2歳に満たない子どもが包丁を握ってリンゴを切る。記者が友人宅を訪れた際に、実際にあったできごとです。

彼女が取り入れていたのは、「台所育児」という方法でした。子どもと一緒にキッチンに立ち、料理をつくる「台所育児」は、子どもの心を育むうえで思わぬ効果があるそうです。台所育児を提唱し、『台所育児 一歳から包丁を』(農山漁村文化協会刊)などの著作もある料理研究家の坂本廣子さんに、台所育児のメリットと始め方を聞きました。小さな子どもでもできる!台所育児で子どもの能力を伸ばす


2歳なのに包丁でリンゴを切れた!台所育児の目的は、料理が上手になることとは別だと坂本さんはいいます。「台所育児は、子どもに料理という科学変化の体験をしてもらうことが目的です。できあがりよりも、大人の手を借りずに子どもが自分の力で料理を完成させることが大切。達成感とともに家族のためにつくっているという社会的自尊感情も養えるため、非認知的能力を育むことにつながります」

非認知的能力とは、社交性や学びに向かう姿勢、意欲など個人の資質や特性のことをいいます。幼児期に学力よりも非認知的能力を伸ばした方が社会的に成功するという意見もあり、注目を集めています。

「料理には手順や流れが必要です。だしをとるのにも、昆布をしばらく水に浸けておく必要があるため、続けているうちに段取り力も身につけられますよ」「させる」のではなく「したい」ときに料理に親しませる

台所育児では個人差の大きい子どもに、「何歳からスタートするといい」というはっきりとした線引きはしないそうです。

「個人差はあるものの、私が目安として考えているのは、親が『止まって』と言ったときに止まれるようになったら。つまり、コミュニケーションがとれるようになったときです。そのうえで、子どもが『したい』と思ったときにスタートするといいでしょう」

台所育児を続けるポイントは、子どもが料理を楽しいと思えるかどうかです。そのカギともなるのが、子どもになにをやってもらうか。お手伝いではなく主役として参加してもらうので、料理の下ごしらえだけを分担させるのは避けた方がいいそうです。

「子どもからしたら、タマネギの皮むきだけやっていても、おもしろくはないですよね。私がおすすめしているのは、親が料理の段取りをひと通り説明したうえで、最初から一品まかせることです。ひとりで完成できれば達成感も得られ、子どもの自信にもつながりますよ」

料理のいちばんの見せ場を担当させるのもいいと坂本さん。たとえば、親が肉じゃがをつくったら、キヌサヤの筋取りや切るなど仕上げ部分をまかせると「私がつくった!」と思えるそうです。

一方、疲れてしまって途中でやる気をなくした場合は、無理やり続けさせる必要はありません。

「お子さんが途中で飽きてしまった場合も同様です。『続きはママがやってもいい?』と聞いて、お子さんのOKがでたらあとはお母さんがしていいのです。無理強いをすると、料理に対して嫌な思い出だけが残ってしまいます。上手につくるという結果よりも、料理という体験をすることがポイントですから。お子さんが料理に失敗しても責めるのではなく『こういうやり方もあるんだね!』とポジティブに接してください」

子どもにとっていい思い出は記憶に残りやすく、嫌な記憶は忘れたいものなのだそう。親が子どもを否定せずにポジティブな声かけを続けていれば、失敗してももう一度トライして、いい思い出に塗り替えられる。落ちこんだときに自分でリカバーできるようになるそうです。

ときには、料理中に「危ないよ!」「やり方がちがう」と口出ししたくなるかもしれませんが、ぐっと我慢。子どもの気持ちを尊重し、見守る側に徹しましょう。台所育児を続けているうちに、忙しい夕飯づくりの戦力としてお子さんが活躍するようになるかもしれません。
坂本廣子さん●教えてくれた人
【坂本廣子さん】
料理研究家。同志社大学英文科卒。美作大学大学院卒。学術博士、農林水産技術会議委員、相愛大学客員教授。幼児期からの食育を30年以上前から提唱し、NHK教育テレビの「ひとりでできるもん」の産みの親でもある。「台所は社会の縮図」として、食育、介護、防災、食の村おこしなど、広く問題解決に取り組む、社会派の料理研究家

<取材・文/畑菜穂子>