いわきFCが見据えているのは、スポーツを通じた地方創生というイノベーションであり、地域の人々を勇気づけ、希望をもたらし、いわき市を活気溢れる街にしていくためにサッカーがある。フィジカルを鍛え抜き、走り抜き、戦い抜くのも、リスクを取ってひたむきに攻め続けるのも、勇気や希望、そしてイノベーションという大義のためなのだ。
 試合後、田村雄三監督は選手たちを讃えた。「人はミスをする」という前提に立っているからこそ、讃えられるのだ。チャレンジすれば、ミスは出る。ハイリスクな組み立てを選択すれば、なおさらだ。ミスはしてもいい。チャレンジしないほうが問題なのだ。
 
 いわきFCが体現したいサッカーとは、例えるならば、ひとつも音程を外さないというだけで、聞き手の心を動かせない上手な歌ではない。たとえ下手でも、多くの人々を感動させる“魂の息吹く”歌のほうだろう。
 
 オレンジ色の群衆が、アウェーのチームを讃えるために一体となった、あの拍手とスタンディングオベーションの根源を辿っていけば、やはり感動に行き着くはずだ。いわきFCの戦う姿勢、勇敢さや、ひたむきさに心を動かされたからこそ、力いっぱい手を叩き、立ち上がるという意思表示をしたに違いにない。だとすれば、この天皇杯3回戦が清水のホーム開催となった意義は小さくない。観衆の予備知識が少ないアウェーゲームだからこそ、いわきFCというクラブの取り組みの普遍的な価値を証明できたとも言えるのだ。
 
 実質7部の福島県1部リーグから、J1勢に胸を借りる2017年の挑戦は終わった。しかし、いわきFCの壮大な挑戦は終わらない。
 
取材・文:手嶋真彦