倉敷保雄氏(左)と玉乃淳氏(右)の2人がレアル・マドリーの1年を振り返る【写真:Getty Images,中澤捺生/ジュニアサッカーを応援しよう!編集部】

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冴え渡ったジダン采配。強すぎたレアル・マドリー

まもなくヨーロッパサッカーの新シーズンが開幕する。3強による覇権争いが年々激しさを増しているリーガエスパニョーラでは、昨季も熾烈なタイトル争いが繰り広げられた。今回は5年ぶりのリーグ優勝と史上初のCL連覇を成し遂げたレアル・マドリーの2016/17シーズンの戦いぶりを、サッカー実況でおなじみの倉敷保雄氏と、独特の語り口で人気を集めるサッカー解説者の玉乃淳氏に分析してもらった。(解説:倉敷保雄、玉乃淳/構成:フットボールチャンネル編集部)

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ーー今回は昨季のレアル・マドリーについてお聞きしたいと思います。久々のリーグ優勝に加え、CL2連覇もあった素晴らしいシーズンになりました。

倉敷 レアル・マドリーはCLこそ獲っていましたけど、国内リーグの優勝は5シーズンなかったわけじゃないですか。そうなると15,6人が国内リーグを獲ったことのない選手で構成されていたと思います。そういった選手をうまく喉を乾かせながら走らせた。そして不満分子を作ることもなく、上手にスター選手も泳がせることができたという点でジダン監督の手腕は素晴らしかったですね。

玉乃 異口同音です。まさにそのとおりで、ジダン采配に尽きると思います。クリスティアーノ・ロナウドをはじめとしたスター選手は泳がせておいて、開幕当初から中盤は誰が出てもいいように育てていきました。何か「持っている」とか、現役の時はすごかったとか置いておいて、1シーズンの試合数を考えた時にジダンはこれだけ勇気をもってチームを作ることができるんだ、と驚きでしたね。

倉敷 特に最後の1ヶ月はものすごいハードスケジュールで、週に2試合は当たり前、下手すれば3試合ある中で、リーグを制覇し、そして(ジャンルイジ・)ブッフォンのいるユベントス相手にあれだけの試合をやって見せるなんて…ケチつけるところはないですね。

ーー現役選手としてやられていた玉乃さんから見て、4月に9試合を戦ったことは想像できますか?

玉乃 いや、できないですね。

倉敷 玉乃さん特に体力ないから(笑)

玉乃 5分×9試合でも無理です。まあ考えられないですよね。もちろん勝ち進むにつれて日程が厳しくなることもわかっていたと思います。ジダン監督はそれでもシーズン頭からブレずにやりましたよね。新たに獲得した選手、レンタルから戻ってきた選手を信用していたというか、育てていましたから。

倉敷 日程で言うと、マドリーは前回クラブW杯があった年に失敗しているわけですよね。最後にバルサに逆転を食らいました。昨季はクラブW杯のために延期された1試合があり、なおかつ気象条件によりスタジアムの屋根が壊れて延期されたセルタ戦がとんでもないところ(リーガ最終節の4日前、前の試合からは中2日)に組まれてしまいました。セルタもヨーロッパリーグで勝ち残っていたために、延期分が5月までずれ込むことはどこまで計算できていたのか…正直わからないと思うんですよね。

 そしてローテーションもうまかったですよね。クリスティアーノ・ロナウドをアウェイゲームとはいえ遠征に連れていかない決断はなかなかできない。二重に難しいと思います。ひとつは戦力的なこと、もうひとつは彼のプライド。そう考えると、どういう形で説得したのか興味がありますね。バルサにはクライフの時代から受け継がれてきた伝統があり、アトレティコ・マドリーもディエゴ・シメオネ監督が「チョリスモ」(編注:『シメオネ主義』という意味の造語)に代表されるように、クラブの考え方をチームに落とし込んでいる最中です。

 そこでジネディーヌ・ジダンはこれから「マドリディスモ」とマドリディスタが考えているものにどこまで近づいていくのか、興味が出てきました。次のシーズンこそジダンの真価が問われるのではないかなと、僕は思いますね。

記録を作り続けた1年。モチベーションは常に最高

ーーまだファンが求めるところまで到達していないでしょうか。

倉敷 かなり近いものを体現しているとは思いますけど、まだまだですね。例えばマドリーのサッカーではサイドバックが上がらなければ許されない中で、左のマルセロが今恐らくキャリアの中で一番いい時期を過ごしていて、右にはマドリーのカンテラ出身のダニ・カルバハルが出てきました。こういったことを突き詰めていくと、マドリーのサポーターたちは「これがマドリーのサッカーなんだ」と思えるんじゃないかな。今は7番のタイプが違って物足りないのかなと、僕は思いますけどね。ラウールのイメージがすごく強いと思うので、今の7番は素晴らしいけども違う、だからブーイングされる。あれだけやっていてもブーイングされる。あれだけやっているのにどうしてブーイングされなければいけないのか、じゃあどうすればいいの…と。つまりマドリーのサポーターもそれだけ思いが強いんでしょうね。

ーー昨季のマドリーにとってターニングポイントとなった試合はありましたか?

玉乃 ターニングポイント…あったかな。開幕から常に強かった印象ですね。負けたのはクラブW杯から帰ってきた後くらいですかね(編注:マドリーは年明けの1月12日に行われたコパ・デル・レイのセビージャ戦から、続くリーグ戦のセビージャ戦、コパ・デル・レイのセルタ戦と3試合勝ちがなく、公式戦無敗記録も40試合で途切れた)。

倉敷 でしょうね。あの時期は確実に落ちてましたね。クラブW杯前から落ちていたので、問題があるとしたらそこでしょうね。

玉乃 鹿島アントラーズとの決勝戦も結局延長までやって体力使っちゃいましたもんね。

倉敷 それでもマドリーには取りこぼしがなかったところが大きいんじゃないですか。バルサは9位以下のチームにあれだけ負けたらもうダメだと思うし、アトレティコも11月頃の負けが結局尾を引いてしまった。マドリーはそういう意味ではコンスタントに勝ち続けていた。負けなかった、記録を作っていったところが一番大きいですよね。負けない記録を作った、それから必ず点を取るという記録を続けていたことが大きかったんじゃないですか(編注:現在公式戦65試合連続得点中)。

 だからそういう状況のチームに勝てるリーガの5つのチーム(セビージャ、バレンシア、セルタ、アトレティコ、バルセロナ)は本当にすごいと思う。僕はCL決勝でユベントスが勝つと心の底から思っていたんですよ。今回はユベントスだろうって。

玉乃 マドリーの強さをあれだけ知っていて。

倉敷 マドリーの強さ、知っていましたよ。けれども僕が考えていたのは戦力とかそういうことではなくて、ジダンのユベントスに対する相性は悪いということ。フットボールの世界では時々あるじゃないですか。さらにブッフォンは幸せなキャリアで終わるのか、それとも勝てない選手のままキャリアを終えるのかに興味があったんです。僕はブッフォンに対してシンパシーを感じているので、ブッフォンが勝ったら嬉しいな、という気持ちでユベントスが勝つと予想していたんです。まあ、あんなに差がつくとは思いませんでしたよね。もう強い、本当に強い。こんなに強いチームはしばらくないと思います。さすがのドゥオデシマ(12度目のCL制覇の意味)、12回目はすごい。

「あそこまでうまい監督は、選手からも尊敬される」(倉敷)

ーー彼らは無敗記録を続けることや史上初のCL連覇をプレッシャーに感じることはないのでしょうか?

倉敷 プレッシャーと上手に向き合っていた気はしますね。マドリーが先制されて負けたゲームはほとんどないんじゃないかな。逆転勝ちや追いつくゲームがすごく多い印象で、ジダンは誰かに責任を負わせることを決してしない人だった。大幅なローテーションで負ける理由を、ジダンは初めから監督の問題だと示していた気もします。

 そうすると選手がプレッシャーを感じるゲームは少なかった気がしますけどね。「今日はC・ロナウドがいないから」とか、「ベイルが大怪我してしばらくいないから」とか、言い訳できる要素がたくさんあった状態で、記録をしゃにむに作った感じはしないですよね。だから燃え尽きることもないだろうし、そういう意味で本当に強いですよ。

 途中から出てくることの多かったアルバロ・モラタと、開幕当初はでレギュラーではなかったイスコの2人がシーズンハイの記録作っているわけですから。モラタなんか本当にすごいですよ。出場している時間から得点率を計算したら、役割は違うとしても確実に(カリム・)ベンゼマより上ですよね。そういうとっておきのジョーカーを持っていて、ジダンは彼らともしっかりコミュニケーションをとれていました。あそこまでうまい監督は、選手からも尊敬されるでしょうし、マドリーの監督になれる人は本当に限られているんだろうなと思いましたよね。

玉乃 たぶんジダンからすると、C・ロナウドも「そこまでの選手ではない」と思っているんじゃないかなと。だから本当に困った時は特にC・ロナウド頼みにしないで、マルセロやルカス・バスケスをワイドに張らせて3-5-2にしてずっと放り込みをやっていたんですよ。そして極限まで押し込んで、最後にセルヒオ・ラモスがゴールを決めるようなことができたので、決してC・ロナウドに頼っていたシーズンではないと思うんですよね。

倉敷 シーズンを通しての精神的な柱としてセルヒオ・ラモスの存在は欠かすことができないですね。“Noventa y Ramos”、つまり「90分+ラモス」という言葉も生まれました。リスボンでのCL決勝の時(13/14シーズン)、僕は現地いましたけども、アトレティコがこのまま逃げ切ると思ったら93分にセルヒオ・ラモスが点を取って、そこで力尽きたアトレティコが無残に敗れていくのを悲しく中継していた覚えがあります。あのころからセルヒオ・ラモスはすごいですよ。90分を過ぎてからでも「まだ俺たちにはセルヒオ・ラモスがいる」という精神的に大きな支えだったんじゃないですかね。

MVPは「憎みきれないろくでなし」なセルヒオ・ラモス

ーーマドリーのシーズンMVPを挙げるとすれば、誰になるでしょうか。

倉敷 僕はセルヒオ・ラモス。

玉乃 僕もセルヒオ・ラモスと言いたいんですけど、一緒でいいですか(笑)

ーーセルヒオ・ラモスをMVPとした理由を教えてください。

倉敷 彼はまず諦めない選手だということがひとつ。それから昨季のマドリーはリーグ戦においてコーナーキックからの失点がひとつもないという特殊なチームなんですね。それはやっぱりセルヒオ・ラモスによるところがすごく大きいと思います。彼にとって本当にいろいろな面でキャリア最高の1年でした。サンチェス・ビスファン(セルヒオ・ラモスの古巣セビージャの本拠地)での嫌われ方もすごい。それから退場の記録を更新してしまう。セルヒオ・ラモスは本当に、沢田研二さんではないですけれども、「憎みきれないろくでなし」という感じで、相手からもしっかり嫌われつつチームを勝たせる最高の選手だと思いますよ。

玉乃 あのセビージャのホームで、あれだけブーイング食らってもチップキックをやりますからね。どういうメンタリティなんだという…意味がわからないですよ。それでゴールを決めた後のパフォーマンスもやってしまうんですから。あのスタジアムでそういうことするのは結構シャレにならないと思うんですけどね。

倉敷 あそこでやったら命の危険を感じるくらいだよね。

玉乃 家族のことをいろいろ言われたりだとか、メンタル的にシメオネに通じるものがあるんじゃないかな。負けても絶対に負けを認めない。本当にタチが悪いと思いますよ。

倉敷 イスコも昨季は本当に良かったですね。古いタイプの10番はいらないと言われていたところから、いろいろなポジションができるようになって、最終的にCLを勝つうえで欠かせない存在になっていました。しかもすごく小柄でスペイン人が大好きなタイプ。僕は先日マラガへ行って彼の故郷でゲームを見ていましたが、本当に愛されていました。マラガの人たちはイスコのことが大好きで、それはマドリディスタにとっても同じなんですね。彼はまさにスペイン人選手そのものなんですよ。そういう選手が一番活躍してくれた。

 少し前の銀河系軍団の時に、「ジダンネス」と「パボンネス」という言葉がありました(編注:2000年代前半、マドリーのフロレンティーノ・ペレス会長はジダンら他チームから加入したスター選手を「ジダンネス」、フラシスコ・パボンら下部組織出身の若手選手のことを「パボネス」と呼び、両方を組み合わせたチーム作りを目指した)。まさに「ジダンネス」だった人間が、監督になって「パボンネス」化して、地元出身の選手をこれだけピックアップして使い続けて、最後は中心になって終わったなんて、こんなに美しいストーリーはないじゃないですか。スペイン人のセルヒオ・ラモスとイスコは昨季を象徴するマドリーの選手だったのではないかと思います。本当に良いシーズンでしたね。

C・ロナウドの変化。絶対的でなかった背番号7

玉乃 イスコはバレンシアの下部組織出身なんですよね。あの応援のされ方はマドリーのカンテラ(下部組織)出身と思うくらいですよ。

倉敷 マラガは自分たちの選手だと思っていますよね。2年間在籍していただけなのに。

玉乃 自分たちが育てたような雰囲気出していましたもんね。

倉敷 イスコがいた時のマラガは中東のお金持ちが来て、ルート・ファン・ニステルローイやホアキン・サンチェスを獲得して、黄金メンバーを作ってヨーロッパのカップ戦に出場して喜んでいたら、そこで凄い悲惨な結果になって急降下していった歴史があるんですけどね。

ーーイスコがトップ下として力を発揮し始めると、C・ロナウドが2トップの一角としてプレーする機会が増えました。それは自然な流れなのか、それともジダンがあえてやっていたものなのか、どちらだとお考えですか?

玉乃 自然にやったんじゃないですか。重きを置いたのは中盤だと思うので、前線は3トップだろうが、2トップだろうが、イスコをトップ下に置こうが、実はジダンからするとあまり関係なかったんじゃないかな。それくらい両サイドバックと4人のMFへのこだわりは強かったと思います。トニ・クロースでさえ中央ではなくて「インテリオール」(編注:中盤で守備から攻撃の組み立てまで幅広い役割をこなす選手に対するスペインでの呼称)として左サイドハーフをやっていたこともありました。究極的には前線にC・ロナウドを使わなくてもよかったのではないかというくらいでしたね。

倉敷 僕はC・ロナウドが柔軟になったんだと思います。ポルトガル代表として欲しくて仕方なかったEUROのタイトルを獲ってスタートしたシーズンだったし、あの優勝は彼が監督のように振る舞ったからだという雰囲気になっていて機嫌も良かっただろうし。そういう中で「ジダンが言うなら2トップをやってもいいよ」というところも彼の中にはあったと思います。C・ロナウドをサイドに置いてしまうことの弱点がジダンの頭の中にはあったかもしれないですよ。その辺は上手にやりましたよね。

(解説:倉敷保雄、玉乃淳/構成:フットボールチャンネル編集部)

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