海兵隊は、強襲揚陸艦から垂直離着陸が可能な大型無人戦闘機を開発中だという。写真はワスプ級強襲揚陸艦の飛行甲板に並べられたMV-22B オスプレイ(資料写真、出所:)


 圧倒的な質、量を手に入れつつある中国軍に対し、米海兵隊は軍事イノベーションを活用して対抗しようとしている。今回はその取り組みの内容と意味するところを紹介しよう。

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中国軍の攻撃で在日米軍は瞬時に壊滅?

 6月29日、米シンクタンクのCNAS(新アメリカ安全保障センター)注目すべき発表を行った。トーマス・シュガートとヤビエル・ゴンザレスの2人の現役米海軍中佐が公開情報とシミュレーションを駆使して分析したところ、在日米軍は中国軍のミサイル攻撃で一瞬にして壊滅してしまうというのだ。

 彼らは日本各地の在日米軍に関係する飛行場、港湾、司令部、通信施設、燃料タンク、その他の重要インフラを500カ所リストアップし、それらに中国軍がミサイルを撃ち込むというシミュレーションを行った。

 まず、発射から15分以内に、沖縄、西日本、北陸、岩手以北等を射程に収める1200発の短距離弾道弾と、日本全土を射程に収める200〜300発の中距離弾道弾が日本列島を襲う。その後、爆撃機と地上発射型巡航ミサイルが第2波として襲来する。これに対し、日米のPAC-3とイージス艦は物量で圧倒され、一部を除き迎撃はほとんど不可能である、というのが2人の見立てである。

 そして、彼らが導き出した結論は、「米軍はTHAADをさらに調達し、日本に事前配備しておくべきである。数十億ドルのミサイル防衛は、数十億の船舶、航空機、施設、人命を救えるのだから」というものであった。

 実は米国ではこうした見解は今や決して珍しくはない。実際、ミサイルだけではなく、艦艇でも中国軍の戦力強化は目覚ましい。2016年に中国海軍が就役させた主力艦艇は11隻だった。それに対して、米海軍は3隻、海自はたった1隻である。

 質でも同様だ。米軍事アナリストのカイル・ミゾカミ氏をはじめ多くの専門家が、今年進水した中国軍の55型駆逐艦を、米海軍の主力艦であるアーレイ・バーグ級に匹敵すると評価している。

強襲揚陸艦を「ドローン空母」に

 こうした状況に対しイノベーションで対応しようとしているのが、米軍の「第3の相殺(オフセット)戦略」である。特に米海兵隊は「ドローン空母」や「3Dプリンタ」で対抗しようとしている。

 7月3日の米外交専門誌「ディプロマット」でトビアス・バーガースとスコット・ロマニウクが海兵隊のドローン空母構想を紹介している。その概要は以下のとおりである。

・海兵隊は、強襲揚陸艦から垂直離着陸が可能な大型無人戦闘機を開発中である。これは「MUX」と呼ばれるシステムである。

・この機体はV-22オスプレイと同じ速度・航続距離を持ち、その護衛が可能である。またF-35と同じミサイルを搭載することができ、空対空戦闘、電子戦、指揮統制、早期警戒、航空攻撃も可能である。2017年に最初のテスト飛行が行われ、2026年以降に運用システムが完成する見込みである。

・中国や北朝鮮が対艦弾道ミサイル等によって米空母に深刻なリスクをもたらそうとしている。そうした時代において、こうした小型艦艇と無人機によるシステムは南シナ海、東シナ海で有効性を発揮するだろう。

・日本のいずも級ヘリ搭載駆逐艦にもこのようなシステムを搭載させれば、日本は堅牢な無人機艦隊を得ることができ、本土周辺を超えて航空戦力を展開・強化できる。米海軍の負担も軽減できる。

 大型無人機は戦闘機に比べて予算的にも人的にもはるかにローコストである。それらを、やはり空母に比べると予算が少なくて済む強襲揚陸艦に搭載することで、中国の非対称戦略(安価な手段で、高価値目標を破壊する)に対抗しようというのである。

3Dプリンタによる兵站革命は新次元へ

 また、こうした構想と並んで海兵隊が強力かつ急速に推進しているのが3Dプリンタの軍事転用である。海兵隊の3Dプリンタ活用はドローン、AI、ブロックチェーンといった最新のテクノロジーと結び付けることで新たな段階へ踏み込みつつある

 海兵隊がこれほどまでに3Dプリンタの導入を目指す理由は、第1に、海兵隊が旧式兵器を抱えた組織だからである。要するに、補充が難しい装備を抱えているということだ(これは自衛隊も同様である)。海兵隊の担当者は、「金属製部品の製造は数週間から数カ月かかっていたが、3Dプリンタならば数時間で可能だ。これによって海兵隊の侵攻作戦は一気に容易になる」と述べている。

 そしてもう1つの大きな理由は、中国等の現実の脅威への対応である。中国軍はA2/AD戦力を強化することで、米軍の前方展開拠点と本国からの来援を防ごうとしている。つまり米軍にとっては、有事の際に破壊された部隊や装備を早急に回復するための補給が困難になるということである。最初に述べたように、中国軍はミサイル戦力だけで在日米軍を壊滅することが可能だ。となれば、米軍が3Dプリンタという兵站革命に力を入れるのは当然であろう。米空軍も2019年に3Dプリンタ製部品を積載した軍事衛星を打ち上げる予定だが、これも短期間で生産することで中国などの衛星破壊に対抗するためである。

 では、実際にどのような取り組みが行われているのだろうか。

 第1に3Dプリンタをドローンと組み合わせることだ。海兵隊は今夏にも、3Dプリンタで生産した偵察用ドローン「ニブラー」を実戦配備する予定である。これは前線で生産可能であり、随時新しい部品にアップデートすることができる。将来的には偵察以外のドローンも同じ方式を導入していくとされ、まさに相手の物量には3Dプリンタによる物量で対抗しようというのである。

 また、3Dプリンタでよく問題視されるのが、生産データの流出である。つまり、サイバー攻撃等で生産データが盗まれると、相手側がそのまま同じ兵器を生産できてしまう危険性があるのだ。

 この対応策としては、ビットコインやフィンテック等に使用されている「ブロックチェーン」技術(P2P技術を活用してデータを分散管理する技術)の導入が国防総省全体で進められている。ブロックチェーンで3Dプリンタデータを保護する取り組みは、DARPA、米海軍のDON Innovatorが既に試験を開始している。米海軍はこの夏に試験を実施し、9月に詳細な報告を発表する予定だという。この試験によって生産データ流出問題の解決に一定の目途が立てば、3Dプリンタはより導入が本格化するだろう。

 最後は、人工知能(AI)との組み合わせである。海兵隊副司令官(兵站担当)のマイケル・ダナ中将は、今年6月、「Military.com」誌の取材に対し、将来的に海兵隊のトラックは、人工知能によって消耗寸前の部品を診断・発見し、自動的に注文を行い、消耗する前に3Dプリンタで生産した部品が自動的に届けられるようになると明らかにした。

 ダナ中将は、「将来的に海兵隊は、工場で作られた部品が届くのを待つのではなく、瞬時に3Dプリンタで生産・交換できるようになる最初の軍隊となる」と言う。人工知能と3Dプリンタの組み合わせが実現すれば、海兵隊の兵站効率は予算・時間共に大幅な効率化が図られるだろう。

自衛隊は「ファッションショー」に夢中?

 これらの方向性は2つに総括できる。

 第1は、非対称戦略の採用である。海兵隊はドローンと3Dプリンタを装備体系の中核に据えることで、膨大かつ安価なシステムを構築し、中国軍の質量ともに膨大な兵器群に対抗しようとしている。特に、いずもへの無人戦闘機導入は注目すべきアイデアであろう。

 第2は、民生技術の転用である。人工知能も、ドローンも、3Dプリンタも、ブロックチェーンも民生発技術である。民間の低価格・高性能な技術をいち早く転用することで、質における優位性を確保しようというわけだ。

 実際、ダナ中将は「将来的に海兵隊は、工場で作られた部品が届くのを待つのではなく、瞬時に3Dプリンタで生産・交換できるようになる最初の軍隊となる。テスラの自動車はソフトウエアが自動的にアップグレードされているし、私の妻のレクサスはオイル交換が必要な時期を教えてくれる。これは既に民間にある技術であり、それを軍隊に組み込みたいのだ」と述べており、民間の優れた技術の確保を重視しているのは明らかだ。

 海兵隊と同規模の自衛隊はこうした柔軟な発想を見習うべきである。しかし、装備庁・自衛隊にその姿勢は見られない。一部を除いた技官の多くは非常に狭いタコツボ型知識に拘泥しており、自衛隊も「軍隊かくあるべしという形式主義」から抜け出せていない。

 先頃、陸自は各駐屯地で、新しい制服は黒・紫・濃緑の3種類のどれが良いかというアンケートを行った。新制服はデザインもストライプを入れたり、制帽の装飾を増やしたりするなど現行から大きく変化している。だが、陸自の17万人分の制服変更ともなれば、膨大な予算と時間が浪費されるのは言うまでもない。形式主義の最たるものであり、隊員の多くがこれに反対している。自衛隊に、こうした余裕はもはやないはずだ。今こそ、発想の転換と外部を巻き込んだ自由な議論が求められている。

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筆者:部谷 直亮