『まちのゲストハウス考』真野 洋介,片岡 八重子,明石 健治,豊田 雅子,飯室 織絵,加納 亮介,蛇谷 りえ,井筒 もめ,森岡 咲子,武田 昌大,田中 惇敏,西村 祐子 学芸出版社

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 皆さんは、ゲストハウスについてどのぐらい知っているでしょうか? たぶんほとんどの人が「話に聞いたことはあるけれど、実際に利用したことはない」と答えるのではないでしょうか。

 ゲストハウスとは、ひとことで言うと"素泊まりの簡易宿泊施設"のこと。けれど現在では、移住の窓口的な役割を担ったり、地域と旅行者をつなぐ媒介者となったり、地域コミュニティを支える担い手になったりするケースも増えています。

 そうしたゲストハウスの多面的な面白さを伝えるべく、9人のゲストハウス運営者たちに宿を始めたきっかけや運営の日々について綴ってもらい、そこから空き家活用や小さな経済圏・社会資本の創出拠点としての可能性を探っているのが、本書『まちのゲストハウス考』です。

 ここで例として、本書に登場するゲストハウスのひとつをご紹介しましょう。広島県尾道市にある「あなごのねどこ」。商店街のど真ん中にあるというこのゲストハウスは、細長い町屋を改修して作ったという、うなぎの寝床のような形状が特徴です。

 奥まで続く40メートルほどの路地は、「奥になにがあるんだろう」と宿泊客だけでなく一般の人も興味本位で入り込んでくるのだそう。1階に併設のカフェ「あくびカフェー」があるほか、路地の途中には蚤の市「神田ハウス」があったり、裏庭の奥には小さな本屋さん「紙片」があったり。この細長い路地を通して、旅人や地元の人々、スタッフなどいろんな人が行き交うところが「あなごのねどこ」の大きな魅力といえます。

 目指すは、尾道の拠点としての役割。「あなごのねどこ」を運営する豊田雅子さんは本書の中で、「ここを拠点にお風呂や食事、観光、サイクリングなど尾道のまち全体を回遊し、機能を分担できる形が理想だ」と書いています。実際、移住を考える人の滞在の場となったり、宿泊者たちが周囲の老舗に立ち寄ることで経営に貢献したりと、「あなごのねどこ」は現在、尾道のまちにどっしりと根差しながら大きな役割を果たしているようです。

 ほかにも、長野県長野市の名所・善光寺の門前にある「1166 バックッパッカーズ」、富山県高岡市で解体寸前の町屋を利用した「ほんまちの家」、ゲストハウス・日帰り温泉・カフェ&レストランの三つの顔を持つ岡山県の「あわくら温泉 元湯」など全国の個性あふれるゲストハウスが並んでいて、読んでいて飽きることがありません。

 これらのストーリーは、単なる開業体験記ではなく、ひとつのまちで生まれている「人と場所の物語」ととらえることも。ゲストハウスを営みたいと思った人の手引きの書となるのはもちろん、現在のゲストハウスの役割やあり方について知ることができる一冊となっています。そして読み終えたときには、皆さんもゲストハウスに宿泊してみたくなっているはず。地域の人々や他のゲストとの出会い、アットホームな宿での体験などはきっと、忘れられない旅の思い出となることでしょう。