「モータースポーツの聖地」。人はシルバーストン・サーキットのことをそう呼ぶ。

 1950年にF1世界選手権で最初のレースが行なわれた場所であり、この周辺にはF1チームのファクトリーをはじめとして、イギリスのモータースポーツ産業に関わるさまざまな企業が軒を連ねている。


現在シルバーストンで3連勝中のルイス・ハミルトン

 しかし、F1ドライバーたちがこのサーキットを愛するのは、歴史や偶像めいたものばかりが理由ではない。世界最高峰のマシン性能を遺憾なく発揮させてくれる高速コーナーの連続――。それこそがドライバーたちを駆り立て、快感を与えてくれるからなのだ。

 マシンがワイド化し、空力性能が格段に増した2017年、その真価が初めてフルに発揮される。すでにいくつかのサーキットの高速セクションで見えてきた片鱗が、ついに明かされるときがきたのだ。

 F1ドライバーたちも、その瞬間を心待ちにしていた。

「僕は高速コーナーが大好きだし、コプスからストウまでのセクションは世界でもっともクールなコーナーの連続だね。オーストリアでもセクター2、セクター3の高速コーナーはものすごいスピードを保ったまま曲がっていけたんだ。それから考えても、今週末はすごいことになりそうだと予感しているよ」(ダニエル・リカルド/レッドブル)

 すでにシミュレーターでシルバーストンを走り込んできたドライバーたちによれば、これまでスロットルを戻さなければならなかったターン1やマゴッツ〜ベケッツの高速コーナーは全開でいけてしまう。

 問題は、旧ターン1のコプスだ。

「コプスは全開? かもね! そうだといいね! 金曜は無理かもしれないけど、(土曜の)予選では路面がよくなって、完全に全開とまではいかなくても、かなりそれに近いところまでいくんじゃないかと思うよ。個人的には鈴鹿のほうがもっと楽しみだけどね。シルバーストンもそれに近い楽しみを与えてくれると思う」(フェリペ・マッサ/ウイリアムズ)

「シミュレーターでトライしたけど、全開かどうかは教えたくない。恐ろしく速いのは事実だけどね」(エステバン・オコン/フォースインディア)

「ウイングレベルや風にもよるけど、コプスは7速か8速で駆け抜けることになるだろうね。マゴッツ〜ベケッツもものすごく高速だ」(マックス・フェルスタッペン/レッドブル)

 各チームのドライバーたちの表現はさまざまだが、どうやらコプスは今年のF1マシンをもってしても、容易に全開でいけるようなコーナーではないらしい。

 高速コーナーを全開で走っていく迫力はすごい。しかし、ドライバーにとってそれは直線という感覚であり、さほど難しいことではない。それよりもチャレンジングなのは、全開でいけるかどうかの瀬戸際でマシンとコーナーの限界を攻めていく駆け引きだ。

「いくつかのコーナーはもうコーナーではなくなるだろうし、チャレンジングでもなくなるだろう。そうなれば、ドライビングの仕方も少し変わってくる。オーストリアGPでもそうだったけど、今年は(ワイド化した空気抵抗のため)最高速が遅くなっていて、なおかつコーナリング速度が高いから、従来に比べてブレーキ距離が短くなっているんだ。ここではブレーキングがなくなるコーナーもあるかもしれない」(フェルナンド・アロンソ/マクラーレン)

 2017年型マシンのすさまじさを味わうのなら、マゴッツ〜ベケッツ〜チャペルの高速コーナー。しかし、ドライバーの妙技を量るのなら、コプスということになる。

 そんななかで「コプスは全開だ」と豪語するドライバー、すなわち圧倒的に優れた空力性能を持つマシンだと言い切るのがルイス・ハミルトン(メルセデスAMG)だ。

「今年はコプスは全開だろうね。楽勝で全開でいけると思うよ。あそこまでに8速に入って、そのまま全開だ。マゴッツ〜ベケッツもそうだろう」

 驚異的な速さを誇る2017年のF1マシン。その空力性能を存分に発揮させてくれるサーキット。そのふたつが揃った今年のイギリスGPは、ドライバーたちに至上の喜びと難しいチャレンジを与えてくれるはずだ。

「こんなに速いシルバーストンには誰も準備ができていないはずだ。シルバーストンは中速コーナーや高速コーナーが多いから、横Gだって1Gとか、もしかしたら2Gくらい強くなるかもしれない。身体的にもかなりきついレースになるだろう。とにかく楽しいだろうね!」(ハミルトン)

 ハミルトンは現在3年連続で母国イギリスGPを制しており、2008年の勝利も合わせると計4勝。今年勝てば通算5勝でジム・クラークとアラン・プロストに並ぶ歴代最多タイとなる。

 そして、選手権のことを考えても、過去2戦はヘッドレストとギアボックスのトラブルで立て続けに勝利を逃しており、ランキング首位のセバスチャン・ベッテル(フェラーリ)に20ポイント差をつけられているため、ここは是が非でも勝っておきたい。大観衆の声援を受け、ただでさえプレッシャーのかかる母国レースだけに、選手権を争ううえでも正念場の重なる厳しい週末だ。

 そんなイギリスGPを前にした水曜日に、ロンドン中心部のトラファルガー広場周辺を10チームのF1マシンが走り、F1ドライバーたちが勢揃いするというイベントが開かれた。実に10万人もの観衆が詰めかけ、新たなファン層開拓のために大きく貢献した。

 そのイベントを、全20人のうちたったひとりだけ欠席したハミルトンには批判の声が巻き起こり、会場ではブーイングもあったという。

 しかし、ハミルトンの置かれた状況を考えれば、ただ面倒だとか、ファンを大事にしていないといった単純な理由での欠席でないことは明らかだった。

「これだけものすごく緊迫したシーズンの局面だからこそ、最高の状態で準備を整えてこの週末に臨みたかったんだ。(母国イギリスGPは)僕にとってシーズンでもっとも大切なものだからね。僕はここでありとあらゆる力を尽くし、可能なかぎり輝きたい。僕のゴールは、母国のファンのためにこのイギリスGPに勝利することだ。幸いなことに過去、何年かその栄光に浴してきたけど、今年はこれまでになく強力なライバルたちと戦わなければならないんだ」

 史上最速のF1マシンで駆け抜ける今年の聖地を制するのは誰か――。

 市街地のデモ走行はたしかに間近でF1を感じられるという意味では優れているが、それはF1の真の実力、真の魅力ではない。それを知りたいのなら、今週末のシルバーストンで繰り広げられる彼らの走りを見逃してはいけない。

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