ビジネスの現場などで、さも「仕事がデキる風」に使われる言葉がある。「なるはや」「とはいえ」「ひもづける」「マター」……などがまさにそれだ。これらの言葉は、発している本人は気分が良いかもしれないが、実は要注意な言葉でもある。耳慣れたワードを発していても、意図がきちんと相手に伝わっていなかったり、ヒドい場合は逆にバカに映ったりもするのだ。その一方で、日本語には古くから伝わる「大和言葉」というものがある。

 

そもそも「大和言葉」とは?

いま使われている日本語には、中国から取り入れられた「漢語」、中国以外の国から入ってきや「外来語」、そして日本で生まれた「大和言葉」が入り乱れている。さすがに「外来語」は区別はつくものの、「漢語」と「大和言葉」の違いはあいまいになり、ふだんの生活でその差を意識することはほとんどなくなってしまった。

 

例えば、漢語でいう「開始」はどこかそっけない印象の言葉だが、大和言葉ではこれを「はじめる」という。比べると、柔らかくて丁寧な響きがあるといえるだろう。このように、綺麗で丁寧な印象を与える大和言葉は、言葉が混沌としている昨今では特に見直されており、関連書も続々と刊行されている。本稿では「大和言葉のこころえ 品のよい日本語と大人のたしなみ」(ギャンビット刊)の監修者・山岸弘子先生に、「ビジネスに転じられる大和言葉」について話を聞いた。

 

<この人に聞きました!>

山岸弘子 先生

NHK学園講師。NHK学園「話し上手は敬語から」講座で敬語指導にあたるかたわら、航空会社の社内教育にたずさわる。また、全国の大学、企業、各種教育機関、医療機関で精力的に研修・講演を行っている。著書に「一流の人が実践している日本語の磨き方」(KADOKAWA/角川学芸出版)、「一目置かれる大和言葉の言い回し」(監修/宝島社)などがある。

 

「なるはや」「とはいえ」を山岸先生の目線で解説!

ーー特にインターネットが浸透し始めた2000年代以降、言葉がどんどん変わっていっていると言われていますが、山岸先生はどう感じているのでしょうか?

山岸先生(以下:山岸) 過去にないくらい「言葉が変化している時代」と言われているのがいまですから、それは当然の流れだと思います。グローバル化やIT化ということで、世の中の仕組み、構成している人たちも変わってきていますよね。世の中が変わっていく以上、言葉が変わっていくのは、当たり前のことかと思っています。

↑ビジネスシーンで使うことが多い「なるはや」だが、普及し始めたのはここ数年のこと

 

山岸 例えば「なるはや」という言葉は、これは「早急に」「なるべく早く」という言葉を、やわらかくするために浸透した言葉。「とはいえ」も、もともとは「…とはいへど」という形で連語として使われていましたが、いまは接続詞として使われることもあるのです。私はこういった新しい言葉に否定的な意見は持っていませんが、ただ、本来の言葉からあまりにかけ離れてしまうと、コミュニケーションに支障をきたしてしまいます。大和言葉には美しい表現が沢山ありますから、言葉を吟味して使い、色々な人と充実したコミュニケーションをとることで、自分を豊かにすることができるのではないでしょうか。

 

「ここぞ!」というときに言い換えたい正しい日本語

ーー「大和言葉のこころえ」には、ビジネスの場でも多く使われるカタカナ語から転じられる大和言葉がいくつか紹介されていますが、とても興味深い内容ですね。

山岸 はい。特にビジネスシーンでは役に立つ言葉ばかりです。例えば「カバーする」というのは「穴を埋める」という意味で、社会でもよく耳にする言葉だと思いますが、ほかにも大和言葉はたくさんあります。

↑ビジネスシーンで役だつ大和言葉の一例

 

山岸 外来語(カタカナ語)をそのまま和訳すると、やはり漢語的表現になることが多く、どこか無機的でそっけなくなりがち。これをそのまま和訳せず大和言葉に転じることで、豊かで奥行きのある表現になるのです。男性ビジネスマンの方にとって特に「ここぞ」という場面では、こういった大和言葉を交えて伝えるほうがいいと思います。そうすることで、相手に信頼感や改まった印象を与えることができるはずです。

 

豊かなコミュニケーションには正しい日本語を!

ーーところで、男性と女性ではどちらが言葉が乱れていると感じていますでしょうか?

山岸 男性は公の場面で、言葉の使い方が上手な方が多いと思います。いつの時代も、男性のほうが言葉においては保守的で、意識が高い方が多かったようです。男性のほうが伝統的な言葉を好む傾向がありますが、逆に女性は新しいものが好きで、言葉もどんどん新しい使い方を取り入れていきます。

 

言葉の男女差も小さくなり、「ヤバい」「腹減った」「飯食いてぇ」といった言葉をハイヒールを履いたお嬢さんが普通に使っていたりするんですね。そういった、一部の男性がくだけた場面で使う言葉を公共の場で女性が使っているのを聞くと、言語表現も自己表現のひとつであることを大人世代が伝え忘れたのでは……と心配になります。

 

ーーそれでは、どうすれば女性も言葉づがいが良くなるとお考えでしょうか?

山岸 豊かで好印象を与える言葉を使うためには、まずご自身が「自分の言葉を増やしたい」「精神的に豊かに暮らしたい」という意識が必要となるでしょう。また、あらゆる場面で「知らない人と話をする」「コミュニケーションをとる」という機会が圧倒的に減っていて、これも言葉がやせてきている要因だと思います。人と人との関係を大切にして、思いやりに満ちたコミュニケーションを考えれば、自ずと言葉に対する関心も高まるでしょう。

 

ーーこれはビジネスの場でも同じことですよね?

山岸 はい。話し方、聞き方によって、仕事の進み方はまったく変わるでしょう。印象のよい信頼される言葉を選んで、より豊かなコミュニケーションをとっていただければと思います。

 

【参考文献】

大和言葉のこころえ 品のよい日本語と大人のたしなみ

監修:山岸弘子/絵:ホセ・フランキー(発行:ギャンビット)

 

つまるところ「デキる言葉づかい」とは、相手を思いやってより相手に伝わりやすくした正しい言葉を使うということです。「大和言葉のこころえ」を片手に正しい言葉を学び、さまざまな人とコミュニケーションをとって生活を豊かにしましょう。