丸の内勤務の証券マン・江森(通称:えもりん)、30歳。おとめ座。

外見はプーさんそっくり、愛されキャラな男。好きな食べ物はハチミツ...ではなく、『ウルフギャング』のプライムステーキ。

港区生まれ、港区育ち、育ちのいい奴らは皆トモダチ。生まれながらに勝ち組な彼は、日本を代表するエリート・サラリーマンとして独身生活を謳歌している。

イケてるはずなのにちょっと拗らせ気味な男・えもりんは、親友ハルの結婚発言や周囲の結婚ラッシュに焦りはじめていた。




「あの女集団、何となくプロ臭がしたな...」

結論から言うと、謎の美女集団狙いで張り切って挑んだ結婚式二次会に、大した収穫はなかった。

「パレスホテル東京」の豪華な結婚式とは打って変わり、丸の内の某ダイニングバーで行われた二次会は思った以上にゲストの数が多く、身動きするのも困難だったのだ。

さらに会場の作りが縦長に入り組んでいて、交流しづらい。よって、人が多いだけでイマイチ盛り上がりに欠けていた。

「ボクが幹事だったら、もっとうまく司会して盛り上げたのになぁ」

そしてお目当ての美女たちは、ハルが甘いマスクを武器に挑んだものの、反応は冷たかった。

外見レベルはかなり高いが、派手すぎず、わきまえた清楚感。なぜだか職業も出身大学もバラバラで、さらに仲間意識が強そうな女子たち。

「ああいう集団が、いちばん手強いよな」

ハルの言う「プロ臭」というのはよく分からないが、排他的で棘のある空気をたっぷり醸し出され、二人は早々に退散せざるを得なかった。

しかし、江森は一番タイプだった27歳CAの菜々子の連絡先をなんとかゲットし、後日リベンジに臨むことを誓った。


「プロ臭」を感じた美女たちの正体とは...?


「共通点のない美女集団」=「港区女子の精鋭部隊」?


「27歳のスッチー?ふぅん」

まゆこは大きな瞳を意地悪そうに細めて言った。彼女はハルの同期で、商社の秘書室で働いている。

二次会のあと、二人は『サラベス東京店』に移動し、たまたま近くで食事会を終えたまゆこと合流し、三人仲良く“レモンリコッタパンケーキ”をシェアしていた。




「えもりんには無理だと思うけど。まぁ、がんばって」

まゆこは正統派の美人なうえ、女らしい立ち振る舞いには色気があり、間違いなくモテる女だ。

しかし、とにかく気が強い性格が玉にキズで、江森やハルと同じく30歳だが、恋人は数年いない。

寂しがり屋の“こじらせ”者同士で気の合うこの三人組は、予定のない週末に集合することが多かった。

「なんで、ボクには無理なんだよー」

「いい?共通点のない若い可愛い子同士がツルんでるなんて、相当ヤリ手の証拠よ。きっと、港区女子の精鋭部隊だわ。まわりは派手なお金持ちばかりだから、“丸の内のプーさん”なんかに興味ないわよ」

まゆこは毒舌で、男のガラスのハートを容赦なくエグるクセがある。しかし、その発言はいつも妙に的を得ているから、江森は何かあるたびに彼女を頼ってしまうのだ。

「そうかな...。菜々子ちゃんも花嫁さんも、清楚で優しそうだったけど...」

江森は、少し困ったような笑みを浮かべた菜々子の上品な顔を思い出す。スラリと華奢な体型も儚げで美しかった。

プロ臭どころか、ちょっと人見知りで真面目そうな印象すら持っていたのだ。

「えもりんは顔がタイプだと、性格も良く見えちゃうからね」

まゆことハルは嫌味っぽく鼻で笑ったが、二人に馬鹿にされるほど、淡い一目惚れ心は燃え上がるような気がした。

「それより、まゆちゃんはどうだったの?お食事会」

「つまらなかった。真面目風の医者って、どうしてあんなにつまらないのかしら。30歳過ぎてるのに、みんなやたらモチ肌だし、中学生の男子かなんかと飲んでる気分だったわ」

30歳のまゆこは絶賛婚活中で、その美貌を武器に多くの男とデートや食事会に精を出している。

しかし、理想も性格も年々キツめに上がるばかりで、人のことは言えないが、正直あまり実るような予感はしない。

そのとき、江森のスマホがブルっと振動した。

―江森くん、明日、予定通りで大丈夫かな?楽しみにしてますー

そのLINE通知で、明日は奈央とデートの約束をしていたことを思い出した。


理想のお嫁さん候補、“ふつう”の損保OLの実態とは...?


良い子なのに一緒にいると疲れてしまう、“ふつう”の損保OL


奈央は、会社の後輩の紹介で知り合った、29歳の丸の内勤務の損保OLだ。

清潔感と愛嬌はあるが“ふつう”の顔立ち、可愛らしくオシャレな服を着ているが“ふつう”のスタイル、そして、どこか一歩引くような古風さが漂う、真面目で性格の良い子だ。

出身は福岡だそうだが、実家は老舗の和菓子屋を経営しているとのことで、育ちも悪くなさそうだった。

「“ふつう”の子と結婚したい」と本気で言うならば、たぶん、彼女ほどピッタリな子はいない。

「あ、奈央ちゃん、こっちこっち」

しかし、日曜の昼下がり、六本木ヒルズの『37 ステーキハウス&バー』のテラス席に現れた奈央の姿を目にしても、江森はイマイチ気分が盛り上がらない。

身体のラインにピタリと沿ったネイビーのタイトなノースリーブのワンピースには一瞬目を惹かれたが、やはり、顔もスタイルも“ふつう”過ぎるのだ。

昨日の菜々子にしても、まゆこにしても、一目で男のテンションを上げるような華やかさがあったから、奈央には悪いが、どうしても比べてしまう。

「今日も暑いね〜」

そして、彼女に会うのは約1か月ぶりだったが、二人はブラックアンガス牛のリブステーキを食べながら、30分以上も天気の話をしていた。




けやき坂を見下ろす開放的なテラス席で、ボリューミーな肉を楽しむという最高なシチュエーション。

それなのに、会話はそれ以上に盛り上がることも色気づくこともなく、お互いに他人行儀に気を遣いながら、やはり“ふつう”のテンションを保ったままである。それはもはや、逆にシュール感すらあった。

奈央はニコニコと笑顔を絶やさない良い子なのだが、とにかく受け身なのだ。

しかし、江森もトーク力に自信がないわけではない。

負けじと週末の過ごし方や趣味・仕事の話などを投げかけてみるが、返答は見事にツッコミどころのない無難なものばかりで、会話を広げるには相当のエネルギーを要した。

―今日は、映画デートにして良かったぜ...

江森は息切れするほどの疲労感を感じながら、約束の「パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊」を観たあとは、仕事か家族の用事か何かにかこつけて、うまく夕方解散にしようと心に決めた。



「そっか、お仕事なら仕方ないね......今日は忙しい中ありがとう。江森くん、また誘ってね」

映画のあと、江森が仕事を理由に解散を提案すると、奈央は寂しそうな顔をしつつも従順に頷いた。彼女は良い子には間違いはないし、おそらく前々から、自分にかなり好感を抱いている。

自分の関心は薄くとも、男という生き物にとって、その種の女子の存在は尊いもので、無下に失いたくはない。

江森は律儀に駅まで彼女を送り、別れた後はすぐにLINEを送るなどのフォローを済ませたが、なんとその時、奇跡が起きた。

―来週、木曜日なら空いてます。お食事、ぜひ^^―

ダメ元で誘った菜々子から、LINEの返信が届いていた。

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CA菜々子との念願デート。しかしそれは、悪夢の始まり...?