6月23日、北京では大雨が降りしきる夜となったものの、保利劇院は熱気に満ち、「ピンクの海」と化していた。

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6月23日、北京では大雨が降りしきる夜となったものの、保利劇院は熱気に満ち、「ピンクの海」と化していた。

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その日、保利劇院では、心あたたまるファミリーミュージカル「人間になりたがった猫」が上演された。その夜、同劇院の大ホールには、忙しく働いている女性の姿があった。彼女は、このミュージカルを企画し、プロデューサーを務めた日本の劇団四季の中国代表・王翔浅さんだ。

◇北京から東京に行きミュージカルに出会う

大学卒業後、中国語を専門に学んだ王さんは、北京人民芸術劇院に入社し、宣伝・企画、スクリプターなどの仕事をするようになった。その間に、朱旭や朱琳、任宝賢など経験豊富なアーティストと出会うことができ、伝統演劇に関するスキルを磨いた。その後、日本に留学し、好きな演劇を専門に東京大学や東京学芸大学で学んだ。当時は1990年代で、多様性に富み、自由で、新鮮な日本の演劇に王さんは感銘を受けた。「当時、東京ではほぼ毎日、演劇を見ることができた。そして、日本の演劇は表現方法や内容の面でとても自由で、歌舞伎などの伝統演劇はチケットを手に入れるのも難しいほどの人気。西洋風の現代演劇も若者の間で人気を博している」という。

2002年、日本で働くようになっていた王さんは、会社の企画で劇団四季のミュージカル「マンマ・ミーア!」を鑑賞しに行った。王さんにとっては人生初のミュージカルだった。「ミュージカルという、歌と踊りと物語が完璧に融合されたアートを初めて見た。上演後は、観客と役者らが一緒に歌いながら踊り、なかなか劇場を後にしなかった。その時の衝撃と愉快な雰囲気は、伝統演劇では決して得られなかったもの。その時からミュージカルに夢中になり、劇団四季が大好きになった」と王さん。

◇劇団四季に加入し北京人民芸術劇院との架け橋に

劇団四季は80年代から、広く、深い友好交流を中国と展開し、芸術関連の大学に無償で演目や技術指導を提供してきたほか、複数のミュージカルやファミリーミュージカルの中国公演を行ってきた。また、育成にも務め、中国の役者が劇団内で学び、働けるようにしてきた。04年、仕事の関係で王さんは日本の著名な演劇家で、劇団四季の創始者の一人である浅利慶太さんを取材した。その際、浅利さんは、「1983年に、日本で北京人民芸術劇院の代表作である話劇『茶館』を見て、好感を持ったので北京人民芸術劇院と提携したい。また、中国の役者を起用して、劇団四季の中国語版ミュージカルを中国で上演したい」という願いを語った。

楽しい雰囲気の中で行われた取材の後、演劇を愛してやまない王さんは、正式に劇団四季に加入し、中国代表を務めるようになった。北京人民芸術劇院で働いたことがあった王さんは、自然と劇団四季と北京人民芸術劇院が意思の疎通を図るための架け橋となった。07年、北京人民芸術劇院は慎重に検討した結果、劇団四季と提携することに決め、「ハムレット」を脚本とし、浅利さんが監督を務め、北京人民芸術劇院の役者が上演することになった。「劇団四季のライト、服装、道具、舞台効果、化粧などのスタッフがほぼ全員駆け付けて協力してくれた。北京人民芸術劇院も、一番いい役者・スタッフを起用し、最終的に、王斑が主人公のハムレットを演じることになった。しかし、劇団四季も北京人民芸術劇院も、長い歴史を誇る演劇団体で、アートコンセプトや業務上の習慣などが既に形成されている。舞台稽古の際に、双方の役者やスタッフが息を合わせるのはとてもたいへんなこと。私も、劇団四季側と北京人民芸術劇院の間に立って、通訳をしたり、調整を図ったりしていた。そして困難を乗り越えて『ハムレット』は大成功となった」と王さん。最終的に、「ハムレット」は北京人民芸術劇院でまず13回上演され、その後、招きに応じる形で中国国家大劇院でも上演された。

劇団四季が日本語版「ハムレット」を上演していた10年6月、浅利さんは北京人民芸術劇院を招き、「ハムレット」の上演を、東京の自由劇場で5回行った。同じ時に、同じ監督が、異なる言語の「ハムレット」を指揮し、日本では大きな話題となった。また、「中日競演」が日本で大きな話題となり、古くからの「ハムレット」ファンは日本語版と中国語版のチケットを買って、比較しながら鑑賞した。NHKも、北京人民芸術劇院版「ハムレット」を放送した。同作品は、北京人民芸術劇院の名作としてずっと残されている。

◇「人間になりたがった猫」を中国で上映 「自信ある」

「中国の役者を起用して劇団四季の中国語版ミュージカルを中国で上演したい」というのが、浅利さんの2番目の願いだ。「劇団四季に加入してからは、それが私の夢にもなった」と王さん。王さんは14年、劇団四季の元メンバーで中国に戻った仲間たちと、「四季歓歌文化芸術有限公司」を立ち上げ、長年の信頼関係があったため、劇団四季から「人間になりたがった猫」の上演ライセンスを手に入れることができた。

「人間になりたがった猫」は、劇団四季の名作ファミリーミュージカルで、米国の児童文学作家ロイド・アリグザンダーの小説を原作としている。同作品では、人間になるのが夢である猫のライオネルが、魔法使いの主人・ステファヌスに魔法をかけられ、人間になる。そして、人間の街「ブライトフォード」の人々と一緒に過ごし、人と人の愛を感じるストーリーだ。79年に東京で初公演が行われて以降、「人間になりたがった猫」は日本で2000回以上上演され、オリジナルミュージカルとして、日本のミュージカルランキングトップ10に入っている。20年前、劇団四季が無償で著作権を提供し、中央戯劇学院のミュージカルクラスの教師、学生が「人間になりたがった猫」を中国で上演したことがある。計40回以上上演され、好評を博したほか、孫紅雷、趙永斌、侯岩松などの中国のミュージカル界の人気役者を輩出してきた。

「この作品は、長い間、多くの観客を楽しませてきたミュージカル。この作品を中国で上演するに当たり、私たちは自信に満ちている」。そう話す王さんによると、中国ではミュージカルの上演には、▽海外のミュージカルを上演する▽世界的に有名な作品を中国語版にリメイクする▽オリジナルミュージカルを作る---の3つの方法があるという。現在、2番目の方法はあまり見られない。特に、日本のミュージカル作品をリメイクするという点では、「人間になりたがった猫」は、新たな道を切り開いたといえる。

◇日本の名作を本当の意味でローカライズ

今回上演される中国語版は、中国国内外の一流の関係者を集めたエリートチームによってリメイクされ、中国の観客に最大限合わせるため、セリフから舞台上での表現方法まで、ローカライズされている。脚本の翻訳は、中国語を母語とし、日本で長年暮らした経験を持つ王さんにとっては難しいことではない。「でも、翻訳はローカライズの過程の一部分にすぎない。どのように文化の違いを乗り越え、上演を中国人観客にできるだけ身近なものにするかについて、私たちは、深く熟考した。

計画をよく練り、それを熟成させるのに、3年の月日をかけ、王さん率いるチームはようやく今年「人間になりたがった猫」の上演にこぎつけた。今年はちょうど、中央戯劇学院の95年入学のミュージカルクラスの卒業20周年で、日中国交正常化45周年にも当たる。王さんは、それら全てが「縁」だと感じている。「私たちは、一番いい時に、一番いいメンバーに出会うことができ、この作品を作り上げることができた」と王さん。北京公演終了後、同作品は、今月13日に上海で公演が行われ、中国全国ツアーが始まる。

◇こころの劇場シリーズを中国の子供たちに

演劇は生活に端を発していると同時に、生活をより一層味わいあるものにしなければならない。王さんは、「演劇を作る際、観衆に合わせることばかり考えていてはだめで、観衆の好みを基礎にしたうえで、観衆がアートという味わいある体験ができるようにしなければならない。そして、演劇を見た後、余韻に浸り、何か学べるようにしなければならない。特に、ファミリーミュージカルは、子供たちにおもしろいと思ってもらえるようにするほか、積極的な考え方になるよう導くものにしなければならない」とする。王さんと四季歓歌は今後も、劇団四季の名作をメインに、海外の優秀な作品の中国上陸を目指す。「劇団四季には、子供を対象にした、こころの劇場シリーズ『ファミリーミュージカル』があり、1作目の『裸の王様』からこれまでに40作品以上を制作してきた。『人間になりたがった猫』は、私たちのライセンス上演の作品第一号。大成功の作品でもあり、今後は、第二号、第三号を手掛け、シリーズ化していきたい」。

作品の輸入や公演の企画のほか、四季歓歌は、日中両国の文化交流活動にも携わっている。昨年、四季歓歌は、中国人が日本へ行き、8日間で劇団四季の上演や歌舞伎、宝塚歌劇など、7公演を鑑賞するほか、劇団や美術館を見学したり、文化講座を聞いたりして、日本文化の魅力を感じることができる旅行ツアーを企画した。

◇熱い日中文化交流が永続することを願う

文化人である王さんは、浅利さんの「政治は冷たく、文化は熱い」という言葉をずっと覚えている。そして、「文化交流という分野でできることをして、中国人にもっと日本について理解してもらえるようにしたい。近年、多くの中国人が日本文化に興味を持つようになっており、日中文化交流もどんどん豊富になっている。日中演劇交流に従事し、自分が日本で長年の研究成果を大いに活用できるほか、日中両国の文化交流の懸け橋となれるということは、とてもおもしろく、とても有意義なことだと思う」と語った。(提供/人民網日本語版・編集KN)