スピッツ、30年の軌跡詰まった“究極の入門編” バンドの魅力は奇跡的なバランス感覚にあり?

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参考:2017年7月3日〜2017年7月9日のCDアルバム週間ランキング(2017年7月17日付)(ORICON NEWS)(http://www.oricon.co.jp/rank/ja/w/2017-07-17/)

 『涙を流せないピエロは太陽も月もない空を見上げた』と、最近のドラマみたいに長いタイトルを冠したGENERATIONS from EXILE TRIBEが初登場2位にランクイン。おお、と思いました。

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 これまで出した3枚のアルバムはすべて初登場1位でしたし、そもそもGENERATIONSは「デビューシングルが発売の一カ月前から有線J-POPチャートで1位獲得! これは有線史上初の快挙!」という宣伝文句と共にキャリアをスタートさせたTRIBE新世代のユニット。昨年夏はシングル『涙』が桑田佳祐『ヨシ子さん』を抑えて1位となり、業界を騒然とさせたこともありました。LDHグループの中でもぶっちぎりで勝ち続けているグループというイメージが強かっただけに、このランキングは痛恨の一撃になりそうです。

 しかしながら、売上枚数を見てみれば初週7万1千枚だった前作よりもぐんとアップした9万4千枚。実際はさらに上昇気流に乗っていることが伺えるのです。グループの勢いはまだまだ止まらない。だから今回はタイミングの問題。同じ週にいる相手が手強すぎた、ということでしょう。

 結果的には、時代を押さえたLDHの「今」を、スピッツの「30年」が凌駕した、そんなチャートになりました。1位はスピッツの『CYCLE HIT 1991-2017 Spitz Complete Single Collection -30th Anniversary BOX-』。3枚組のボリュームながら13万1千枚という驚異のセールス。二カ月前には同じく3枚組のベスト『ゆずイロハ』が初週で17万枚を突破しましたが、フルボリュームだろうと何だろうと本当に良いものは売れる、という現象がまた起こっています。

 とはいえ、ゆずほどわかりやすくないのがスピッツの面白さ。THE BLUE HEARTSが好きでパンクに憧れた衝動のロックバンド。芸大系の大学から生まれたラジカル精神の強いポップアート。洋楽テイストの強い渋谷系またはシティポップ。お茶の間に受け入れられ教科書にさえ掲載される普遍的な大衆歌謡。これらは全部スピッツの音楽を側面的に捉えた言葉ですが、ソレとコレが一緒になるの? という矛盾こそがスピッツの不思議であり魅力でしょう。バランス感覚が奇跡的に優れているのは事実。でも、ブレイクしても驕ることなく、なんだか今も学生さんのような繊細さを残していたりして。結成30周年のベストなのに全曲ずーっとキラキラな青春。この矛盾も実にスピッツらしいなと嬉しくなります。

 『CYCLE HIT』はもともと2006年にリリースされたシングル・コレクションで、それぞれ15曲ずつを収録した初期盤『1991-1997』と中期盤『1997-2005』は当時も大ヒットを記録しています。その二枚に、ここ10年間のシングルと新曲3曲を収録した現在盤『2006-2017』が加わったのが今回のボックス・セットなので、ファンの中には「初期と中期をわざわざ買い直したくない」との声も当然あるでしょう。なのでもちろん単体の『CYCLE HIT 2006-2017 Spitz Complete Single Collection』も同時発売されたのですが、この作品は今週8位でセールスは1万枚程度。ほとんどの人が3枚組のほうを選び取ったという結果が見えてきます。

 最新作『醒めない』も10万枚を突破するなど、近年再び勢いづいているように見えるスピッツ。最初に出会ったのが「ロビンソン」や「チェリー」だった世代も、「正夢」や「春の歌」だった世代も、最近初めてTVCMで「みなと」を知ったという小学生も、この作品を宝物のように聴き続けるのだろうなと思います。いつ聴いても良いものが、いま最高のタイミングでまとめられた感じ。30年をかけて完成した究極の入門編です。(石井恵梨子)