外資系投資銀行でバックオフィスを担う、有希、30歳。

港区の酸いも甘いも知り尽くした彼女に与えられた呼び名は、“港区おじさんコレクター”。

数々の港区おじさんをコレクションしていた有希のポートフォリオに突如として入り込んできた浩介によって啓一との苦い記憶を呼び起こされた有希。

しかし大輔の力強い助言により前向きな気持ちを取り戻すと、過去を清算し、新たなポートフォリオを組み始めることにする。

彼女のハンティング・スポットは、職業、学歴、収入の揃った港区おじさんが集う紹介制パーティーだ。


出会いは一期一会。最初の印象が全てを決める。


元彼のことを思い出して塞ぎこんでいた有希だったが、週明けになるとその思いも晴れていた。

すっかり元気を取り戻した有希はアイス・ティーを口にしながら、同僚のエリカと麻衣を待っている。

今日、3人は連れ立ってパーティーに出かける。イギリスの社交クラブのような異業種交流会が日本にも存在し、職業、学歴、収入の3拍子が揃った男女が集う。完全紹介制のそのパーティーは、出会う相手の最低クオリティは保証されているのだ。

「ごめん。ちょっと会議が長引いて!」

髪の毛をシニヨンにまとめ、誰もが振り返るような赤いタイト・ワンピースをまとったエリカと、ロングヘアをなびかせ、花柄のスカート揺らしながら走る麻衣が見えた。

―コントラストがばっちりだな。

有希はTheoryの黒いワンピースの裾を整え、立ち上がった。

週の後半になると会食や会議のため参加率が下がるからか、異業種交流会はなぜか月曜日開催が多い。異業種と言いつつも弁護士、会計士、外資系金融勤務者、事業会社社長、とビジネス・リレーション上繋がりのあるメンバーが多い。

忙しいエリート男性は、自分にメリットがないと見切れば付き合い程度に顔を出し、帰宅してしまうことも珍しくない。人に寄ってこられることに慣れている男性に対して、1人で戦うのは得策ではない。

自分の印象をどれだけ相手に残すことが出来るかが勝負になる大人数のパーティーは、複数人の女性で行くほうが良い。

相乗効果のあるような相手と群れることで、スポットライトが自分たちの上に落ちてくる。タイプの男性が異なれば、女性同士での仲間割れの懸念もない。

実際に、有希、エリカ、麻衣の3人が会場に足を踏み入れると、男性陣の目線は目の前の女性を離れ、華やかに登場した3人に注がれた。

まずは「3人で来ていたうちの1人」と男性の脳裏に刻むことに成功だ。


言葉のキャッチボールが続いた者勝ち。大名刺交換会のスタート。


今日の会場は、港区を少し離れた丸ビルの中にある『サンス・エ・サヴール』。バー・カウンター奥にある個室は、丸の内エリアの夜景を見渡すことができ、出会いの場としては抜群の雰囲気だ。

「名刺交換させていただいて良いですか。」

最初に有希に名乗りをあげてきたのが、外資系弁護事務所の隆志だった。「3人で来ていたうちの1人」の次は名刺交換での印象付けだ。

名刺から読み取れる情報は「会社名」、「役職」そして「オフィスの住所」だ。これを基に会話がどれだけ続くかがキーとなる。

「私以前フロントで働いてたんですけど、斉藤先生にはお世話になっていました。」

まずは、「会社名」と「役職」を頼りにその会社で働く、隆志より少し上の地位の知り合いの名前を出したい。共通項が生まれるのと、自分より上の地位の人間を知っているということで相手の中での自分のレベルが引きあがる。

もし誰も知り合いがいなければ、「オフィスの住所」に着目したい。

「丸の内勤務なんですね。私たち六本木なので、少し離れてますね。」

【港区おじさんコレクション─
名前:坂部隆志
年齢:40歳
職業:外資系弁護事務所パートナー




「ランチに行きましょう」は興味の証。


同じ地域に勤務してれば「ランチ」の一言が引き出せるのだが、オフィスが離れている場合は、もう一言添えたい。

「お仕事で六本木に来ることはありますか?」

相手が自分に興味があれば、ランチのお誘いに繋がることが多い。

「ランチ」は、「ディナーに行くまでの女性かは分からないが、興味はあります」という証のキーワードだ。もしその一言が出ないのであれば、時間の無駄なので、次の男性と会話をした方が良い。

パートナー弁護士に上り詰めるまでの熾烈な戦いを想像するに、隆志は本当はとてもしたたかであろうに、人当たりの良い笑顔の素敵な先生だった。

なるべく多くの男性と知り合いたいパーティーで、おもむろに携帯電話で連絡先を交換している姿を他人に見られるのも品がない。この一言を挟んで、個人連絡先を得るのだ。

「Facebookは、登録されていらっしゃいますか?」

答えが「はい」の場合は、ローマ字か漢字かの確認のみをして、ドリンクでも取りに行くふりをして次の男性に話しかけに行けば良い。

ごく稀に会社の規定で全くアカウントを保有していない人もいるが、その場合は「会社のアドレスにご連絡しても良いですか?」で次につなげる。


優良銘柄選定のために最低5名とは食事に繋げよ。


有希がパーティーで気になった男性は、隆志を含め5名いた。

パーティーでは、印象に残らなければ「誰だっけ?」で終わってしまうが、印象に残ったところで、たったの10分程度の会話で人間性までは分からない。5人選んでも実際に連絡を取り続ける人が1〜2名いれば良い方だ。

―今日は、楽しかったです。ランチいつ行きましょうか? 隆志

今日のパーティーで最も好印象だった隆志から連絡が来た。




SNSパトロールの開始。Facebookは情報の宝庫。




有希は、好印象な相手だったとしても、入念なチェックを怠らない。

Facebookは、「共通の友人」、「いいね!をしているページ」そして「タイムラインの投稿」でいくつかの情報を読み取ることが出来る。

まず、隆志のFacebookのプロフィールを開くと、「友達」を閲覧し、「共通の友人」しか表示しない設定になっていることを確認した。

交友関係やビジネス上の繋がりを隠すため、自分の友人リストを非表示設定にしている男性も多い。唯一見える「共通の友人」に全くビジネス上関係のない派手な友人が出てきたら「要注意」のシグナルだ。

残念ながら隆志の共通の友人には、エリカと麻衣と今日知り合ったパーティーの男性しか表示されなかった。

次は、「いいね!」をしているページだ。どんな団体に所属しているのか、どんなブランドが好きなのかを知るにはもってこいだ。

隆志の「いいね!」をしているページを見ていると、弁護士団体やNPO団体の他にいくつかグラビアアイドルのページが含まれていた。有希が眉をひそめたのが、福岡にある高級クラブのページに「いいね!」が複数ついていたことだ。

―随分と派手に遊んでいるようだ。

最後にタイムラインの投稿をチェックする。

隆志のページはほぼトライアスロンの投稿で埋め尽くされていた。共通の友人しか交友関係を見ることができなくても、コメントがついている場合は、その相手のページに飛ぶことで、どんな友人がいるのか知ることが出来る。

いくつか無作為にコメントを見ていると、有希は毎回のようにコメントをしてくる女性を見つけた。その女性のプロフィールに飛ぶと、キャビンアテンダント姿の写真の中に、隆志と抱き合っているものがあった。

投稿の設定が非表示であっても、共通の友人がいると投稿が見れてしまうことがあるのがFacebookの怖さだ。

―とりあえず保留だな。

有希は、知り合った他の男性4人のスクリーニングを始めた。

有希の脳内評価:★☆☆☆☆(5つ星中1つ星)
・パーティーでの印象はダントツで1位。オーダーメイドのグレーのスーツに弁護士バッジが少しいやらしかったが、人あたりも気遣いも良く好印象。

・Facebookのコメント欄や「いいね!」の反応をしているのが主に女性。バーのママも含まれ、女性関係は派手だと見受けられる。

・次のステップのランチに行くとしても、弁護士の友人から情報収集が事前に必要。

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港区おじさんの心をかき乱せ。初回のランチでの恋へのお誘いとスクリーニング。