医者を好み、医者と付き合い、結婚することを目指す。

そんな女性たちを、通称「ドクターラバー」と言う。

日系証券会社の一般職として働く野々村かすみ(28)も、そのひとり。

彼女たちはどんな風に医者と出会い、恋に落ち、そして生涯の伴侶として選ばれてゆくのだろうか?

医者とドクターラバーたちの恋模様は、一筋縄ではいかないようだ。

慈恵医大出身のドクター2人とお食事会をしたかすみと、同期の里帆。かすみは、内科医・城之内(34)と初デートをするも、深い話ができずに気疲れする結果に。

同期の営業マン・タケルは、かすみの元気がないことを気遣い、ご飯に誘う。しかしそこで「男の格で自分の価値を決めてる女」と辛らつな言葉を浴びせてしまい、かすみをひどく落ち込ませる。




どうも。かすみと里帆の同期の、タケルです。

先日かすみを傷つけたこと、正直、めちゃめちゃ反省しています。

「男の格で、自分の価値を決めてる女」。

あれは、さすがに言い過ぎました。かすみの目に怯えと拒絶の色が浮かんだのも、見逃しませんでした。

かすみ。

彼女を見ていると、つい意地悪を言いたくなってしまうんですよ。

いつも僕のことを「仕方ないな」って見守ってくれているような笑顔をしているけれど、一定以上は、踏みこませてくれない。

だからもっと、構いたくなるんでしょうか。

まあ、小学生男子が好きな女子をいじめる感覚に似ていますよね。

証券の営業マンって、体育会系をこじらせたガキみたいなところがあるんですよ。でもあの時は、それ以上に、ひどくイライラしましたね。

ドクターラバーって、なに?
医者と結婚したいって、なんですか?

結婚って、恋愛の結果でしかないですよね。

最初から条件ありきの結婚を目指す人間に恋愛なんてできないし、だからこそ、まともな結婚もできる気がしない。

なのに彼女たち(特に里帆)ときたら、医者の中でもイケメンがいいとか、ときめきたいとか、わがまま放題。

せめて条件ありきの結婚をするのか、恋愛するのか、どちらかにしろよと思います。

僕ですか?

僕は、結婚願望なんてありませんよ。


結婚、結婚…呪いのように繰り返す女たち。


「結婚のための結婚」の先って、何があるんですかね?


今つきあっている彼女は、僕が大学4年のときにサークルに入ってきた、3つ下の後輩です。

まだ25歳だし、仕事も楽しそうだから、向こうも結婚願望はそんなにないんじゃないですか。結婚を迫られたことは、ないですね。

それに比べて、僕の同期女子たちときたら、何かに憑りつかれたかのごとく、結婚、結婚、結婚…口を開けば、呪いのように繰り返しています。

たしかに、僕ら日系証券や商社の世界は、女を若さで評価してしまう古い体質がある。

だから若さが武器になるうちに、結婚という一生安泰のゴールテープを切っておこうという気持ちも、分からなくはない。

だけど、そういう「結婚のための結婚」の先って何があるのだろう、と思ってしまいます。そういう人生は、充実しているんですかね?

僕は、挑戦し続けていたい。

人生は、片道切符です。前進するか、考えるために一瞬立ち止まるかの、二択しかありません。

結婚を人生のゴールにする女たちって、永遠に足ぶみすることを選んだように見えるっていうのは、やっぱり言い過ぎでしょうか。


医者は忙しい。その攻略法とは?


城之内とのデートから、約1ヵ月後。

かすみは再び、城之内と目黒の『カピートロ』で向かい合っていた。隣では里帆が、うきうきと城之内に話しかけている。




「どうやったら、浅見さんをデートに連れ出せますか?」

かすみは2人の会話を聞きながら、トマトソースを絡めたタリアテッレを口に運ぶ。

手打ちパスタのもちっとした食感と、夏らしいトマトの爽やかな酸味が、口の中に心地よく広がる。思わず顔がほころんでしまう。

「浅見は硬派だからな…口実をつくるのはどう?蕎麦が好きだから、美味しいお店に誘ってみるとか」

「なるほど!調べてみます」

城之内のアドバイスを、里帆は真剣な顔つきでスマホにメモする。

この会の発端は、かすみがタケルの言葉にひどく打ちのめされているのを見かねた、里帆の提案だった。

「男の傷は、男で埋める。城之内さんを誘おう」

「え…連絡が来るまで待つんじゃなかったの?」

かすみは最初、弱気な返事をした。前回の気疲れのせいか、どうも気が乗りきらない。

「でも、もう2週間経つのよ。ドクターは忙しいの。鳴かぬなら、こちらが鳴こうホトトギス、よ」

里帆のよく分からない持論に圧され、「里帆と3人でなら」とかすみは城之内を誘った。

「お医者さんって一般に、どういうアプローチに弱いんですか?」


ドクターが好むアプローチ法とは!?




好まれるのは、「医者扱いしすぎないこと」!?


里帆は一瞬かすみの方に目配せをしながら、城之内に問う。

「城之内さん攻めの参考にしなよ」なのか、「今後のドクター攻略に活用するわよ」なのかは読めない(両方かもしれない)。

色々なタイプがいるからひとくくりにはできないけど、と前置きした上で、城之内は答える。

「医者扱いしすぎないこと、じゃないかな」

少し意外な回答に、里帆とかすみは目を丸くする。

「やっぱり職業柄、肩書き目当てで近づいてくる女性は、多いんだ」

城之内の言葉に、2人は心の中だけで顔を見合わせる。

城之内によると、ある同期は、「つくしを採りに行って、料理して食べたい」と言ったときに「面白そう!」と楽しそうにのってくれた女性と、結婚を決めたらしい。

一方で別の同期は、ベースボールキャップを真剣に選んでいたところ、「そんなの被らないでよ」と一蹴した女性と、別れを即決したという。

要は、「医者はインテリであってほしい」という勝手な理想を押しつけず、ひとりの男性として向き合って楽しむスタンスを出せるかが分かれ道、というわけだ。

城之内は、続ける。

「あとはみんな割と疲れているから、ストレートに好意を見せてくれる方がいいかな」

つまり、基本的に忙しくてかけひきを楽しむ余力がないため、直球でアプローチしてくれる方が助かるらしい。

「医者目当てです、っていうギラギラ感があると引いてしまうから、いかにさじ加減よく見せるかが勝負だよ」

城之内が里帆の方を向いてほほ笑みかける。

やんわりとけん制したように見えたのは、かすみの気のせいだろうか。

―もしかして、前回のデートで時間や年収のデメリットを話してきたのも、肩書き目当てかどうかを見定めるため…?

あの時、じっと見つめてきた城之内の瞳を、かすみは思い出す。

「その他は、ありますか?」

城之内の微妙なニュアンスをくみ取ったのか、やけに明るい声で里帆が問いかける。

恥ずかしい話だけど、と少し照れ笑いしながら、城之内は答える。

「なんだかんだやっぱり医者はプライドが高いから、褒めてあげると喜ぶかな。あとは、息抜きに飲みにいくことに理解があるように見せると、ありがたがられる」

「その辺は、私もかすみもとても理解があります!」

里帆の声が、元気よく弾ける。いいね、と城之内は笑う。

「でもやっぱり、人それぞれだよ。恋愛に正解なんてないからね」

穏やかに結んだ城之内の言葉に、かすみは思わずつぶやく。

「そうでしょうか」

予期せぬ返しに、城之内も里帆もびっくりしたようにかすみを見る。

2人の視線に顔を少し赤らめながらも、かすみはゆっくり言葉を続ける。

「温かい気持ちになること。それが、正解だと思います」

けん制という厳しさも含め、里帆の質問に親身に答えてくれる城之内に温かさを感じたからこそ、素直に出た言葉だった。

一方で、タケルに対する、靴の中に砂が入り込んだようなざらっとした気持ちが抜け切れないのもまた、かすみは自覚していた。

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「目を瞑って 口づけしよう」…迷宮に迷い込む、かすみとタケル!?