嗣永桃子はプロフェッショナル・アイドルだった 後輩に“未来”託したラストステージ

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 2017年6月30日、アイドル史に深く大きな爪痕を残した“ももち”こと、嗣永桃子は15年に渡る華やかなステージから降りた。“ファンの皆さんからの愛を受信するアンテナ=小指”を折りたたんで。

「私は見てのとおり、ビジュアルもいいし、愛嬌もあるし、運まで持っているから大丈夫です! 皆さん!皆さんのほうが絶対に幸せになってください。この15年間、たくさんの愛を本当にどうもありがとうございました! 」

 嗣永桃子は、正真正銘、唯一無二のプロフェッショナル・アイドルだった。

 努力や苦悩を表に出さず、自虐はしても他者を卑下することは絶対にせず、下品なことは一切口にしない。黒髪にナチュラルメイク、ネイルもやらなければカラコンもつけず、アクセサリーも身につけない。私生活を見せることを良しとせず、SNSはおろかブログですら消極的で、いわゆる一般的な“自撮り写真”は1枚もない……、現在のアイドル事情から見れば時代に逆行するようなかなり珍しいスタイルだが、「アイドルとは手の届かぬ雲の上の存在」という彼女なりの思い描くアイドルの矜持を最後の最後まで貫き通した。

■嗣永桃子ラストライブ ♡ありがとう おとももち♡

絶対に晴れるし、絶対に大成功です!!

ももち先輩の力は物凄いんですから。

皆さんびっくりしないで下さいねー?笑

  ーー「6月29日 明日 小関舞」カントリー・ガールズ オフィシャルブログより

 前日の天気予報は雨だったし、当日も朝から雨に見舞われていた青海野外特設会場。しかし、午後には涼やかな海風が吹き込む絶好の野外ライブのロケーションとなり、あたり一面“桃色”に包まれた。

 アンジュルム、つばきファクトリー、こぶしファクトリー、Juice=Juice、ハロー!プロジェクトの各グループがオープニングアクトとして、先輩の門出を祝う。それぞれがシングル代表曲を披露していた中で、アルバム曲である「青空がいつまでも続くような未来であれ!」を雨上がりの空に小指を突き立てながら歌ったモーニング娘。’17のステージが印象的だった。

 赤鬼・船木結、青鬼・梁川奈々美、サル・小関舞、イヌ・森戸知沙希、黒子、ではなく、キジ・山木梨沙。割れんばかりの“ももち”コールの中、童話『桃太郎』モチーフの出で立ちで現れたカントリー・カールズのメンバーたち。囲んだ巨大の桃の中から、悠々と扇子を仰ぎながら陣羽織姿の嗣永が登場する。赤鬼、青鬼によって、ピンクのアイドル衣装へと早変わりすると、嗣永桃子オン・ステージが始まった。

 1曲目は「恋はひっぱりだこ(Berryz工房)」だ。2007年4月1日にさいたまスーパーアリーナで行った『2007 桜満開 Berryz工房ライブ 〜この感動は二度とない瞬間である!〜』の際、嗣永がソロで歌った思い出深い曲である。序盤はBerryz工房の楽曲を中心に進んでいく。花道を歩きながら、夏焼雅や菅谷梨沙子のパートを1人で歌いきっていく嗣永の姿は新鮮であったが、なによりも本人が嬉しそうで楽しそうで、どこか得意げで。そして、これまででいちばん綺麗だった。

 「もしも…(ハロー!プロジェクト モベキマス)」「マジ グッドチャンス サマー(Berryz工房)」と、懐かしいながらも、しっかり“一人芝居”の入る曲を選んでいるのが彼女らしい。しかし、「もしもし あ、お母さん あのね…」と印象的なセリフで始まる「マジ グッドチャンス サマー」であったが、「え?なに?電波が……」と言っておきながら、明らかにガチャンと黒電話の受話器を置く仕草であったのは、思わず突っ込まずにいられなかった。

 Berryz工房の恒例であった『七夕スッペシャルライブ』、2014年の夏祭り仕様を思い起こす浴衣衣装に身を包んだ嗣永がやぐらに乗り、会場内を移動しながらの『ももちアイドル15周年記念メドレー』は最新曲「ピーナツバタージェリーラブ(カントリー・ガールズ)」から遡っていく形で披露されていく。「ジンギスカン(Berryz工房)」「Bravo☆Bravo(Buono!)」のコールアンドレスポンスで場内を沸かせ、「ホントのじぶん(Buono!)」「恋をしちゃいました!(タンポポ)」のアイドルらしさと、「大人なのよ!(Berryz工房)」「白いTOKYO(ZYX)」で魅せる大人っぽい艶のある歌声の切り替えが絶妙だ。次々と移り変わっていく楽曲の中、抜群の歌唱力と安定感でオーディエンスを魅了していく。もちろん、コミカルな側面も外さない。「アジアン セレブレイション(Berryz工房)」では冒頭のDJ夏焼雅のセリフ「はーい、みなさん お元気?」を言いたいだけ、「スッペシャル ジェネレ〜ション(Berryz工房)」はイントロ前の「スッ!ペッ! スッペシャル ジェネレ〜ション!!」と会場一体となるコールを聴きたいだけ、というやりたい放題の自由奔放さも彼女らしい。そうそう、我々はこれまでもいつも彼女にこうやって振り回されっぱなしだった。

■ボーカリスト・嗣永桃子

 6月28日にリリースされた『嗣永桃子 アイドル15周年記念アルバム ありがとう おとももち』の中で、特筆すべきはこれまでの楽曲を1人で歌い直したカバーの秀逸さだ。現在の嗣永の歌によって新たな息吹がもたらされた珠玉の名曲たち。澄んだ歌声と丁寧な歌唱によって再確認できるメロディと浮かび上がっていく楽曲の新たな姿。良くも悪くも“つんく歌唱”とも言われ、一聴してわかるハロプロっぽさのある個性派歌唱のメンバーが多い中、こんなにも素直でまっすぐな歌唱スタイルのボーカリストは少ない。

 そんなボーカリスト・嗣永桃子が、観る者の心をさらに惹き込んでいったのは、陽も落ち始めた中盤、ピアノ伴奏による2曲だった。〈ステキな女性になりたくて〉、そう歌いながらビジョンに映し出される嗣永の横顔の美しさにドキッとする。ちょうど10年前、当時中学生だったBerryz工房には少し大人びたように思えた「VERY BEAUTY(Berryz工房)」だったが、いつしかすっかり楽曲に見合う女性になっていた。つづく、「I NEED YOU(Buono!)」は4月にラグジュアリーなライブ形式で行われた『嗣永桃子 HAPPY DINNER TIME〜ももにさちあれ!〜』や先日の『Buono!ライブ2017 〜Pienezza!〜』でもアコースティックスタイルで披露され、こみ上げてくる想いが多々あった楽曲だが(参考記事:Buono!は満員の横浜アリーナで“最高のラスト”を迎えたーーロックアイドルとしての10年間の歩み)、この日はまた違う様相を呈していた。

〈夕陽がやけに眩しかった 泣きたい気持ち堪えてた 君のいない世界は ねぇどんな世界〉

 そう静かに歌い始める嗣永と、雲の隙間から差し込む夕陽。ステージの後ろを走るゆりかもめ、遠くに望む観覧車……、その景色が思い出に溶け込み、歌声とピアノの旋律とともに忘れることのできない情景を作り出していった。

■カントリー・ガールズの嗣永桃子として

 後半はカントリー・ガールズとしてのステージだった。Berryz工房活動停止以降、「魔法が使えなくなった」と封印していた“ももち結び”姿で再登場し、大歓声が起こった。トレードマークとはいえ、たまには普通の髪型を……、とあの当時誰もが思っていた、“ももち結び”に皆が歓喜する日が来るなんて。しかも、おそらくこのももち結びをするために、髪の毛を切った様子だったのだから、なおさらだ。激しいパフォーマンスでも乱れることのない髪型であり、さぞかし多量のヘアスプレーを、などと考えていたものが、わずか数曲で通常のロングの髪型に戻っていたのを見ると、ももち結びは本当に魔法によって変幻自在なのかもしれない。

 カントリー・ガールズを従えて乱舞する「cha cha SING(Berryz工房)」を、この日約2年半ぶりに集まったBerryz工房メンバーたちはどのような想いで見ていたのだろうか。Berryz工房の活動停止が発表された後、いち早く己の進退を決め、カントリー・ガールズを兼任していた嗣永だったが、そのことからカントリーのメンバーに嫉妬した徳永千奈美としばらくの間、喧嘩していたこともあった。

 この日、もしかするとBerryz工房の一夜限りの再結成や、メンバーの登壇などを期待していたファンもいたのかもしれない。しかし、そうしたことは一切なかった。最後に彼女が選んだのはカントリー・ガールズのプレイングマネージャーとしての嗣永桃子であり、最後に見せたのは、可愛くもたくましくなった後輩たちにこの先を託す“ももち先輩”の姿だった。

 「せんぱい」ーー語りかけるように、カントリー・ガールズの5人から嗣永への送辞曲「明日からはおもかげ」が歌われる。これまでカントリー楽曲を多く手がけてきた作詞家・児玉雨子が彼女たちの関係性をあてがきした新曲だ。

〈私たちは、ももち先生の教え子 第1期生です。〉

 凛とした面持ちで口にした山木のセリフに合わせ、横一列に並んだ5人が小指を立てながら敬礼をする。遠くを見つめるその眼差しと表情は誇らしげで眩しかった。

 「愛おしくってごめんね」で冒頭のセリフを嗣永に強奪され、しょんぼり顔でじっと見つめる梁川。2番では小関が自分のセリフこそ取られまいと、嗣永とステージの場所取り合戦を繰り広げるも虚しく、まんまとセリフを奪われてしまう。そんなやり取りを見れば、嗣永がどれだけカントリー・ガールズというグループに愛情を注いできたのかは一目瞭然だった。曲の大部分がメンバーからももち先輩へのメッセージのセリフで構成されている「アイドル卒業注意事項」という、ちょっと古めかしい安易な発想の楽曲なのに、思いっきり感情を揺さぶられてしまうのは、5人に“ももちイズム”がしっかりと受け継がれている証にも思えた。そんなカントリー・ガールズであるから、嗣永が自分の最後のステージを彼女たちとだけで作り上げたいと思ったことも当然のことだったように思えた。〈未来しかなくてごめんね〉と6人のカントリー・ガールズ、最後の曲「VIVA!!薔薇色の人生」で大団円を迎えた。〈困難 荒波 大歓迎 私なら大丈夫です〉と歌い上げる、5人のカントリー・ガールズも新たな体制を迎える。

 ダブルアンコール、嗣永最後のスピーチ。自分をアイドルへ導いてくれたつんく♂への感謝にはじまり、Berryz工房、Buono!と、所属してきたグループに対しての想いを語る。「まさか、ここまでこのグループを好きになるとは思いませんでした……」カントリー・ガールズに話が移ったとき、思わず涙ぐんで言葉に詰まった。正直、今日までカントリー・ガールズとしての嗣永のステージを見ていないファンも大勢いただろうし、“Berryz工房のももち”のままで止まってる人にとっては、こんなにも母性と慈愛に満ち溢れた嗣永の姿に驚いたはず。だが、これから進もうとする教育者としての片鱗をうかがわせるそんな彼女の姿は、誰の目にも輝いて見えたはずだ。

■ありがとう、ももち

 最後の最後、「ありがとう!おともだち。(Berryz工房)」ならぬ、「ありがとう!おとももち。」を歌い終えた嗣永桃子は沈みゆくステージの中、小指を折りたたんだ。

 ハロー!プロジェクト・キッズオーディションの合格発表、2002年6月30日からちょうど15年、日にちにして5479日。歴代ハロー!プロジェクトメンバーの中で最長の在籍日数だった。

 アイドル人生をまっとうしたーー。

 そんな言葉がしっくりくる。

 思い返してみれば、バラエティ番組で加藤浩次に思いっきり蹴飛ばされたことで彼女を取り巻く状況は一変した。あの光景をテレビの前で冷や冷やしながら見ていたことを昨日のことのように思い出す。もっとも、彼女の才覚は古くからファンの知るところであったが、これを機に彼女の存在はお茶の間にまで一気に広がった。「うざい、キモイ」など言われながらも、次第に世間も彼女の凄さに気づきはじめていった。そんな彼女のことを我々ファンはいつだって誇らしく思っていたのだ。その思いはきっとこの先も変わらない。小指を折りたたんだその手が、しっかりと握りこぶしに変わったのを我々は見たのだから。あの瞬間、誰もが皆心の中で呟いたはずだ、「ありがとう、ももち」と。(文=冬将軍)