混乱の元1:「犬」に含まれる2つの意味

犬の食性について書かれた記事を見ると、「肉食」「雑食」どちらの立場も見かけます。本当は犬の食性っていったいどっちなのでしょう。

私自身、記事の中で犬の体の特徴についてお話しするとき、どう書くべきかちょっと迷うことがあります。犬には「原種としての犬(原種に近い犬)」、「ペットとしての犬」の2つの側面があって、どちらの話なのか、あるいは両方の話なのか文章中で表現が難しいことがあるからです。ペットとしての犬は家畜化されてから長いために、交配されてバリエーションも幅広いですし、原種であるオオカミが持っていた特徴と全く同じでありません。一言で犬といってしまうと、原種の特徴を話しているのか、ペットの犬について話しているのか分かりづらくなってしまうことがあります。

体の外見に比べて食性はそれほど大きく変化してはいませんが、それでも人間と生活していなかった原種とペットの犬とでは状況がちょっとちがいます。つまり話し手がどちらを意識しているかによって、食性が少し変わってきてしまうことがあるのです。

混乱の元2:分類学上の位置と実際の食性のちがい

犬は哺乳類の中の「食肉目」というグループに属する動物(共通の肉食の祖先から進化したという意味があります)です。現生の陸上脊椎動物の中で肉食動物(昆虫食を除く)はこのグループだけです。そういう意味で犬は肉食動物です。しかし、食肉目に属する肉食動物たちの「肉食の度合い」は実はけっこうバラバラで、例えばクマなんか木の実などの植物も食べる、雑食がかなり進んだ動物です。パンダはその最たるもので、食肉目なのにほとんど竹しか食べません(野生では多少の肉食もします)。
反対に猫やイタチはまったく植物を食べない「完全な肉食動物」です。
オオカミの場合、クマほど雑食はすすんでいませんが猫ほど完全な肉食動物ではありません。クマに比べれば肉食で、猫に比べれば雑食です。このようなあいまいな感じが肉食か雑食かはっきりしないところなのでしょう。

オオカミの食性は?

おそらく犬の原種であるオオカミを完全な肉食と思っているかたも多いと思いますが、実は雑食もする肉食です。確かに歯の構造からすると完全肉食の猫と違い、オオカミは(ペットの犬も)臼状の臼歯を上あごに4本、下あごに2本もっています。また、体長に対する腸の長さの比率は(植物を食べる動物ほど腸が長い)、猫よりも大きいので、猫より植物食に対する適応性は高いといえます。
実際、オオカミは大型の哺乳類から小型の哺乳類、腐肉、無脊椎動物(昆虫など)、植物、残飯など幅広い食べ物を食べています。オオカミが北極圏から熱帯に至るまで地球上に広く分布するのは、何でも食べられる適応性の高さによるものでしょう。

ペットの犬の食性は?

では、ペットとしての犬はどうでしょう。1990年代の終わりに、犬のDNAとオオカミのDNAを調べると、0.2%しか違わなかったという研究結果が出ました。この結果は、欧米において犬のフードはオオカミと同じものがよい、例えば犬には生肉食が良いといった考えを後押ししました。しかしその後、犬とオオカミの違いについての研究も進むと、犬はオオカミより雑食化(デンプンが豊富な食べ物への適応)されたことがわかってきました。確かに家畜化の歴史も1万年(または3万年)以上と長いですし、犬は「オオカミより雑食が進んだ肉食」と考えられます。

まとめ

オオカミが祖先だから犬にもオオカミと似たフードを、という考え方もありますが、犬は家畜化の過程で雑食化も進んでいますし、なにより種類が幅広く、要求されるエネルギーも違えば、代謝や栄養素も異なります。もちろんベースは肉食ですが、雑食も考慮に入れ、さらに愛犬の犬種、そして年齢にあったフードを選ぶことが大切だと思います。


(博物館アドバイザー(元自然史博物館学芸員)提供:碇 京子)