善戦した「いわきFC」にスタンディングオベーションで応えた清水サポーター。試合後、スタジアムは万雷の拍手に包まれた。写真提供:いわきFC

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 清水エスパルスのファン一人ひとりに、聞いて回ったわけではない。しかし聞かずとも、心の動きは伝わってきた。
 
 聞こえてきたのは拍手の響き。やがてスタジアム中が共鳴し合い、万雷となる。しかも、スタンディングオベーションだ。

 
 敗れた者たちへの同情の拍手でも、「今一度盛大な拍手をお願いします」と司会進行に促されての形式的な拍手でもない、いわば正真正銘の大音響の拍手。敗れた「いわきFC」がどんな試合を見せたか、清水のファンたちのこうした反応が物語っている。
 
 拍手せずにはいられない、立ち上がらずにはいられない、この気持ちを伝えたい。清水のファンはおそらく勝利を喜ぶ以上に、いわきFCを讃えていた。純粋な賞賛はしばらく続いた。胸が熱くなる光景だった。
 
「本気で戦ってくれたエスパルスさんに感謝します。いいゲームでした」
 報道陣を前にした大倉智代表取締役のこの言葉も、単なる社交辞令ではもちろんあるまい。いわきFCの総監督を兼務する大倉代表取締役の言う「いいゲーム」は、片方だけでは成り立たない。ターンオーバーは使わず、いわきFCを十分にリスペクトした戦いの末、格上ならではの勝利をきっちり収めた清水も、そうした点で賛辞を受けてしかるべきだ。
 
 試合を振り返ろう。
 
 いわきFCは、よく盛り返した。キックオフから1分と経たず、ロングスローからのバックヘッドという単純な形であっけなく先制を許すと、さらにピンチが続く。大量失点もありえるのではないか。そんな想像すらできる立ち上がりとなった。セットプレーの対応に不安があり、奪回後のビルドアップは半ばで途切れてしまう。清水の守備網に穴が少なく、中盤でプレスを掛けられては、自滅でロストしてしまうケースが多い。
 
 意図的にボールを持たされては、打開できない。そんな展開が続くなか、流れを変えたのが平岡将豪の果敢な仕掛けだった。菊池将太と植田裕史のシュートは、どちらもGKに阻まれる。しかし、この一連の攻めを境として、いわきFCがペースを掴む。清水の守備対応を後手、後手に回らせるパス回しや、波状攻撃も繰り広げながら、ゴールへと近づいていく。フィールドプレーヤー10人全員が敵陣に入り、最前線に4〜5人が進出する、そんなビルドアップを繰り返す。
 大きな課題は後半に浮かび上がる。精度不足が浮き彫りになっていくのだ。50分に2失点目を喫していたとはいえ、ルーズボールの争奪戦や球際の出足では、いわきFCが勝っている場面が多い。選手たちも手応えを感じていただろう。だからなおさら、精度不足がもったいない。ビルドアップでパスを素早く3本つないだ後の4本目や、せっかく突破した後のクロスが不正確で、惜しいシーンはあっても、なかなかシュートまでは持ち込めない。
 
 J1との対戦でクオリティーが落ちてしまうのは、実際に戦った選手たちが一番よく分かっているだろう。サッカーだけに専念できているわけではない。いわきFCの面々は、大型の倉庫で働く日々の仕事にも精を出している。かといって、純然たるアマチュアでもない。社会価値の創造を使命に掲げる革新的なクラブにあって、肝心かなめのサッカーを担っているのだ。それゆえ、最後の精度を要求したくなる。4本目のパスがつながり、クロスがシュートに結び付いていれば、拍手はさらに大きくなっていたはずだ。
 
 いや、本当にそうなのか。試合後のあの万雷の拍手のなかにいるうちに、分からなくなってきた。清水のファンにスタンディングオベーションまでさせた根源には、いったい何があったのか――。
 
 意図的にボールを持たされたいわきFCは、両ウイングバックが高い位置まで上がり、1トップと2シャドーを含めた4〜5人が最前線で突破口を開こうと試みていた。きわめて重心の高い布陣で、勇敢にリスクを取っていたのだ。ビルドアップの起点となる3バックは、まずは最前線への、そして次善の選択肢となる2ボランチへの縦パスを狙い続けた。途中でボールを失えば、清水のショートカウンターに直結しかねない紙一重。実際に何度か逆襲を食らい、追加点を奪われかけた。それでもリスクを取り続け、ひたむきに攻めようとしていたのだ。