震災後、“週末デリヘル嬢”になった女性を演じた瀧内公美。「生きることに正解はない」

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 デビュー半年足らずで映画『グレイトフルデッド』(2014年)の主役をオーディションで勝ち取り、狂気の女を見事演じきった瀧内公美さん。

 舞台、TV、映画にと活躍する彼女が今度は『ヴァイブレータ』『さよなら歌舞伎町』で知られる映画界の鬼才、廣木隆一監督の最新作『彼女の人生は間違いじゃない』(7月15日に公開)に主演し、その繊細かつ大胆な演技が話題を集めています。

 福島の震災で母を失い仮設住宅で父と暮らしながら、昼間は地元の市役所、週末は東京でデリヘル嬢として働くという複雑な役・金沢みゆきを演じた瀧内さんに、役作りや仕事に臨む姿勢について聞きました。

◆より大きな衝動で、自分の心を取り戻す

――震災をきっかけに誰にも内緒でデリヘル嬢として働くみゆき。役づくりのため、実際のデリヘル嬢に取材をしたそうですね。

瀧内:今までは自分の想像力だけで演技をしていたんですが、廣木監督や助監督、共演者の方々に、取材して役作りをすることを教えていただいたんです。東北で震災に遭ったことをきっかけに東京でデリヘルをしている女の子とか、何人かに話を聞く機会をもらいました。東北のコが「ここ(地元)にいると自分が保てなくなりそうになった」と言っていたのが印象的でした。

――みゆきがデリヘルを始めたのも、目の前の現実から逃れたかったから?

瀧内:撮影で仮設住宅に住んでみて感じたんですが、震災で大切な存在を失った人、自分の家に帰りたくても帰れない人、色々な方がいますが、普通の生活を送っていたのにある日突然、当たり前の生活を失うことって、ものすごい衝撃なんだなって。

 自分の身にいきなり起こった、ものすごい衝撃は“より大きな衝動”でしか心を取り戻せないのかもしれない。誰も知らないところでまっさらの自分をさらけ出す、ありのままの自分を赤の他人に見せるということは、そういった大きな衝撃を受け止めて自分の心を安定させるための手段だったのかな、と思います。

 それに、デリヘル嬢って人に“求められる”仕事じゃないですか? 誰かに求められると、その人を癒したくなる、そんな気持ちもみゆきには必要だったんじゃないかな。

◆答えを求めない、最後まで悩みきる

――福島出身である廣木監督が、ご自身の初小説でもある本作を映画化するにあたり、「みゆきのような経験は、想像することさえ非常に難しい。だから、自分の中に何かしら悩みや迷いを持っている人がいいなと思っていた」と語ったそうですが。

瀧内:誰しも悩みを抱えていると思うんですが、生きることに正解ってないですよね。でも人って答えを探しがちで、私は特に正しい答えを探したいタイプなんです。

 でも、私は被災していないし、自分ではどうしようもない出来事にいる、という状況に今まで陥ったことがないんです。だから、震災に遭い、デリヘル嬢になるという選択をするみゆきの心情を作ることからして難しかった。

 だから、この撮影に入る前に“自分は最後まで悩みきる”と決めていたんです。みゆきが悩んでもがいているのに、私が答えを出していたら真実じゃなくなるような気がして。撮影中も、“これで正しいのかな”と疑うことを止めませんでした。

◆怖くて、どうしても脱げなかった

――ご自分をみゆきに投影した部分はありますか?

瀧内:デリヘル嬢の面接のシーンで、みゆきが「君にはデリヘル嬢はできない」と言われて「私はできます。これを(デリヘル)やらなきゃいけないんです」と脱ぐシーンがありますよね? あのシーンは、もう本当に……脱げなくて……。

――どうして脱げなかったんですか?

瀧内:心理的に脱げなかったですね……怖くて……。「あぁ、みゆきはこんな気持ちになるんだな」っていう瞬間でしたね。この作品には、自分の想像をはるかに超える難しいシーンがたくさんありました。

◆ありのままの自分と向き合う、それは怖いけれど楽になる

――廣木監督は命をかけてこの映画を作りたいと、この作品ではとりわけ厳しかったそうですね。瀧内さんは撮影中にどんどん痩せてしまったとか。

瀧内:監督はとにかく私の要らないところをそぎ落としてくれるような人。私が考えて演じると「はい、また誤魔化して笑ってるね」なんて核心をつくんです。「瀧内は素でもっている優しいところがあるのに、なんでそんなに怖い顔をするの?」「あなたはそのままでいいんだよ。ダメだったらダメでいいじゃん。そのために次があるんだから。自分が終わらせない限り、必ず次があるんだから」なんて言ってくれて、ホロッとくるんですよね。

 監督と仕事をしているうちに素の自分が徐々に出てきて……。監督との仕事は、優しい気持ちになれる時間でした。同時に、自分自身と向き合うというのはとても怖い経験でもありました。

――表面的な自分がそぎ落とされて素の自分になったとき、ご自分の中でどんな変化が起こったんですか?

瀧内:すごく楽になりましたね。知らない人に会うときはいつも緊張していたのですが、それがなくなりました。“自分はこうだからしょうがないな”なんて開き直って(笑)。

 でも、装おうとする自分がなくなった気がします。自分の素直な心を見せれば、相手も同じように心を開いてくれる。人と付き合いやすくなりました。撮影後に実家に帰った時、「27年間見たなかで一番いい顔をしてるね」と母に言われたのが嬉しかったです。

◆自信をもつ必要はない、なにもない自分でいく

――この作品では、スタッフや俳優は廣木組の常連だったと聞きました。そんななか、新顔で主役を演じるというのはかなりのプレッシャーがあったと思います。

瀧内:撮影中にへこんで母に電話をしたことがあったんです。すると母は、「自分が“できる”と思ったんやね。自信なんてもたんでええよ。自分はなにももっていないから“ありがとうございます!”っていう気持ちだけでいけばいい。それが一番難しいけどね。でも、自分の壁を作ったり見栄を張ったりするのは、いらないんよ」と言ったんです。

 よく神様は乗り越えられない壁は与えないなんて言うけれど、自分に期待したら苦しくなってしまう。“自分にはなにもないと思ったほうがいい”、という母の言葉に救われました。

◆今やるべきことを大切にする、そして自分を絶対に責めない

――今後の目標は?

瀧内:次の出演する作品に備えて、会いたい人、読みたい本、観たいモノ、そういう“やりたいこと”リストを作るようにしています。廣木監督のおかげで、周りを気にせずに自分になかのモノをどんどん増やしたいなと思えるようになりました。

 今やるべきことを今大切にする。やりたいことをやる日課を続けるようにしています。全部できないこともあるんですが、それはそれでいい。とにかく、自分の時間を無駄にせず、会いたい人に会い、親に会う。そして、自分を絶対に責めないこと。そういったことを、今は大切にしています。

ヘアメイク 中島愛貴(raftel)
スタイリスト 馬場圭介
(C)2017『彼女の人生は間違いじゃない』製作委員会
7月15日(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館 他 全国順次ロードショー

<TEXT/此花さくや PHOTO/難波雄史>