HIPHOPの現場でLGBTへの理解進む ラッパーたちが“価値観からの解放”を表現

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■新世代の楽曲やMVで表現される「性からの解放」

 先月、あっこゴリラが新曲「ウルトラジェンダー × 永原真夏」を発表した。「黄熱病 -YELLOW FEVER- × STUTS」、「PETENSHI × ITSUKA (Charisma.com)」に続くコラボシングル第三弾となるこの曲は、あっこゴリラ自主企画イベント『ドンキーコング』でゲスト参加したSEBASTIAN Xの永原真夏が晴れてボーカルとして参加している。同曲のMVはベトナム・ホーチミンで撮影。ホーチミンで元気いっぱいに歌いながら踊るあっこゴリラと永原真夏の姿を楽しむことができる。

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 「ウルトラジェンダー」というインパクトのある曲名だが、リリックの内容は「性からの解放」。曲中で「女子はラップするな」という男性に対してあっこゴリラがラップで物申しているが、MVでも胸に詰めた靴下を投げ捨てるシーンがあるなど、どうしても男性から性の対象として見られてしまうフィメールラッパーの現状を変えようとしている姿勢が感じられるチャレンジ精神溢れる曲だ。

 そして「ウルトラジェンダー」のMVではなんと男性同士によるキスシーンが出てくる。まさに「性からの解放」というテーマにふさわしい演出だ。厳密にいうとキスをするかしないかというスレスレの描写なのだが、とても芸術的だ。このMVでも大きなインパクトを残している。

 かつて同性愛が忌むべきものとして扱われてきたHIPHOP界隈だが、遂にこのようなMVを作るアーティストがでてきたのかとゲイのあたしとしては胸を打つものがあった。それを「ジェンダーフリー」ではなく「ウルトラジェンダー」と表現しているのもなんともあっこゴリラらしい。「性を超越する」といったところであろうか。

 実はあっこゴリラだけでなく、ぼくのりりっくのぼうよみのMVにも男性同士のキスシーンが出てくる。どちらかといえばHIPHOPというよりはラップを取り入れたポップスを体現しているぼくのりりっくぼうよみ(以降、ぼくりり)だが、ニコニコ動画に投稿していた縁で以前からぎぎぎのでにろう率いるStudioLamaや野崎りこんなどHIPHOP畑のアーティストとも共作をしている。そんなぼくりりの「sub/objective」のMVでは、男性同士のキスシーンが出てくるほか、池田エライザ扮する女子高生が男子をナイフで刺すなど刺激的な描写があり、話題となった。この曲での男性同士のキスは同性愛というよりも友情におけるスキンシップという意味合いが強いと感じるが、不可解なストーリーも相まって様々な憶測を呼んだ。

 さらに5月に発売された新曲「SKY’s the limit」のMVでは、ぼくりりが女装にもチャレンジしている。まだ19歳という年齢もあってなかなかの美女に仕上がっているのでぜひ見てもらいたい。「性からの解放」が自分の身体をもって可視化され、しかもナチュラルにファンに受け入れられているというのは本当に凄い。

 さらに、Enjoy Music Club「夏の魔法」のMVでも、「性からの解放」を感じさせる描写が登場する。

 Enjoy Music Clubは、「エンジョイクラブソング」が『モヤモヤさまぁ〜ず2』(テレビ東京系)のエンディングテーマに起用されたこともある緩いラップを繰り出す3人組グループ。「夏の魔法」のMVでは、シャムキャッツのボーカル兼ギターでもある夏目知幸と俳優の栗原義彦がゲイカップルを演じており、男性同士のデートや日々の暮らしのほのぼのとした様子が生々しく、しかしとても自然に映し出されている。Grover Washington Jrの「Just the two of us」を彷彿とさせる爽やかなメロディラインとの相乗効果で、なんともインパクトの強いMVに仕上がった。どちらかというと“ボーイズラブ”の要素が強いようにも感じるが、これもなかなか面白いと思う。

■HIPHOPの現場でも進む「性からの解放」

 HIPHOPの本場アメリカでもLGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシャル・トランスジェンダー)に対してシーンが寛容になってきており、最近ではアイラヴマコーネン、フランク・オーシャンといった第一線で活躍を続けるシンガーが立て続けにゲイであることをカミングアウトしている。また、フランク・オーシャンが所属するクルー・OFWGKTAのシド・ザ・キッドもレズビアンであることを公言しながら活動をしており、それぞれ人気を集めている。

 日本でも2013年にMSCのPrimalがバイであることをカミングアウトしたうえで「性の容疑者」という曲を発表して話題を呼んだ。最近では西新宿パンティーズという“カミングアウト”HIPHOPユニットがシーンに登場した。複数人いるメンバーのうち、メインで活動する3人がゲイであることを公言し、しかも女性下着をアクセサリーとして頭からかぶってパフォーマンスをしている。常識にとらわれない奇想天外なスタイルが話題を呼び、クラブなどでは西新宿パンティーズが登場するだけで盛り上がってしまう。だが、楽曲制作にはいたって真面目に打ち込んでおり、BEN THE ACEや8ronixなどのトラックメーカーを制作陣に迎え、完成度の高い楽曲を発表して評価を得ている。

 あっこゴリラの「ウルトラジェンダー」ではゲストシンガーの永原真夏が力強くこう歌っている。

<固定の価値観に縛られず 新しいものを切り開いていく/そこにはきっと素晴らしい未来が待っている>

 わかりやすいマッチョイズムが蔓延っていたHIPHOP業界においても、最近では個人を尊重する自由なスタイルがだんだんと切り開かれている。「男なら男らしく、女は女らしく」、そんなとらわれた価値観からの解放を目指すアーティストたち。ゲイの自分からすると、“ありのままでいていいんだ”と背中を押してもらっているようで本当にありがたい。LGBTブームと言われる昨今だが、決して一過性のものにはしたくはない。今以上にLGBTが社会に受け入れられ、皆さんの身近な存在になる日がきっと来るーーそう信じて彼らの音楽を聴きたいと思う。(鼎)