「子どもが生まれた瞬間、家族はチームになりました」と語る、犬山紙子さん・劔樹人さん夫妻。ふたりは、「妻が稼ぎ、夫が主夫を務める」という、一般的には珍しいスタイルで生活しています。大黒柱である妻の妊娠・出産を機に、ふたりの生活もずいぶん変わったのだとか。

「出産後、仕事への意欲はさらに高まった」と生き生き話してくれた犬山さんと、「なるべく家を快適にして、気分良く仕事してもらえるように」と主夫業を全うするプロフェッショナルな劔さん。結婚生活で感じたメリット・デメリットを伺いました。

犬山紙子さん(左)と劔樹人さん(右)

【前回はこちら】妻が大黒柱に…バンドマン主夫と人気コラムニストの結婚生活

「僕が稼ぐよ」とは言えないけど…

--犬山さんが仕事で気負い過ぎないよう、劔さんが気を配っていることはありますか?

劔樹人さん(以下、劔):なるべく家を快適にして、気分良く仕事してもらえるようにとは思っています。「僕が稼ぐよ」と言えたらいいんですけど、これが今のところ、到底勝てそうにない。僕は、今まで安定して人並みに稼いだことがないんです。そりゃ一時的にはあったけど、音楽は人気商売だから、浮き沈みも激しくって。

犬山紙子さん(以下、犬山):仕事ができないとかじゃなくて、お金にまつわることが本当に苦手なんだよね。平気でノーギャラの案件を受けちゃったりして(笑)。でも、つるちゃんは情緒のある漫画を描くし、才能がある人だなあと思っていて。だから「私がずっと大黒柱」っていうよりはその時その時で臨機応変にやって行きたいですね。

劔:そう言ってくれるのは嬉しいけれど、自分では想像できないですね。

出産後、稼ぐのが本当に楽しい!

--才能を信じあえるのはいいパートナーシップですよね。犬山さんは出産後、仕事への姿勢はかわりましたか?

犬山:仕事もですが……お金が好き(笑)。だから、仕事欲はどんどん高まっています。教育費という目標もできて、稼ぐのが本当に楽しい! 

--仕事に追い詰められているというより、楽しめているんですね。

犬山:私が稼げなくなると、一家が路頭に迷うというプレッシャーはあるけど、仕事を続けるために、楽しむことが最優先です。優良企業に就職しても、嫌な仕事なら辞めたくなっちゃうし、そんなの安定にはならないですよね。

私はフリーランスだけど、心から楽しめている。そういう意味で、私はとても安定していると思います。「楽しい!」「やりたい!」が原動力だから、どんどん仕事に対する意欲がわくし。だからこそ、一生働き続けられると思うんです。

劔:僕も楽しいを優先させて、「貧しくてもいいから好きな仕事を」と考えてやってきました。でも、若いころはむちゃくちゃな働き方をしていたし、あの生活を続けていたら、体を壊していたかもしれない。バランスは大事ですね。

「私の収入の半分は彼のもの」

--この結婚生活で、実際に感じたメリットは?

犬山:仕事に集中できて、最高。メリットしか思い浮かばないぐらい。でも、相手がつるちゃんじゃなかったらダメだったかもしれません。「女が稼ぐなんて、俺のプライドが」とか言う人だったら、絶対無理。それだったら結婚してなかったし、独身がいい。

--強いて言うなら、デメリットは?

犬山:うーん……。やっぱり、彼のメンタルが潰れないか心配です。私は仕事で外からの評価も得られるけれど、家事って給料も出ないし、わかりにくいでしょう。私の収入は、彼が家を支えてくれることで得たお金なんです。だから、半分はつるちゃんのものだと思っています。けど、つるちゃん本人や周囲はなかなかそう思ってくれない。負い目を感じないで欲しいなと思っていますね。

--劔さんは、実際そのあたりはどうですか?

劔:自分の趣味や買い物は、自分の仕事で得た収入でまかなっているんです。これがもし、それすらお小遣いをもらう制度だったら、自分の場合は申し訳なさすぎて精神的にも厳しかったかも。

--家を外して遊ぶことについての抵抗とかありますか?

劔:もともとは予定がない日も用事をつくって外出するくらいだったんです。今は、家のことが気になるようになっちゃって、外出も以前より少なくなりましたね。それでも、「これだけは絶対!」というライブなどは、行かせてもらえるようにしています。

--行かせて「もらえる」ように……?

犬山:そう、そういうところ! 私、細かい言い回しも気になっちゃうんです。つるちゃん、やっぱり本当はしんどいのかなって。

劔:彼女に対する負い目ではなくて、もっと大きな概念と戦っているんですよ。「主夫である自分」「社会の目」「自分の考える掟」みたいなものに対して「すみませんが行ってきます」という気持ちがあるんです。

犬山:でも、当たり前の権利として思っていて欲しいんですよね、私は。そういう考えを、ほぐせたらなあって思っています。

産後クライシスがなかった理由

--「こっちが稼いでるんだから家にいるのが当たり前」とか「こっちが尽くしているんだから遊ばせろ」という関係じゃなく、お互いへの思いやりが素敵ですね。

犬山:思いやりというか、遠慮しあいも発生しているのかな?もともと、彼は自罰的な人なんです。

--上司部下ではないけれど、ホワイト企業のマネジメントみたいですね。家事って、どんどん「当たり前」のレベルが上がって、慣れてしまうものですが、感謝も積極的に言葉にしているんですか?

犬山:「美味しい」「ありがとう」は言っています。私は家事が苦手なので、それができるつるちゃんのことを本当に尊敬しているんです。産後クライシスがなかったのも、つるちゃんが率先して動いてくれたからだと思います。育児はふたりで半分ずつ分担。おっぱいが出る分、私の方がやっているように見えるかもしれないけれど、つるちゃんのほうがよく気がついてくれる。

劔:彼女も産後クライシスを本当に恐れていて、「ホルモンが狂うから仕方ないんだよ」と説明されました。僕もずっと激しく当たられたら、精神的にダメになっていたかもしれない。なかったから、本当によかったですね。育児についても、もっと彼女の負担を減らしてあげたいと思っています。

犬山:産後クライシスって、子供を守ろうとする本能らしいんです。だから、邪魔する人には攻撃的になっちゃう。けど、逆にいえば子どもを一緒に守ってくれる人にはもっともっと愛情が深くなる。なので、つるちゃんに対しても愛情はどんどん深くなっていきましたね。

結婚相手に“妥協”はない

--最後に、「家事も仕事も両方全部自分でやらなきゃ」と抱え込んでしまう頑張り屋さんの女性に向けて、アドバイスをお願いします。

犬山:相手選びとコミュニケーションをしっかり取るのはとても大切なのかもしれません。

ジェンダーにとらわれずに動いてくれる人はいいですよね。女性が働くことや、家事への「理解」じゃなくて、当事者意識を持って一緒に解決できる人。

そして、その人と役割分担について合理的に話し合う。最初に話し合いをせず、なんとなく自分が多めにやっちゃう……でもそのことについて相手は何も言ってくれない……不満が溜まる……みたいな流れが一番不毛ですから。きちんと言葉に出したり書き出したりして、明確化するのがいいんじゃないかなと思います。

劔:僕は、全部抱え込んでしまうタイプ。女性だったら、さらに出産もあるし、本当に潰れちゃったかもしれない。男女が逆だったからこそ自分が気付けたこともあると思うんです。

「主夫」というと珍しいけれど、僕と同じ境遇の「主婦」はたくさんいるでしょう? 男性だから新しく見えるし、注目もされるけれど、女性が今まで当たり前にやっていることですからね。

それぞれの夫婦に合うスタイルがあるはずだし、僕たちみたいな夫婦が「珍しい」という世の中じゃなくなればいいと思いますね。

(撮影:青木勇太)

小沢あや