8月26日〜27日に鈴鹿サーキットで行なわれる2017年のスーパーGT第6戦「インターナショナル鈴鹿1000km」には、例年以上に豪華なメンバーが集結する。なかでも注目は、GT500クラスにスポット参戦するふたりの元F1ドライバーだ。


ジェンソン・バトンが「チーム無限」から鈴鹿1000kmに初挑戦

 まずひとりは、元F1ワールドチャンピオンのジェンソン・バトン(イギリス)。そしてもうひとりは、今年のル・マン24時間レースで日本人ふたり目のポールポジションを獲得した小林可夢偉。バトンは「チーム無限(ホンダ)」、可夢偉は「レクサス・チーム・ウェッズスポーツ・バンドウ」から参戦する。

 8月の本番に向けてバトンは、6月6日〜7日に行なわれたタイヤメーカーテストですでにGT500マシンをドライブしている。だが、そのときは走り足りないような表情を見せていた。するとバトンは、6月30日〜7月1日に鈴鹿サーキットで行なわれる公式合同テストに急きょ参加希望を表明。当初は予定になかったが、今回のテストは本番と同じくらいの台数が参加するため、スーパーGT特有のGT500・GT300による混走なども経験できるからだ。

 この2日間では、一番の課題としていた混走を経験した他、タイヤの比較テストや予選のタイムアタックを想定した走行、そして決勝を見据えたロングラン(連続周回)走行のテストも実施。スーパーGT独特の手順で進められるセーフティカーシミュレーションにも参加した。

 バトンは2日間で63周を走り込み、ベストタイムは初日の最後に記録した1分49秒283。チームメイトやライバルたちと比べても1秒以内の差で、前回テストと合わせて合計100周ほどしか経験していないにもかかわらず、彼らとまったく遜色のないタイムを記録している。ロングランテストでも、GT300クラスを追い抜きながらの周回があったものの、驚くほど安定していたのが印象的だった。

「すごくポジティブなテストだったよ。前回は『少し乗っては休んで』という形だったから、クルマに慣れるのに時間がかかった。でも、今回はたくさん乗れていいフィーリングも得られることができたし、自信にもつながったよ。まだ改善しなければいけないことがたくさんあるけど、確実に進歩できたと思う」

 テスト後にバトンはそう語ったが、同時に新たな課題もあった。それは「ドライバー交代」だ。

 スーパーGTでは決勝レース中、必ずドライバー交代を行なわなければならない。しかも、鈴鹿1000kmの場合は途中に4〜5回のピットストップがあるため、バトンは短時間でマシンを乗り降りできるようになる必要があるのだ。

 前回の6月上旬のテストでは、ドライバー交代の練習はまったくできていなかったという。それだけに、チーム無限の手塚長孝監督は「今回は練習できてよかったです」と安堵の表情を浮かべていた。

 GT500マシンは通常の市販車とは大きく異なり、ボディ内部は安全用のロールバーなどが装着されている。マシンには足から先に潜り込むようにして乗るなど、ちょっとしたコツが必要で難しい。バトンは182cmと長身なこともあり、乗り降りに苦戦するのではないかと思われた。

 チーム無限は初日のテスト走行終了後、マシンをピット前に出して交代練習を実施。2日目の走行セッション中にも、同じような練習を行なった。その感想について、バトンはこのように語る。

「今回のテストで初めてドライバー交代の練習をしたよ。単純に(マシンの乗り降りなど)ドライバーチェンジの部分は大丈夫なんだけど、それ以外に覚えなきゃいけないことがたくさんあって大変だった。ギアをニュートラルにしてエンジンを停止し、クーリングダクトを抜き、無線コードやドリンクのチューブも外し、シートベルトも外さなきゃいけない。最初はそれに混乱したので、練習が必要だね」

 最初はぎこちない部分も多かったバトンだが、前回のテスト同様に積極的にチームメイトやスタッフにやり方を教わり、すぐに上達。2日目の練習では少しずつ形になっていた。

 スーパーGTではピット作業を行なえるスタッフの人数が限られている他、給油とタイヤ交換は別々に行なわなければいけない。通常でも45〜50秒ほどの作業時間がかかるため、ドライバー交代によるタイムロスは発生しにくいが、バトンのコメントにもあったとおり、コード類の脱着等で混乱してしまうと予想以上に時間をロスする可能性もある。本番でどこまで上達してくるのか、鈴鹿1000kmを戦い抜く上でのひとつのカギとなりそうだ。


1戦かぎりでスーパーGTをドライブすることになった小林可夢偉

 一方、同じく鈴鹿1000kmにスポット参戦する小林可夢偉のテストはどうだったか。

 今年もWEC(世界耐久選手権)に参戦している可夢偉は、6月に行なわれたル・マン24時間レースで日本人として2014年の中嶋一貴以来となるポールポジションを獲得。さらにコースレコードも記録するなど、抜群の速さをル・マンで披露した。また、国内ではスーパーフォーミュラにも参戦し、5月に行なわれた第2戦・岡山でのRace1では4位入賞も果たしている。

 これまでスーパーGTに縁のなかった可夢偉だが、今回は1戦かぎりという形で参戦が実現した。しかし、本番のレースではあくまでレギュラードライバーである関口雄飛と国本雄資をメインに戦っていく予定とのこと。初日のテストも両者のドライブを中心に、事前に決められていたテストメニューをこなしていた。

 その合間を縫って可夢偉も乗車し、マシンの感覚を掴んでいこうとはしたものの、結果的には数周単位でしか走ることができなかった。本人も「GT500マシンのファーストインプレッションを話せるほど乗れていないから、なんとも言えないです」と、初スーパーGTの感想を素直に語っている。

 ただ、チームも第3ドライバーとして戦力になってもらいたいのは間違いなく、2日目の午後には決勝を見据えたロングランテストをすべて可夢偉に任せた。テスト2日目はトータルで53周を走行。自己ベストタイムも1分51秒679と、チームメイトと比べても遜色のないタイムを記録した。

 それでもテスト終了後の可夢偉は、まだ完璧に乗りこなせているという感覚はない様子だった。「最初と比べるとちょっとはよくなりましたけど、まだわからないですね……」と控えめなコメントばかり。「ジェンソンが(テストのために日本に)帰ってきた意味がわかりますよ。GT500のクルマって(短時間で自分のモノにできるほど)甘くはないですからね」と語り、GT500マシンを扱う難しさを強調していた。

 とはいうものの、ロングランテストでのラップタイムを見てみると、可夢偉の控えめなコメントとは裏腹に、”さすが”と言える部分も多かった。

 最初の14周では1分54秒台を中心に周回が続いていたが、一旦ピットに戻って2セット目のロングランテストに入ると、1分53秒台までペースが上昇。セッション終盤に行なった3セット目の走行では1分52秒台で周回していた。タイヤやコースの状況もあるだろうが、走るたびに平均タイムが上がっている。この短期間でも可夢偉はさまざまなことを吸収し、マシンに慣れていった証拠だろう。

「(GT300との混走も)問題に感じることはなかったですし、自分がメインでレースをするわけではないので、周りと遜色がない速度で走れればいいと思っていました。そのへんは問題ないかなと思います。8月の本番は、迷惑をかけないようにがんばります」

 テストでは終始控えめだった可夢偉。それでも、わずかな時間で目に見える進化を見せたところは、さすが世界のトップレベルで活躍するドライバーだと感じた瞬間だった。

 鈴鹿1000kmはレース後に花火が打ち上げられるなど、モータースポーツの「夏の風物詩」として親しまれてきた耐久レースだ。だが、今年いっぱいでの開催終了が決定している。そのラストを飾るレースで、ジェンソン・バトンや小林可夢偉、さらには昨年チャンピオンのヘイキ・コバライネン、そして今年の第3戦・オートポリスを制した中嶋一貴など、多くのF1経験者がバトルを展開する。これまで以上に見逃せない1000kmレースになることは間違いないだろう。

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