都議選の圧勝でその力をまざまざと見せつけた小池知事率いる都民ファーストの会。その勢いのままに、自民党を離党した若狭勝衆院議員を軸に反自民票の受け皿となる国政新党結成の動きも見られます。しかし、「この新党だけで自民党に対抗できるとは考えづらい」とするのは、メルマガ『国家権力&メディア一刀両断』の著者・新 恭さん。新さんは小池氏を巡る数々の不安要素を挙げながら、その理由を明快に解説しています。

敵役が消えた小池劇場の憂鬱

ひょっとして、あの小池劇場はいったん幕を下ろしたということだろうか。

都議選が終わり、気づいたら、議会を牛耳っていた悪役連中がほとんど消えていた。ゲストスターだった石原慎太郎、森喜朗らも、敵役としては色褪せた。

これから、小池百合子都知事は何をよすがに、人気を維持していけばいいのか、さぞかし心配なことだろう。

自民党のオウンゴールとはいえ、都民ファーストの会が大勝利をおさめたことについては、ひとまず評価しなければなるまい。安倍政権に対する膨大な批判票の受け皿は、地域政党である同会しかなかったといえる。

だが、その結果、定数127の東京都議会で55議席をしめる大所帯が彼女のもとに残った。議員一人一人の人物像を知るすべはないが、小池人気を当て込んで選挙を戦った人たちの集合体だ。

すぐに一本立ちできる優秀な人もいれば、そうでない人もいる。自民党、民進党からの移籍組もいる。風を頼りに集まったぶん、物の考え方もさまざまだろう。なかには、トラブルメーカーがいないとは限らない。

人間臭い調整など、面倒なことが嫌いな小池さんが、党を運営するのはさぞかし大変では。そう思っていたら、選挙期間中だけ広告塔としてつとめた代表のポストをあっさり離れ、再び、元通り特別秘書に任せてしまった。

その理由について、小池知事は明確に答えない。「二元代表制などで懸念がある」とか言うが、大阪府では松井知事が代表をつとめる維新の会が第一党だ。けっこう大阪方式を真似ているというのに。

選挙前、少人数だったころには、都民ファーストの会の代表が、政務担当特別秘書、野田数(のだ かずさ)氏であることを、とやかく言う人はあまりいなかった。

だが、都議選で圧勝し、国政進出も含めて今後の台風の目になるかもしれない政治勢力となった今、その代表が注目されるのは当然のことだ。

そこで蒸し返されやすいのが、複数の週刊誌に報じられた「六本木高級クラブ豪遊」のカネの出所や、アントニオ猪木参院議員の政策秘書だった2013年からの約1年間に、政党助成金など計1.120万円を着服したとされる疑惑だ。

自分のカネでどんな遊びをしようと知ったことではないが、公金が遊び代に使われたと現職の参議院議員が警察に告訴したというから、全く無視はできない。しかも疑いをかけられた当の本人が、都民ファーストの会の代表に復帰したのである。

派手な遊びっぷりの「証拠写真」5枚を添えた週刊ポスト6月2日号の記事から一部を引用しよう。

高級和食店から出てきたのが午後10時。次に向かったのが六本木のクラブ「M」だった。この店は座っただけで5万円、「ボトルを入れたら最低でも10万円」…連れの男性と同じく六本木にある「B」という店に…料金は1万円前後だが、女性たちにチップとして渡す「チケット」(10枚括りで1,000円)が別途必要になる。…「野田さんはバケツのような容器に入った大量のチップを用意していました。ビキニギャルが来るとチップを束にしてパンツにねじ込んでいました。気前の良い彼の前に女の子たちは列をなし、まさにハーレム状態でした」(居合わせた客)

これらの店の常連だったという。とても自分の給料だけで賄える遊び方とは思えない。だからこそ、アントニオ猪木議員が公金流用を疑い、警察に訴え出たのだろう。

もちろんサラリーマンでも資産家がいるわけで、濡れ衣かもしれないが、やや危なっかしいところがある人物には違いない。

それでも、小池知事が彼を再び代表に据えたのは、なにがしかの信頼関係があるからだろう。AbemaTVのインタビューで野田氏は小池都知事との関係について「20年近い付き合い」「使いやすいんじゃないですかね」などと語っている。

早大教育学部を卒業し、数年間はこれといって定職に就かなかった野田氏がはじめて政治家の秘書になったのは2000年のこと。当時、保守党の衆院議員だった小池氏の事務所に入った。小池氏は小沢一郎氏の自由党に所属していたが、自由党が自公両党との連立政権を離脱したのにともない、政権に残ることを望んだグループによる保守党結成に参加したのだ。

その保守党の公認で、秘書になったばかりの野田氏が2000年の衆院選に兵庫7区から立候補するという離れ業を演じたのも、小池氏の強い後押しがなければできないことだったに違いない。

その後、野田氏は東村山市議を2期つとめ、自民党から東京都議に当選したが、やがて離党し地域政党「東京維新の会」を立ち上げた。日本維新の会の傘下団体であろうとしたのだが、2012年9月、驚くべきことが起こった。

いわゆる「大日本帝国憲法復活請願問題」である。「占領憲法が憲法としては無効であることを確認し、大日本帝国憲法が現存するとする都議会決議がなされることを求めます」という都議会への請願の紹介者となった。

野田氏の資質は、「六本木豪遊」よりも、こちらで問われなければならない。請願の趣旨に賛同したから紹介者になったのである。

現行憲法は無効で明治憲法が生きている、つまり現行憲法を守らないでもよいと考える人に政治を行う資格はない。

都議選後、野田氏を代表に戻すことに関し、ジャーナリスト・佐々木俊尚氏にその問題を問われたさい、小池知事は「若気の至りでしょ」と語ったという。

たった5年前のことを、「若気の至り」で片づける感覚はどうかしている。都民ファーストの会を、国政でも反自民票の受け皿となるよう育てたいのなら、まず地域政党である現在の段階で、政党の性格を明確にしておく必要があるのではないか。

代表者が、明治憲法に従うべきだという考えを現在も持っているのかどうか、都民、国民の疑問に真摯に答えておくべきである。

さて、冒頭の疑問に戻って、都や都議会にこれといった敵がいなくなった小池劇場は、どういう筋書きで次の幕を開けるつもりだろうか。

豊洲市場に全員、いったん移転したうえで、築地市場を再整備し、それが完成すれば、希望者は戻るという、どちらつかずの考え方は、業者の立場からは現実的ではない。都議選の争点をぼかすための方便であった可能性が高いだろう。オリンピックも、今後、現実の問題に直面し、小池知事がピンチに陥ることだってありうる。

都民ファーストの会を飛躍させるには、小池劇場の展開が不可欠であろう。そのためには、誰を敵と見なして闘うかが肝心だ。

小池氏は野田氏と政治について共感し合っているからこそ、彼を政策秘書としているはずである。核武装論を唱えたこともある小池氏は、タカ派色がかなり強い。

ならば、都民ファーストの会が、反安倍票の受け皿にほんとうになりうるのだろうか。考えれば考えるほど疑念は深まってくる。

ただし、小池氏の右派的言動を、政界遊泳術によって編み出されたものにすぎないと見る向きもあろう。もともとは、リベラルな細川護煕氏の日本新党から政治家人生をスタートさせたのだ。

日本新党から新進党、自由党。自由党から保守党、自民党へと「政界渡り鳥」を続けるうちに、政治家ビジネスをうまく進めるためのマーケティングを身につけたともいえる。

安倍政権が弱体化したのを受けて、自民党に近づくべきか、反自民の旗印を掲げるべきか。

自然の流れから言えば、自民党との対立軸を明確にして、反自民の受け皿をめざす方向だろう。情報隠ぺいの自民党を「悪」として攻撃し、情報公開の小池新党をアピールする。政治的体質そのものは自民党的であるだけに、はっきり違いを打ち出せるのはそこしかあるまい。

実際、自民党を離党し、国政政党結成の準備をしている盟友の若狭勝衆院議員は、ロイターのインタビューに「都議選を受けて、新しい風が吹き始めている。大きな流れとして国政政党も当然視野に入ってくるだろう」「自民党に代わる受け皿の党がなく、有権者の選択の余地が狭められている」と答えている。

若狭氏は自民党を離党するさい、加計学園問題などへの安倍政権の対応を批判していた。都議選やその後の国政展開を意識し、自民党との違いを強調する意図があったのだろう。

しかし、「国民ファーストの会」という呼び名になるかどうかはともかく、いくらなんでも、この新党だけで自民党に対抗できるとは考えづらい。

都議選にならって衆院選でも自公連携を切り崩すのは無理だとしても、民進党、自由党、社民党そして、共産党まで含めた野党連合を組めば、政権交代も可能になる。ただその場合、小沢一郎氏の「オリーブの木」構想のように柔軟な選挙協力の姿勢がなければ、現実には難しい。

他方、維新のように自民党の補完勢力になってしまえば、巨悪を向こうに回して女性リーダーが活躍するという小池劇場の構図は崩れ、小池新党の存在意義そのものが薄れるだろう。

いまのところ国政新党の発足メンバーとして、若狭氏のほか、渡辺喜美氏、長島昭久氏らの名前があがっている。失礼ながら、渡辺氏はみんなの党の失敗で賞味期限切れだし、防衛政策通の長島氏は地味すぎる。若狭氏は東京都知事選の応援演説を見る限り、人を集められるパワーがない。

とりあえず政党要件を満たす国会議員5人を集めてスタートしても、衆院選で全国に議員を立てるとなると、現在考えうるメンバーでは力量不足ではないか。小池知事が都政をほったらかして各地を駆けずり回るとしても、集票にはおのずから限界があるだろう。

都議選で大勝したのはいいが、小池都知事に喜びに浸っている暇はない。自民党への断ちがたい執着をかかえながら、自らがつくった都民ファーストの会をどのような方向に進めていくか。煩悶の夏である。

image by: 都民ファーストの会 - Home | Facebook

 

『国家権力&メディア一刀両断』

著者/新 恭(あらた きょう)(記事一覧/メルマガ)

記者クラブを通した官とメディアの共同体がこの国の情報空間を歪めている。その実態を抉り出し、新聞記事の細部に宿る官製情報のウソを暴くとともに、官とメディアの構造改革を提言したい。

出典元:まぐまぐニュース!