熱波の中で始まった名古屋場所の五日目に珍しい場面が出現した。白鵬と貴景勝の一番だ。激しい突き合いの最中に、お互い見合って両者の間があいた。すると、攻めてこない貴景勝に白鵬は仁王立ちで「来い!」とばかりに両手を広げたのだ。まるで、稽古場で胸を貸してやっているような振る舞いに会場がどよめいた。

 そうした盛り上がりの中、水を差すように横綱・鶴竜が早くも4日目で休場した。鶴竜の休場は2場所連続7度目で、師匠の井筒親方は鶴竜が次に出場する場所で進退を懸けると語った。そんな不安の中、期待されているのが白鵬(32)の史上最多の通算勝ち星更新だ。元大関魁皇の持つ1047勝をいつ更新するか、連日ファンの目が白鵬に集まっている。他にも見どころや注目力士は多いが、気になるのが、先場所は左肩のケガが治らず、無念の途中休場した横綱3場所目の稀勢の里(31)の動向だ。

 弟弟子もろとも、いきなりの黒星スタートとなったわけだが、稀勢の里はすでに場所前から、決して安心できる状態ではなかった。二所ノ関一門の連合稽古でも、2日連続でベテラン嘉風にいいようにしてやられていたのだ。「アーッ」と声を荒げて土俵を飛び出す場面もあり、2日間とも負け越しに終わっている。
 「よほどショックだったのでしょう。稀勢の里は滅多に稽古を休みませんが、この連合稽古の翌日は、疲れが出たと稽古場に姿を見せませんでした。また、高安との稽古でも、あっさり負けて首をひねるシーンも目立ちました。今思えば先場所、無理して出場したのが失敗だったのではないか。もし、しっかり休んでいたら、今場所は優勝候補の最右翼でしたよ」(担当記者)

 そんな不安だらけの稀勢の里だが、中でも特に気になったのは、稽古の「最初の一番」に、まるで判で押したように負けていたことだ。
 稀勢の里は名古屋入り後、5日までに8日間稽古をしている。そのうち、最初の一番で勝ったのは5日の高安戦だけ。それ以外は全部、黒星が付いた。
 「相撲は1日一番。その一番に全力を出せるよう必死で調整するんです。もっと言えば、その日の最初の一番に勝てば、残りの稽古は全部負けたっていい。最初の一番の勝率が極端に悪いということは、集中力の欠如。まだケガをした身体に不安を抱えている証拠です。大丈夫か、ちゃんと取れるかとヒヤヒヤしながら取っているので、集中できないのでしょう」(協会関係者)

 唯一、稽古内容がよかったのが5日で、高安との稽古で10番取って10連勝した。
 「あれで体的にバシッとはまった。あとは土俵の中で(勝負)勘が戻れば…」
 気をよくした稀勢の里はこう述べ、名古屋場所の出場を決めた。しかし、なぜか負けた高安が「自分のことだけ考えてやるだけです」と笑顔だったのが印象的だった。もしかすると悩める兄弟子に花を持たせたのだろうか。

 それにしても、4横綱時代もいよいよ危ない。鶴竜もそうだが、稀勢の里も怪我の状態によっては突然に“引退”なんてことになるかもしれない。土俵際いっぱい! 踏ん張り切れるか。