重症患者を都市部に搬送する「メディカルジェット」が北海道で国内初の運航(depositphotos.com)

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 7月17日からフジテレビ系で始まる『コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』は、山下智久、新垣結衣、戸田恵梨香などの顔ぶれで3rd seasonに入る。いわずと知れたドクターヘリの活躍ドラマだが、航空救急にはもうひとつ「メディカルジェット」というシステムがある。

がん、脳卒中、心臓病などの高度専門医療が受けられない重症患者を都市部に医療搬送する小型ジェット「メディカルジェット」の国内初の運航が、7月30日から北海道で始まる(「Yahoo news」2017年7月1日)。

 空路による医療搬送は、各地で運用されている「ドクターヘリ」がよく知られているが、「メディカルジェット」による搬送は、どのような導入メリットがあるのだろう?

国内初の「メディカルジェット」が7月から北海道で運航スタート

 「メディカルジェット」は、地域の医師からの要請に基づき、必要性や緊急性を判断し、事前に陸路の搬送も含めた運航計画を作成したうえで運航する。搬送の対象は、道内の病院に入院している高度専門医療が必要な重症患者だ。

 「ドクターヘリ」は救急搬送が主目的だが、「メディカルジェット」が搬送する患者は、居住地域で受けられない高度専門医療が必要な人に限られる。

 「メディカルジェット」は「ドクターヘリ」よりも航続距離が長く、航行速度が速い、天候に左右されにくく、機内スぺ―スが広い。

 揺れや騒音が少なく、機内の気圧調整も可能なことから、患者の負担を軽減し、重症度が高く、集中治療が必要な患者の搬送に対応できるほか、専用ストレッチャー、人工呼吸器、心電図モニタ、自動体外式除細動器(AED)などの救急医療機器を完備するなど、数々のメリットがある。

道内から道外の病院へ、道外から道内の病院へ。医療の地域格差解消の第一歩になるか?

 どのような経緯から実現化に至ったのだろう?

 まず、2011(平成23)年から2013(平成25)年にかけて、北海道医師会や自治体などが構成する「北海道航空医療ネットワーク研究会」がセスナ560型「サイテーションV」とビーチクラフト200型「キングエア」の2機による研究運航を85回実施。

 その実績を踏まえ、国に実用化を要望したところ、2017年度から事業予算が組まれ、「メディカルジェット」の運航が決まった。

 「メディカルジェット」の運航で、北海道の医療環境はどのように変わるのだろう? 研究運航では、患者の傷病の状態に合わせて、緊急搬送、準緊急搬送、計画搬送に対応し、道内から道外の病院へ、道外から道内の病院への搬送も行った。

 同研究会の報告書によると、たとえば中標津空港から札幌丘珠空港まで、陸路なら5時間以上かかるが、「メディカルジェット」なら医療機関間の直線距離374.5kmの搬送時間は2時間1分に短縮した。

 道内では防災ヘリや自衛隊の航空機などが転移搬送も行っているものの、悪天候の影響、通常業務の時間的な制約、搬送地域の条件(離着陸地)などのため、必ずしも要請に応えられない。「メディカルジェット」なら、このような気象的・時間的・地理的な制約をクリアしやすいので、安全で安定した医療搬送手段として有望視されている。

 北海道庁地域医療課は「7月からの運用に活用する機材や拠点空港については、現在調整中だ。メディカルジェットの搬送は、公平な受診機会の確保につながる」と期待を込めている。

航空救急は「ドクターヘリ」と「メディカルジェット」の共生時代へ

 ヘリコプターや航空機を活用した航空救急は「ドクターヘリ」と「メディカルジェット」の共生時代に向かってテイクオフしつつある。「ドクターヘリ」の課題は何だろう?

 1995年に発生した阪神・淡路大震災の超急性期に、被災地外への傷病者搬送に医療用ヘリコプターがほとんど活用されず、多くの外傷死があったことから、全国に先駆けて、2001年4月から川崎医科大学附属病院で「ドクターヘリ」の運航がスタート。

 2016年2月現在、38道府県で46機が運航中。総出動件数は10万件以上。出動内容は、消防本部からの要請出動約70%、病院間搬送のための出動約20%、出動後キャンセル約10%。疾患別では、外傷約43%、脳血管障害約14%、心臓・大血管疾患約13%だ。

 「ドクターヘリ」は、発症から短時間で適切な応急処置のできる救急医師を救急疾患の傷病者に接触させなければならないので、機動性と迅速性が要だ。したがって、消防本部司令室が「ドクターヘリ」を要請する時は、オーバートリアージ(緊急度の過大評価)が容認されている。

 しかも、キーワード方式の導入によって、119番通報時の通報内容に予め設定されたキーワードがあれば、直ちに出動要請となる。その結果、出動件数が急増し、 基地病院で対応する医療スタッフの負担が増大した。

 今後は消防本部司令室によるドクターヘリ要請基準の定期的な見直し、運航に関連するヒヤリハットの分析、定期的な安全運航に関連する講習会の開催などにより、安全運航の精度をあげていく必要がある、さらに経済的な問題もある。「ドクターヘリ」を配備するためには、国と地方自治体の補助金約100億円以上を捻出しなければならない。その費用対効果の検証が不可欠である。

 機動力と迅速性を活かす救急搬送は「ドクターヘリ」に。高度で専門的かつ包括的な計画搬送は「メディカルジェット」に。近未来の航空救急は「ドクターヘリ」と「メディカルジェット」の共生時代へ向かっているように見える。
(文=編集部)