひきこもり、ニートの子を支援してくれる団体や人とは?

今回のご相談では、まずは長男に家族のお金の見通しを知っていただくことから始めました。今回のケースに限らず、ひきこもりのお子さんであっても、将来のお金に不安を持っているケースは少なくありません。ひきこもり予備軍ともいえるニートの子を抱えている家庭でも、同居する働かない子どもの「コスト」は徐々に重荷となっていきます。

その場合、今後のマネープランなどに関して家族だけで話をしようとしても言い争いになってしまい、うまくいかないこともたびたびあるようです。そのような時は家族の中だけで何とかしようとせず、可能な範囲で外部の支援者の助けを借りる、ということも検討していただければと思います。

支援者とは、たとえば以下のような方々です。

●お金に関するご相談なら、ひきこもりに理解のあるファイナンシャルプランナー。
●心のケアや安定を求めるなら、精神科などの専門医師。
●障がい年金なら、年金事務所の相談窓口や区役所の国民年金課。
●自立支援医療や障がい者手帳なら、区役所の障がい福祉課(※障がい福祉課は地域によって様々な呼び名があります。以下同じ)。
ひきこもり全般のご相談なら、ひきこもり地域支援センター、精神保健福祉センター、保健所など。
●就労支援(障がい者の就労支援)なら、就労継続支援などを行っている団体やハローワークの障がい担当窓口、区役所の障がい福祉課など。
●同じ悩みを抱えているご家族との交流なら、「親の会」。

そのほかにもご家族の状況に応じて、適切な支援者がいらっしゃると思います。家族の中だけで解決しようとせず、ぜひ外部の力を借りることを検討してください。

(社会保険労務士・ファイナンシャルプランナー 浜田 裕也)