※こちらは公募企画「文春野球フレッシュオールスター2017」に届いた約100本の原稿のなかから出場権を獲得したコラムです。おもしろいと思ったら文末のHITボタンを押してください。

【出場者プロフィール】式守’サチモス’龍之介 岐阜県在住 44歳
 説明する事が難しい職種のサラリーマン。ナゴヤ球場時代のドラゴンズはいつ行ってもお客さんでギュウギュウ。ガラガラの本拠地なんて許せない! 今やってる仕事がドラゴンズの人気回復に生かせないか? を、常に考える。ナゴドが満員になるなら道化師にだってなるさ! YouTubeで覚えたツーシームとチェンジアップを武器に、今季の草野球投手成績は4試合0勝3敗1H、自責点5、失点21。

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おでこからミサイルを発射した選手に激怒したおじさん

 星野仙一様を初めて見たのは小学校2年生の夏休み。僕はお盆で親戚が集まる中、大人に混じりつまらない野球中継を見ていた。

 名古屋に近い岐阜県というお土地柄、何となくドラゴンズを応援してはいたものの、一喜一憂する大人達とは温度差アリアリ。アニメ見たいな〜とウトウトしかけていたその瞬間、大人達の「あーーっ!」という悲鳴と共に事件は起こった。

 あまり野球のルールを知らない僕でもこれはアウトになる! という平凡なフライをプロの野球選手が捕る事が出来ず、事もあろうにおでこに当て、大きく弾いたのだ。いや、弾いた! というレベルではない。おでこからミサイルが発射されたような、そんな不思議な光景だった。ミサイルはあり得ないくらい飛んで、転がって、遠くの緑色の壁まで達し、ミサイルを発射した選手でない選手が必死に追いかけ、投げ、ホームでランナーをアウトにした。再び歓声をあげる大人達! 何が起こったか分からない!?

 そして次の瞬間、僕は見てはいけないものを見てしまう……。何と投げていたおじさん投手が鬼の形相でグローブを叩きつけ、怒りをあらわにしていたのだ。

 学校の道徳では「失敗したお友達は許してあげよう」という教育を受けて来た為、おじさん投手の激しいアクションは衝撃的であり、あんなに怒る大人を初めて見た僕は言葉を失ってしまった。

 おでこミサイルの選手の気持ちを察するといたたまれない気持ちになったが、大人達は「宇野は何やっとる!」「センちゃんの気持ちは分かる!」といったような、意外なリアクションだった為、不思議の国のアリスを見ているような? 奇妙な気持ちになった。同時に「よっぽどの時は怒ってもいい」という、僕の価値観が出来上がった瞬間でもあった。

 そして、この試合をきっかけに僕のドラゴンズファン歴が始まっていくのである。


ドラゴンズファンに導いてくれた星野仙一 ©文藝春秋

仙一様愛のムチ〜小学生編〜

 仙一様と初めて対面したのは小学校5年生。あのおでこミサイルを放った宇野選手が、何とホームラン王に輝き、どっかのホテルで行われた「宇野選手ホームラン王祝賀パーティー」に父の仕事の繋がりで連れていってもらった時である。

 当時仙一様はNHK「サンデースポーツ」のメインキャスターとして名を馳せていたのだが、なんと宇野選手の大先輩という事でこのパーティーに呼ばれていたのだ。あんなに激怒してたのにパーティーには来るのか? という疑問はあったが、お茶の間のスターを目の前にドキドキ……。仙一様を少し離れた席から熱い眼差しで見つめていた。

 パーティー終盤、仙一様が来場者にサインをしてくれそうな時間を見つけると、母と一緒に近寄ってみる。だが、あまりの有名人オーラに圧倒され、用意していた色紙を渡せない。モジモジしていると、業を煮やした母が色紙を取り上げ「星野さん、息子にサインを書いてもらえませんか?」と、仙一様に聞いてくれた。

 すると仙一様はキッと一睨みするなり「坊主、サインが欲しいんだったら自分で言いに来い!(バカヤロー!)」 ※バカヤロー!は言われていないのかも知れないが、気持ち的には完全に言われてる。と、一喝! 母親に促され、恐る恐る「お願いします」と色紙を渡すと、「貸せ!」と言わんばかりに色紙を取り上げ、サラサラと
「夢・星野仙一」と書き上げ、ホレ! と、ぶっきらぼうに渡してくれた。 その後は頭が真っ白になり、帰りの道中の事も全く覚えていない。ただこの時「お願い事は人に頼まず自分でする」という人間としての基本をしっかりと仙一様から教わったのであった。


ファンにサインを書く星野仙一 ©文藝春秋

仙一様愛のムチ〜大学生編〜

 仙一様に怒られてから8年。大学生になった僕は再び熱いご指導を受ける事になる……。

 場所は甲子園球場。大阪の大学に通っていた僕は同級生のお父様から阪神巨人戦バックネット裏のチケットを頂き、初の伝統の一戦を観戦。魂みたいなものはナゴヤ球場におき、ワクワクしながら席に着くと、通路を挟んだ解説席には、なんと! 中日での一次政権を終えた仙一様の姿が! これは8年前のリベンジ! とばかり、友人に「ちょっと星野さんにサインもらってくるわ」と言い残し、イキって席を立ったものの、いざ仙一様に近づくと8年前同様、タイの動物園で見たベンガルトラのような威圧感に圧倒され、急に足がすくんでしまった。

 しかも手持ちでサインに使えそうな紙は使い古したスケジュール帳ぐらいしかなく、差し出したら怒られそうなニオイがプンプン……。しかしこのままでは仙一様に成長した姿を見せられない!

「坊主、サインが欲しいんだったら自分で言いに来い」

 幼少期に仙一様から言われた言葉を思い出し、僕は覚悟を決め放送ブースの中に入りこみ仙一様の前に立った。

「星野さん、今日は阪神巨人戦に来ておりますが僕は実家が岐阜で普段中日ファンなのでサインを下さい」

 緊張のあまり、恐ろしくまどろっこしい言い方だ。恐る恐る仙一様の顔を覗き込むと、代えたばかりの宮下が先頭バッターにフォアボールを出してしまった時のような怪訝な表情をしていた。……マズい。そう思った刹那、顔色は一変、8年前同様に僕の顔をキッと一睨みするなり「お前、本番5分前やぞ! 常識をわきまえろ!(バカヤロー!)」と一喝! ※バカヤロー!は言われていないかも知れない。恐怖でおののいている僕からスケジュール帳を取り上げると「夢・星野仙一」とサラサラ書き上げ、ホレ、と渡してくれた。

 その日は仙一様のご指導のおかげで、折角の伝統の一戦もフワフワと宙に浮いたような状態だった。ただ思い出すのは仙一様の「お前、常識をわきまえろ!」という厳しいお言葉。「勇気を出す前に、常識をわきまえる」。また僕は仙一様のお陰で大人の階段を一つ登ったのであった。

 その後、仙一様はドラゴンズを離れ、阪神、楽天の監督でご活躍されたのは周知の通り。一方の僕は社会人になってからも、仙一様と出会い、そしてご指導を受け続けるのだが……それはまた別の機会に話せたらと思う。

 僕の人生、大事なことは仙一様に教わってきた。

 一応、社会人の端くれとして仕事を任されたり、家庭を築いてこられたのも、節目節目に仙一様に怒られてきたからだ、と感謝している。

 いつかこのコラムが仙一様の目にとまり、「俺はファンにバカヤローなんて言ったことないぞ(バカヤロー!)」と怒られるのを心の片隅で期待している。


「バカヤロー!」と言っていそうな星野仙一 ©文藝春秋

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